遺留分(相続の救済)について 札幌の行政書士やっくんが解説

遺留分、恐らくこの言葉の意味を正確に理解している方は少ないでしょう。これは遺産を相続するにあたって、故人が残した理不尽な遺言書から、身を守ってくれる法律に基づいた救済措置です。

もしあなたが、本来相続人となるべき立場であるにもかかわらず、「遺言書があるから一銭も渡さない」と言われてしまったら……。 せっかくの遺言書も、内容によっては残された家族の生活を脅かすものになりかねません。今回は、法律で守られた「最低限の取り分」である遺留分について、具体的な事例を交えて解説します。

目次

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている「最低限の遺産の取り分」のことです。 たとえ遺言書に「全額を特定の人に渡す」と書かれていても、この遺留分だけは奪うことができません。

・ 対象となる人  配偶者、子供(代襲相続人含む)、父母などの直系尊属。

・ 対象外の人   兄弟姉妹には遺留分がありません。

遺留分侵害額請求の根拠と期限

遺留分を侵害された場合に、金銭での支払いを求める権利を「遺留分侵害額請求権(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅうけん)」と呼びます。

1. 根拠となる法律

この権利は、民法で以下のように定められています。

  • 権利の発生 民法第1042条(遺留分の帰属及び割合)
  • 請求の実行 民法第1046条(遺留分侵害額の請求)「遺留分権利者及びその承継人は……
  • 受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」(第1046条1項)

2. 請求権の期限(時効)

遺留分の請求には厳しい期限があります。これを過ぎると権利が消滅してしまうため、非常に注意が必要です(民法第1048条)

【2つの期限】

1.1年間(消滅時効) 相続の開始、および遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを

知った時から1年。

2.10年間(除斥期間) 相続開始の時から10年、事実を知らなくても、10年経つと請求できなくなります。

・ 法定相続分と遺留分の対照表

相続人の組み合わせによって、それぞれの取り分は以下のようになります。

相続人の組み合わせ相続人法定相続分遺留分の割合(個別的遺留分)
配偶者のみ配偶者11/2
配偶者と子供配偶者
子供
1/2
1/2
1/4
1/4
子供のみ子供11/2
配偶者と父母配偶者
父母
2/3
1/3
1/3
1/6
父母のみ父母11/3
兄弟姉妹兄弟姉妹(順位による)なし(0円)

具体的な事例で見る「遺留分」のドラマ

葬儀の喧騒が過ぎ去り、四十九日の法要を終えたある日。妻 吉岡里恵(68歳)のもとに、見知らぬ弁護士から一通の封書が届いた。 亡き夫が残した「公正証書遺言」の謄本だった。

里恵は震える手でそれを開いた。夫とはここ10年、会話らしい会話はなかったが、それでも長年連れ添った情はある。きっと老後の自分を気遣ってくれているはずだ、そう信じていた。

しかし、そこに書かれていたのは、信じがたい一文だった。

「全財産を、広山すずに遺贈する」

頭が真っ白になった。広山すずとは、夫が通っていたスナックの、自分より一回り以上若いママの名前だった。 「まさか、あの店の女に…? 私の40年は何だったの?」 夫への情は、瞬時にしてどす黒い憎悪へと変わった。私の老後資金はどうなるのか。あの女が、夫の遺産でぬくぬくと暮らすのを指をくわえて見ていろというのか。里恵の目から、悔し涙がとめどなく溢れた。

行政書士の視点 どんなに理不尽に思えても、この遺言書は法的に有効です。しかし、里恵さんは泣き寝入りする必要はありません。法律は、長年連れ添った妻の最低限の権利を守ってくれます。それが「遺留分」です。

対処法 奥様は愛人に対し、「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」を行うことができます。 全額を渡すという遺言自体は有効ですが、奥様の取り分(通常は相続分の2分の1)をお金で支払うよう請求できます。

「お父さんは、家族思いの優しい人だったよね」 四十九日法要の席で、長男 大泉洋介(45歳)と長女・柴咲美咲(42歳)は、亡き父の思い出話に花を咲かせていた。母は既に他界しており、平凡だが幸せな家族だったと信じて疑わなかった。

その時、玄関のチャイムが鳴った。現れたのは、洋介たちと同年代の、少し影のある男だった。 「突然すみません。父の…四十九日の法要だと聞いて伺いました」

父? 男の口から出た言葉に、洋介たちは耳を疑った。男は、父が生前に認知していた、愛人との間にできた「隠し子」だったのだ。 男は、父が密かに作成していた自筆証書遺言を差し出した。

「私の全ての財産は、認知した息子、杉平健に相続させる」

「そんな馬鹿な! 父さんが俺たちを差し置いて、こんな…!」 健太の叫び声が響く。父の穏やかな笑顔の裏にあった、長年の裏切り。自分たちの「家族の歴史」が全て否定されたような絶望感。平穏だったリビングは、一瞬にして修羅場へと変わった。

行政書士の視点 どれほど受け入れがたくても、認知された子は法律上の相続人です。しかし、本妻の子である洋介さんたちにも守られるべき権利があります。突然現れた相続人に対し、正当な「遺留分」を主張する戦いが始まります。

対処法 隠し子(認知された子)も法律上の相続人です。 しかし、元々いたお子様たちにも遺留分があります。事例1と同様、隠し子に対して遺留分に相当する金銭を請求することで、生活の糧を確保できます。

「お義父さんの下の世話まで私がやったのよ! なのになんであなた達が偉そうに!」 通夜の席で、長男の嫁・柏原由紀子(仮名・50歳)の叫び声が響き渡った。

義父の介護は壮絶だった。認知症が進み、昼夜逆転の徘徊、暴言。夫である長男は仕事で忙しく、介護の負担は全て由紀子の肩にのしかかった。心身ともに限界だった5年間。 その間、都会に出て行った次男と長女は、盆正月に顔を出すことすらしなかった。「介護は長男の嫁の務めでしょ」と言わんばかりの態度で。

義父が亡くなり、遺品整理の中から一通の遺言書が見つかった。

「私の介護を献身的にしてくれた長男夫婦に、全財産を相続させる。親不孝な次男と長女には一銭も渡さない」

「当然よ! これが報いね」と溜飲を下げた由紀子。 しかし、遺言書を見た次男と長女の態度は豹変した。「親父はボケてたんだ! こんな遺言書無効だ! 俺たちにももらう権利がある!」と、遺産の分け前を要求してきたのだ。鬼の形相で権利を主張する義弟たちを前に、由紀子は呆然と立ち尽くした。

行政書士の視点 お気持ちは痛いほど分かりますが、たとえ「一銭も渡さない」と書かれていても、次男と長女には法律上「遺留分」を請求する権利が残ってしまいます。感情論だけでは解決できない、法律の冷徹な一面です。

結論  遺言書に書くことは自由ですが、次男や長女が納得せず「遺留分」を請求した場合は、渡さないことは不可能です。 どれほど介護の功績があっても、他の兄弟の遺留分を法的に消滅させることは非常に困難です。


遺留分は、こうした愛憎劇の「最終的な落とし所」を法律で決めた制度でもあります。 次の章では、感情論を一旦脇に置き、法律が定める「具体的な金額と請求方法」について冷静に解説していきます。

相続させたくない場合の特殊な事例(廃除・欠格)

どうしても「この人には渡したくない」という場合に、遺留分すら剥奪する制度があります。

1.相続欠格(けっかく): 被相続人を殺害しようとした、遺言書を偽造したなど、著しい不正行為があった場合に自動的に資格を失います。

2.相続廃除(はいじょ): 被相続人に対して虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合、生前に家庭裁判所へ申し立てるか、遺言書で指定することで相続権を剥奪できます。

※ハードルは非常に高いです。

遺留分を事前に「放棄」してもらう方法

被相続人が亡くなる前(存命中)であっても、本人の意思であれば遺留分を放棄させることが可能です。

※ 相続放棄は被相続人の死後でなくては出来ません。

  • 方法 本人が家庭裁判所へ申し立てを行い、許可を得る必要があります。
  • 条件 「無理やり書かされた」ものではなく、本人の自由意思であることや、放棄する代わりに生前贈与を受けているなどの「妥当な理由」が必要です。

絶縁して居所がわからない子供がいる場合

「連絡も取れない子に遺産を渡したくない」という悩みは多いです。

  • 対処法 まずは行政書士等の専門家に依頼し、戸籍や住民票を辿って現住所を特定します。
  • それでも不明な場合 「不在者財産管理人」を選任するなどの法的手続きが必要になりますが、勝手に「いないもの」として遺産分割を進めることはできません。

行政書士からお伝えしたい「遺言書の重要性」

遺留分があるからといって、遺言書が不要なわけではありません。

  • 争いを最小限にする 「なぜこのような配分にしたか」を記す「付言事項(ふげんじこう)」に真心を込めて書くことで、親族間の感情的な対立を防げる場合があります。
  • 円滑な名義変更 遺言書があれば、銀行の手続きなどがスムーズに進みます。

やっくんからのメッセージ

相続は、単なる財産の分け合いではなく、残された方々のこれからの人生に関わる大切な問題です。 「DX化が進む中でも、お一人おひとりに寄り添い、誠意を持って解決のお手伝いをしたい」という想いで取り組んでおります。

遺留分を考慮した「争いにならない遺言書」の作成について、まずはゆっくりお話をお聞かせください。

(ただし60分まで)

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