人生には、想像もしなかった突然の出来事が起こるものです。特に「相続」は、それまで平穏だった家族の日常を一瞬にして変えてしまう可能性を秘めています。
もし、長年連れ添った最愛の夫が急逝し、その後に「自分の知らない夫の子供」が突然目の前に現れたら……あなたならどうしますか?
今回は、読者の皆様に相続のリアルと危機管理への理解を深めていただくため、一つの物語をお話します。「遺産分割協議」での感情がぶつかり合い、家庭裁判所の「調停」にまで発展してしまいそうな危機をどう乗り越えるべきか、また、そうならないために生前からできる予防策について、専門家である行政書士の視点から詳しく解説いたします。
ある札幌の平穏な家庭に起きた信じがたい出来事
68歳、あまりにも急だった夫の死
札幌市内の閑静な住宅街で暮らす、ある主婦(真由美さん 65歳)の物語です。
真由美さんの夫(武志さん)は、68歳という若さで突然「くも膜下出血」で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。前日まで元気に過ごしていたため、まさに青天の霹靂(へきれき)です。当然のことながら、遺言書などは一切残されていませんでした。
葬儀を終え、少しずつ気持ちの整理をつけながら、真由美さんは同居する長男(涼真さん)とともにこれからの生活や手続きについて考え始めました。夫名義の自宅(土地・建物)や預貯金を整理するため、まずは知り合いの行政書士に「遺産分割協議書」の作成を依頼することにしたのです。
「前妻との間に子供はいない」という言葉の真実
真由美さんは、夫から生前こう聞いていました。
「前の女房とは、君と結婚する3年前に離婚している。子供はいなかったし、養育費の支払いも一切なかったよ」
そのため、今回の相続人は、妻である自分と、夫との間に生まれた長男(涼真さん)の2人だけだと完全に信じ切っていたのです。
しかし、手続きを依頼された行政書士が、相続人を確定するために夫の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(除籍謄本・原戸籍など)を職権で取り寄せ、綿密に調査を進めたところ、驚愕の事実が判明します。
行政書士から告げられた言葉は、真由美さんの耳を疑わせるものでした。
「ご主人の前妻との間に、娘さんがお一人いらっしゃいます」
夫の古い戸籍には、確かに前妻との間に生まれた長女の記載が残っていたのです。どれだけ生前に「子供はいない」と言われていても、戸籍に記載されている以上、その娘さんは法律上の「第一順位の法定相続人」となります。つまり、彼女の同意がなければ、自宅の名義変更も、預貯金の解約も、一切の手続きが完全にストップしてしまうという過酷な現実が突きつけられたのです。
前妻の言葉 「相続は必要ない」
混乱と不安の中、真由美さんは行政書士のアドバイスを受けながら、なんとか前妻の連絡先を調べ、事実の確認と連絡を取りました。
電話口に出た前妻は、元夫の急逝に驚きつつも、当時の事情をこう話してくれました。
「あの時の離婚の原因は自分にあった。だから、娘の親権をもらう代わりに、財産分与も養育費も一切もらわないという約束にしました。だから、今回の夫の相続についても、娘には遺留分(最低限保障された相続分)を含めて、一切の財産を受け取る権利はないし、必要ないです」
この言葉を聞き、真由美さんは一瞬だけ胸をなでおろしました。「前妻がそう言ってくれるなら、娘さんも納得してくれるかもしれない」と淡い期待を抱いたのです。
娘の主張 「母が言ったことは関係ない」
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。
実際に遺産分割協議の場に当事者として現れた前妻の娘(麻美さん 33歳)は、母親とは全く異なる冷徹なスタンスをとったのです。
「母が当時どういう約束をしたかは、私には関係ありません。私は父の子供であり、法律で認められた相続人です。家を含めたすべての財産について、法定相続分である4分の1をきっちりと要求します」
この主張に、真由美さんと涼真さんは凍りつきました。
この家族における、法律上の正しい法定相続分は以下の通りになります。
① 妻(真由美さん): 2分の1
② 長男( 涼真さん): 4分の1
③ 前妻の娘(麻美さん): 4分の1
前妻の娘が主張している「4分の1」という数字は、日本の民法が定めた正当な「法定相続分」そのものです。親同士が過去にどのような離婚合意をしていようとも、子供自身の相続権を親が勝手に放棄させることは法律上できません。娘側からすれば、感情論は抜きにして、正当な権利を主張しているに過ぎないのです。
もしも調停になってしまったら? 費用と期間の現実
お互いの主張が平行線をたどり、話し合い(遺産分割協議)が決裂した場合、最終的には家庭裁判所へ「遺産分割調停」を申し立てることになります。
しかし、安易に「話し合いが拉致があかないから調停にしよう」と考えるのは非常に危険です。物語から一度離れ、実際に調停に発展した場合に待ち受ける、金銭的・時間的・精神的なコストの現実を直視してみましょう。
行政書士は書類作成や手続きの専門家ですが、相手方との「交渉」や「裁判所の代理人」になることは法律上できません。調停となれば、弁護士に依頼することになります。
弁護士費用は、一般的に「着手金(最初に支払う費用)」と「報酬金(解決時に成果に応じて支払う費用)」に分かれます。多くの法律事務所が採用している経済的利益を基準とした一般的な目安は以下の通りです。
※ 事案の難易度や事務所によって異なります。
| 項 目 | 経済的利益(請求・獲得する額) | 弁護士費用の一般的な目安(税別) |
| 着手金 | みなし相続分の時価による | 相続分の額の 約5%~8%(最低20万-30万円~) |
| 報酬金 | 最終的に獲得した財産の額による | 獲得額の 約10%~16% |
仮に、亡くなった夫の残した総財産(自宅+預貯金)が「3,000万円」だったとします。前妻の娘が主張する4分の1(750万円)を巡って争う場合、真由美さん側が弁護士を立てると、着手金だけで30万~50万円、無事に解決した際の報酬金で数十万~100万円程度、トータルで100万円以上の弁護士費用が吹き飛んでしまうケースが多々あります。
さらに、相手方(前妻の娘)も弁護士を立てれば、お互いに多大な費用を支払って財産を削り合うという、非常に不毛な構図が出来上がってしまいます。
裁判所の調停は、申し立てたらすぐに終わるものではありません。
調停期日は、およそ「1ヶ月~1ヶ月半に1回」のペースでしか開かれません。1回の調停で決まることは少なく、お互いの主張や財産目録の提出、鑑定などを繰り返すため、驚くほど長期間化します。
・ 平均的な期間: 約1年前後
・ 揉めた場合の期間: 2年~3年以上に及ぶことも珍しくありません。
この期間中、ずっと「遺産争いをしている」という重い精神的負担を背負い続けなければなりません。札幌家庭裁判所に何度も足を運び、精神的にすり減っていく日々は、想像以上に過酷です。
財産のほとんどが「土地と家」の場合の方法
今回のストーリーで最も頭を悩ませるのが、「夫の残した財産のほとんどが土地と家であり、そこに現在、母(真由美さん)と長男(涼真さん)が同居している」という点です。
預貯金が数千万円あれば、そこから前妻の娘に4分の1を支払って解決(代償分割)できます。しかし、手元にキャッシュ(現金)がない場合、どうすればよいのでしょうか。現実に即した最善の解決策をいくつか提示します。
現在の自宅に真由美さんと涼真さんが住み続けるための、最も現実的かつ王道の解決策です。
自宅(土地・建物)を真由美さん(または涼真さん)が丸ごと相続する代わりに、前妻の娘の法定相続分(4分の1)に相当する「現金(代償金)」を、真由美さん側のポケットマネーから支払う方法です。
- メリット: 自宅を守ることができ、住み慣れた札幌の家を売却する必要がない。
- 課題: 真由美さん自身、または長男が、前妻の娘(麻美さん)を納得させられるだけのまとまった現金(数百万円単位)を自前で用意しなければならない。
2020年(令和2年)に新設された比較的新しい法律上の権利です。
自宅の権利を「所有権」と「居住権(住む権利)」に切り分けます。
- 方法: 真由美さんが「配偶者居住権(終身、または一定期間)」を取得し、建物の「所有権」の価値を下げた状態で涼真さんや前妻の娘(麻美さん)に割り振る、あるいは売却を前提とした交渉を行う。
- メリット: 真由美さんは亡くなるまで、または設定された期間中、無償でその家に住み続けることが法律上保障されます。
- 課題: 前妻の娘(麻美さん)の理解がないと不可能
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前妻の娘(麻美さん)が求める「4分の1」の基準となる「自宅の価値」をいくらに設定するかで、支払う額は大きく変わります。
相手方が「利便性の良い札幌の土地だから高く売れるはずだ」と、路線価や固定資産税評価額とかけ離れた高額な時価を主張してくることがあります。
- 対策: 信頼できる不動業者に「売りに出した場合の現実的な査定書」を出してもらい、客観的な数字をベースに「この金額の4分の1(現金)で納得してもらえないか」と、粘り強く交渉します。感情論ではなく、明確な数字を示すことが早期解決への一歩です。
冷静に話し合いを進めるための「心がまえ」
前妻の子供との遺産分割協議において、最も大切なのは「感情をぶつけないこと」です。真由美さん側からすれば「急に現れて大切な家を奪おうとする存在」に見えるかもしれませんが、相手にも相手の言い分と、法律上の正当な権利があります。
以下の3つの心がまえを、常に頭の片隅に置いておいてください。
「主人は子供はいないと言っていた」「前妻が要らないと言った」という過去の経緯は、今の法律の前では無力です。相手の娘さんは、あなたの家庭を壊しに来た悪者ではなく、単に「法的に認められた自分の権利を主張している一人の人間」として、一歩引いた視点で接することが重要です。
相手が「4分の1をよこせ」と言ってきたからといって、すぐに「家を売って追い出される」わけではありません。上述の通り、代償金の分割払いや、時期をずらしての精算など、話し合いの余地はいくらでもあります。まずは冷静に、相手の「本当の目的(お金が欲しいのか、それとも父親に無視されていたことへの意地なのか)」を見極めましょう。
どうしても直接顔を合わせると感情的になってしまう場合は、行政書士などの専門家に依頼し、客観的に作成された「遺産分割協議案」を郵送する形でアプローチを始めるのが賢明です。直接の口論を避けるだけで、調停への発展確率を大幅に下げることができます。
こうならないための予防措置 行政書士の行うこと
今回の物語のような悲劇(急逝、戸籍チェックでの発覚、親族間の対立)を防ぐために、私たち行政書士のような専門家が生前からお手伝いできる強力な「予防措置」があります。
もし、この記事をお読みの方で、「もしかしたら自分や夫にも似たような過去があるかもしれない」「今のうちに家族の憂いを無くしておきたい」と思われる方がいれば、以下の対策を強くお勧めします。
行政書士の重要な業務の一つに、「職権による戸籍謄本の収集」があります。 本人や家族が「昔のことだから」「子供はいないと聞いているから」と思っていても、念のために出生から現在までのすべての戸籍を遡って取得し、本当に隠れた相続人がいないかを100%の確度で調査します。 これにより、万が一、前妻との子供や、認知した子供が存在した場合でも、「生前に事実を把握し、対策を打つ」ことが可能になります。
今回の事例において、もしご主人が生前にたった一枚、「すべての財産を現在の妻(真由美さん)および長男(涼真さん)に相続させる」という遺言書を残していれば、状況はかなり変わっていました。
① 遺言書があった場合のメリット
遺言書があれば、前妻の娘(麻美さん)の同意(遺産分割協議への出席や実印)がなくても、真由美さんと涼真さんだけで自宅の名義変更や預貯金の解約手続きをスムーズに進めることができます。
② 遺留分への配慮
確かに前妻の娘には、遺言書があっても最低限の財産を請求できる「遺留分(今回の場合は全体の8分の1)」がありますが、これはあくまで「金銭(お金)」で請求できる権利(遺留分侵害額請求)に過ぎません。「家をよこせ」と言われる筋合いはなくなり、自宅が乗っ取られる危険性は完全に排除できます。さらに、あらかじめ遺留分相当の現金を準備しておく、あるいは生命保険を活用して長男に現金を残すといった「遺留分対策」を行っておけば、完璧な防御壁となります。
私たち行政書士は、公証役場との綿密な打ち合わせを行い、後から無効と言われない、極めて安全性の高い「公正証書遺言」の文案作成から手続き完了までをトータルでサポートいたします。
これらは全て災いが起きる前の「予防」です。これは行政書士の重要な業務です。逆に災い(紛争)が起きれば「治療(調停等)」が必要となります。ここからは弁護士の出番です。前述したとおり、こうなりますと、資金と年月が重い負担となります。従い、「備えあれば患いなし」です。心配な方はぜひ行政書士を頼って下さい。
まとめ ~ 調停を避け、円満な解決へ向けて
フィクションとしてご紹介した真由美さんの物語ですが、これは決して珍しい話ではなく、日本のどこかで毎日のように起きているよくあるトラブルです。
夫の突然の死、そして追い打ちをかけるような見知らぬ相続人の出現。当事者の受ける精神的ショックは計り知れません。
しかし、ここで感情に任せて相手を拒絶し、家庭裁判所の「調停」にまで進んでしまえば、長期間にわたる拘束と、高額な弁護士費用によって、残された大切な財産も家族の心もボロボロになってしまいます。
最終的に調停にならないようにするためには、以下のステップが最善です。
① まずは行政書士に依頼し、正確な財産目録と戸籍関係を整理する。
② 相手方の「4分の1」という法的権利をまずは認め、感情的にならずに書面等で誠実にアプローチする。
③ 自宅を守るため、現実的な「代償金(現金)」の額を算出し、分割払いや猶予の交渉を含めて妥協点を探る。
相続は、事前の準備があれば「100対0」で防げたトラブルがほとんどです。
「うちの家族に限って」「主人から何も聞いていないから大丈夫」と過信せず、少しでも不安な要素がある方、または過去に離婚歴があるご家族をお持ちの方は、ぜひ一度、お気軽に当事務所へご相談ください。
あなたの住み慣れた札幌の我が家と、大切なこれからの生活を守るために、行政書士が親身になって法律の面から全力でサポートいたします。
■ 札幌での相続・遺言のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
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