遺産相続が発生した際、多くの方が直面し、そして最も強い不安を抱く問題の一つが「ローンが残っている不動産の相続」です。
「親から実家を相続することになったけれど、まだ住宅ローンが残っているらしい……」 「亡くなった父が、投資用のアパートをローンで購入していたことが判明した」
大切なご家族を亡くされた悲しみの中で、こうした「借金」の存在を知ると、今後の生活への不安で胸が押しつぶされそうになるかもしれません。特に、ご自身が高齢であったり、複雑な手続きや専門用語(DX化されたオンライン手続きなど)に苦手意識をお持ちであったりする場合、パニックに陥ってしまうのも無理はありません。
しかし、どうかご安心ください。ローンが残っている不動産を相続したからといって、必ずしもご遺族がその借金をすべて背負い、生活が破綻してしまうわけではありません。正しい知識を持ち、適切な手順を踏めば、ご自身の生活を守りながら解決する道は必ず開けます。
本記事では、ローン残債のある不動産相続における基本的な考え方から、「団体信用生命保険(団信)」の仕組み、注意すべき「フラット35」の落とし穴、そして「アパート経営などの投資用ローン」を引き継ぐ際の重要ポイントまで、分かりやすく丁寧に解説いたします。
不動産とともに「ローン(債務)」も相続されるのが大原則
まず、相続の基本ルールを確認しておきましょう。 相続とは、亡くなった方(被相続人)の預貯金や不動産といった「プラスの財産」を受け継ぐだけでなく、借金や未払いの税金といった「マイナスの財産(債務)」もすべて引き継ぐことを意味します。
したがって、住宅ローンやアパートローンなどの借入金が残っている不動産を相続する場合、原則としてそのローンを返済する義務も、相続人の方々が引き継ぐことになります。
「親が組んだローンなのだから、自分には関係ない」と放置してしまうと、金融機関から一括返済を求められたり、最悪の場合は不動産が競売にかけられたりする恐れがあります。ローンが残っていることが発覚した場合は、一刻も早く状況を把握し、対策を講じる必要があります。
しかし、ここで絶望する必要はありません。多くの場合、住宅ローンの相続においては「ある保険」がご遺族を救ってくれます。
通常は「団体信用生命保険(団信)」加入のため問題ない
ローン残債のある不動産相続において、最も重要かつ救いとなるのが「団体信用生命保険(通称:団信)」の存在です。
団信とは、住宅ローンの返済中に、債務者(ローンを組んだご本人)が死亡、または所定の高度障害状態に陥った場合に、生命保険会社が債務者に代わって残りの住宅ローン全額を金融機関に支払うという保険制度です。
簡単に言えば、「ローンを組んだ人が亡くなったら、保険金でローンがゼロになる」という仕組みです。
現在、民間金融機関(銀行や信用金庫など)で一般的な住宅ローンを組む場合、この「団信への加入」が融資の必須条件となっていることがほとんどです。 つまり、親御さんが銀行で住宅ローンを組んで実家を建てたのであれば、高い確率で団信に加入しています。
親御さんがお亡くなりになった時点で団信の適用条件を満たせば、残っていた数千万のローンは保険金によって完済されます。その結果、相続人の方々は「ローンがなくなった、純粋なプラスの財産としての不動産」だけを相続することができるのです。これなら、今後の返済に苦しむことはありません。
「加入しているから自動的にローンが消える」わけではない点に注意が必要です。金融機関は、債務者が亡くなったことを自動的に把握できるわけではありません。
① 金融機関への連絡
まずは、ローンを組んでいる金融機関に「名義人が亡くなったこと」を連絡します。
② 必要書類の提出
金融機関から送られてくる団信の保険金請求書などの書類に記入し、戸籍謄本や死亡診断書、印鑑証明書などの必要書類を添えて提出します。
③ 審査と完済手続き
保険会社による審査が行われ、問題がなければ保険金が支払われ、ローンが完済となります。その後、不動産に設定されている「抵当権(金融機関の担保権)」を抹消する手続きを行います。
この手続きを放置したままにすると、ローンが引き落とされ続けたり、延滞扱いになったりするトラブルが生じます。相続が発生したら、真っ先にローンの借入先を確認し、連絡を入れましょう。
フラット35の罠! 団信が任意のためローンを引き継ぐケース
前章で「通常は団信があるから安心」と述べましたが、大きな例外が存在します。それが、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供している全期間固定金利型住宅ローン「フラット35」を利用しているケースです。
民間の住宅ローンが団信加入を「必須」としているのに対し、フラット35は長らく団信への加入が「任意(自由)」とされていました。
※ 2017年10月以降の申込受付分からは団信付きが基本となっていますが、それ以前の契約や、あえて団信を外して契約しているケースがあります。
なぜ団信に加入しない人がいるのでしょうか? 主な理由は以下の通りです。
① 健康上の理由
過去の病歴などで団信の審査に通らなかったが、フラット35本体の融資審査には通ったため、団信なしで家を購入した。
② 費用の節約
団信の特約料(保険料)を節約するために、あえて加入しなかった。
③ 別の生命保険でカバー
すでに加入している一般の生命保険の死亡保険金でローンをカバーできると考え、団信を外した。
もし、亡くなった方が団信に加入せずにフラット35を利用していた場合、保険金でローンは相殺されません。つまり、残っている数百万〜数千万円のローンを、相続人がそのまま引き継いで毎月返済していく義務が生じます。
これは、ご遺族にとって非常に重い負担となります。
団信がないローンの相続に直面した場合、相続人は自身の生活を守るために、以下のいずれかの対応を決断しなければなりません。
選択肢1
不動産を相続し、ローンも引き継いで返済を続ける: 相続人に十分な収入があり、その家に住み続けたい場合は、金融機関と協議の上で債務を引き受け、返済を継続します。これを「免責的債務引受」などと呼びますが、相続人自身の返済能力の審査が改めて行われる場合があります。
選択肢2
不動産を売却してローンを返済する: その家に住む予定がない場合や、返済能力がない場合は、不動産を売却してその代金をローンの返済に充てます。売却額がローン残高を上回れば(アンダーローン)、手元にお金が残ります。しかし、売却額がローン残高を下回る場合(オーバーローン)は、不足分を相続人の自己資金で持ち出し返済しなければ売却自体が難しくなります(任意売却という特殊な方法をとる場合もあります)。
選択肢3
相続放棄をする: 不動産の価値よりもローンの残債が明らかに多く、自腹を切ってまで払えない場合は、「相続放棄」を検討します。相続放棄とは、家庭裁判所で手続きを行うことで、プラスの財産もマイナスの財産も「一切受け継がない」とする強力な法的手続きです。 【重要】相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に行う必要があります。期間を過ぎると単純承認(すべての借金を引き継ぐ)とみなされるため、時間との勝負になります。
親の遺品整理の中でフラット35の契約書を見つけたら、まずは「団信に加入していたかどうか(機構団信の証書があるか)」を確認してください。
アパート経営など「事業用ローン(投資用不動産)」の相続
さて、ここまでは「自宅(マイホーム)」の住宅ローンについて解説してきましたが、もう一つ非常に複雑で注意を要するのがアパートやマンションの経営を目的としたローン(アパートローン・不動産投資ローン)を残して亡くなったケースです。
アパートローンは、自分が住むための住宅ローンとは異なり、第三者に貸し出して家賃収入を得る「事業」のための融資です。そのため、金融機関の審査基準やローンの性質が大きく異なります。
アパートローンの場合、団信への加入は義務ではない(あるいは加入できない)ケースが多く見受けられます。 もちろん、投資用ローン向けの団信(事業用団信)に加入しているケースもありますので、まずは契約内容の確認が最優先です。もし団信に加入しており、保険金でローンが完済されれば、相続人は「ローンなし・家賃収入あり」の優良な収益物件を手に入れることができます。
しかし、団信に加入していなかった場合、相続人は「数千万〜数億円規模のアパートローン」と「アパート経営という事業そのもの」をセットで引き継ぐことになります。
ローン残債のあるアパートを相続した場合、「そのまま経営を続けるか」「売却するか」「相続放棄するか」の判断は、マイホームの時以上にシビアな数字の計算が必要になります。ここでは、ファイナンシャル・プランニングの視点から重要なチェックポイントを挙げます。
① キャッシュフロー(収支)はプラスか?
毎月入ってくる「家賃収入」から、引き継いだ「ローン返済額」、固定資産税、管理会社への委託費、火災保険料、そして修繕のための積立金を差し引いて、手元にお金が残る(黒字になる)のかを緻密に計算する必要があります。帳簿上は黒字でも、実際の現金の流れ(キャッシュフロー)がマイナスであれば、相続人の預金から持ち出しになり、生活が破綻してしまいます。
② 空室リスクと修繕リスク(特に札幌・北海道エリアの注意点)
札幌を始めとする積雪寒冷地では、アパート経営における「雪対策」と「寒冷地仕様の設備」が収益に直結します。
・ 除排雪のコスト: 敷地内の駐車場や屋根の雪下ろし・排雪費用は、毎年確実にかかる大きな経費です。
・ 凍結防止と暖房設備: 水道管の凍結破裂リスクや、ボイラー・暖房器具の寿命(おおむね10年〜15年)による大規模な交換費用を見込んでおく必要があります。
・ 築年数と空室率: 築年数が古いアパートの場合、札幌市内でも空室が埋まりにくく、家賃を下げるしかなくなり、収支計画が崩れる危険性があります。
・ 所得税と相続税への影響: アパートを引き継げば、家賃収入は相続人の「不動産所得」となり、毎年確定申告を行い、所得税や住民税を納める必要があります(簿記の知識が役立つ場面です)。一方で、アパートなどの貸付事業用宅地は、一定の要件を満たすことで相続税の計算上「小規模宅地等の特例」が適用され、土地の評価額が最大50%減額されるという税務上の大きなメリットもあります。
アパート経営は事業であるため、複数の相続人(例えば兄弟3人)で「共有名義」にして引き継ぐことは絶対に避けるべきです。将来の大規模修繕や売却の際に、全員の意見が一致せず、身動きが取れなくなる「共有物分割トラブル」の典型例となるからです。
アパートとローンを引き継ぐ後継者を「1人」に絞り、その他の相続人には代償金(現金)を支払うなどの調整が必要となります。この合意形成を法的にまとめるのが「遺産分割協議書」の作成です。
解決に向けた具体的な手続きの流れと専門家の活用
ローン残債のある不動産の相続が発生した場合、パニックにならず、以下の手順で冷静に対処を進めましょう。
まずは、亡くなった方が遺言書を残していないか確認します。遺言書がなければ、法定相続人(配偶者や子供など)が誰になるのか、戸籍謄本を出生まで遡って収集し、確定させます。これは専門的な作業になるため、我々行政書士にお任せいただくことが多い部分です。
・ プラスの財産: 預貯金、有価証券、不動産(登記事項証明書や固定資産税評価証明書で確認)。
・ マイナスの財産: 住宅ローン、アパートローン、その他の借入金、未払い金。
・ 契約関係の確認: 金融機関から「残高証明書」を取得し、同時に「団信加入の有無」を必ず確認します。
Step 2の調査結果に基づき、相続開始を知った日から3ヶ月以内に、財産と借金のどちらが多いかを判断し、引き継ぐか放棄するかを決定します。
相続放棄をせず引き継ぐことを決めた場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行います。「誰が不動産を取得し、誰がローンを引き受けるのか」を明確に決めます。金融機関が絡むため、「妻が家をもらうけれど、ローンは息子が払う」といった変則的な取り決めは金融機関の承諾を得られないケースが多いため、事前相談が必須です。話し合いがまとまったら、「遺産分割協議書」を作成し、全員の実印を押印します。当事務所では、この遺産分割協議書の起案・作成を正確にサポートいたします。
遺産分割協議書を持参し、金融機関にて名義変更手続き、あるいは団信による完済手続きを行います。
法務局にて、亡くなった方から相続人へと不動産の名義を変更する「相続登記」を行います。2024年4月1日から相続登記は義務化されましたので、放置は厳禁です。
※ 実際の登記申請手続きは、提携する司法書士に依頼・連携してワンストップで進めます。
相続財産の総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に「相続税の申告と納税」が必要です。また、アパートを引き継いだ場合は、翌年の3月15日までに確定申告が必要になります。
※ 税務申告については、提携する税理士と連携してサポートいたします。
よくあるご質問(Q&A)
ここでは、ローン残債のある不動産相続について、実際によく寄せられるご質問に3つお答えします。
まとめ ~ 不安な時は、まず一度立ち止まってご相談を
ここまで、ローン残がある不動産の相続について、3つの重要なポイントを中心に解説してきました。
① 一般的な住宅ローンは、「団信」によって保険金で完済されるため、通常は問題なく相続できます。
② 「フラット35」などの一部のローンでは、団信が任意だったケースがあり、その場合はご遺族が多額のローンを引き継ぐリスク(罠)が潜んでいます。
③ 「アパートローン」などの投資用不動産の場合は、事業としての収益性や雪国特有の維持管理コストを冷静に計算し、引き継ぐか売却・放棄するかを慎重に判断する必要があります。
「借金がある」と知ると気が動転してしまうものですが、団信の存在や、相続放棄という法的な防衛手段を知っていれば、最悪の事態は回避できます。
一番やってはいけないことは、「見て見ぬふりをして放置すること」と、「よく分からないまま金融機関の書類に言われるがまま実印を押してしまうこと」です。
札幌周辺で、ご家族が遺されたローン付き不動産の相続についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、一人で抱え込まず、ぜひお早めに当事務所にご相談ください。 長年培ってきた法務およびファイナンシャル・プランニングの知識を総動員し、あなたとあなたのご家族の生活を守るための最善の解決策を一緒に見つけていきましょう。初回の無料相談から、親身になってお話を伺います。
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