さて、本日はすべての皆様に関係する、極めて重要で「歴史的」とも言えるニュースをお届けいたします。それは今月17日に参議院本会議で可決、成立したデジタル遺言についてです。
報道等で既にご存じの方も多いかもしれませんが、このことは、私たちの生活やこれからの相続のあり方を180度変える可能性を秘めています。今回の法改正の目玉は何と言っても、長年「手書き・ハンコ」が絶対のルールであった遺言の世界に、ついにスマートフォンやパソコンでの作成を認めるということです。
「遺言書は手書きで書くもの」というこれまでの常識が、ついに法律の次元で覆ることになります。今回のブログでは、この大注目の新制度について、どこよりも分かりやすく、かつ行政書士としての専門的な視点を交えながら、徹底的に解説してまいります。
「まだ若いから関係ない」「財産が少ないから遺言なんて不要」と思われている方も、このデジタル遺言の登場によって、遺言がどれほど身近なものになるかをぜひ知っていただきたいと思います。少し長くなりますが、将来のご自身やご家族を守るための大切な知識ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
今回の法改正の背景 なぜ今、遺言がデジタル化されるのか?
そもそも、なぜこれほど厳格だった遺言のルールが見直されることになったのでしょうか。その背景には、現代社会の急激な「デジタル化」と、急速に進行する「高齢化社会」という2つの大きな波があります。
これまでの民法において、個人が最も手軽に作成できる自筆証書遺言は、本文のすべて、日付、氏名を必ず本人が手書きし、さらに押印をしなければならないと定められていました。
しかし、この「すべて手書き」というルールは、多くの方にとって想像以上の高いハードルとなっていました。
・ 身体的な負担: 高齢になり、認知機能はしっかりしていても、手が震えて長い文章を書くのが難しいという方が非常に多くいらっしゃいました。
・ 書き損じによる無効リスク: 自筆証書遺言は、一文字でも間違った修正方法(民法で厳格に定められた方法)をすると、それだけで遺言全体が無効になってしまうリスクがありました。
・ 財産の特定が複雑: ネット銀行の口座や暗号資産(仮想通貨)など、現代の財産はデジタル化・複雑化しています。長い口座番号や暗号鍵のような英数字を、一字のミスもなく手書きするのは至難の業でした。
こうした理由から、「遺言を残したいけれど、手書きするのが億劫で結局後回しになってしまった」というケースが後を絶たなかったのです。
さらに、国を挙げたデジタル庁の設置や、行政手続きのオンライン化、ビジネスにおける「脱ハンコ」の流れも今回の法改正を強力に後押ししました。
現代の私たちは、スマートフォンの中にネット銀行のアプリを持ち、電子マネーを使い、サブスクリプション(定額制)サービスを契約しています。これらは形のない「デジタル遺産」と呼ばれますが、もしもの時に家族がその存在に気づけないというトラブルが急増しています。こうした時代背景において、遺言書だけが「紙とペンとハンコ」の時代に取り残されているのは不自然であり、現代のライフスタイルに合わせた法整備が強く求められていたのです。
法律の成立から施行まで 新しい遺言はいつから使えるのか?
ここで、実務上非常に多くのお客様からご質問をいただく「時期」について、法律の仕組みと合わせて解説いたします。今回のブログのタイトルにもある通り、改正民法は国会で「成立」いたしましたが、だからといって「明日からすぐにパソコンで遺言を作っていい」というわけではありません。
法律が実際に私たちの生活に適用されるためには、国会で成立した後に「公布」され、さらに「施行」されるというステップを踏む必要があります。
公布から施行までのおおよその日数とプロセス
一般的な法律の格言や原則として、大規模なシステム改修や国民への周知が必要な法改正の場合、成立から実際に動き出すまでには、一定の「準備期間」が設けられます。
今回のデジタル遺言(保管証書遺言)を含む民法改正においては、可決・成立したのち、数日〜2週間程度で「公布(法律が官報に載って国民に広く知らされること)」が行われます。そして、実際の「施行日」については、法律の附則(ふそく)において「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」と規定されるのが通例です。
具体的におおよその日数を換算しますと、以下のようになります。
【公布から施行までの標準的なスケジュール感】
- 法律の成立から公布まで:約10日〜14日
- 公布から施行(新制度スタート)まで:約1年半から3年(およそ550日〜1000日前後)
これほど長い日数がかかるのには、理由があります。今回の新制度は、単に「家でパソコンで書いて印刷して終わり」というものではなく、後述する通り「法務局(遺言書保管所)」という国の機関が深く関与するシステムだからです。
法務局側での専用デジタルシステムの構築、職員の研修、なりすましや偽造を防ぐための本人確認用ウェブ会議システムの整備など、国側の受け入れ態勢を整えるために、どうしても1年半〜3年程度(日数にして数百日以上)の準備期間が必要となります。正確な施行日については、今後政府が発する「政令」によってピンポイントで指定されることになりますので、当事務所でも最新の情報を常に注視してまいります。
徹底解説! 新制度 デジタル遺言(保管証書遺言)の中身
それでは、今回の法改正の核心である、新しいデジタル遺言方式「保管証書遺言」がどのような仕組みになるのか、現在判明している具体的な内容を詳しく見ていきましょう。
この制度は、一言で言えば、自筆証書遺言の手軽さと、公正証書遺言の安全性・確実性をいいとこ取りした画期的な新方式です。
保管証書遺言の最大のメリットは、遺言の本文をパソコンやスマートフォンのメモ機能などで作成できる点です。
これまでのように、何枚もの原稿用紙にペンで文字を書き進める必要はありません。タイピングによる作成はもちろん、音声入力などを活用して文章を作ることも可能です。また、間違えた場合の修正も、画面上でバックスペースキーを押して直すだけですから、書き直しのストレスが完全に解消されます。これによって、手が不自由な方や体力が低下している高齢の方でも、ご自身の意思を100%反映した遺言書を、自力で、かつスピーディに作成できるようになります。
日本の法律実務において極めて重要な意味を持っていた「押印(ハンコ)」ですが、今回の新方式(保管証書遺言)の導入に伴い、遺言書への押印義務が廃止される方向となりました。
従来の自筆証書遺言では、どれほど立派な文章が書かれていても、最後にハンコ(認め印でも可)が押されていなければ、それだけで「形式不備」として法律上完全に無効となっていました。新制度ではこれがなくなり、デジタルデータとしての成立を重視する形になります。
「ハンコを押さないなら、どうやって本人のものだと証明するの?」という疑問が湧くかと思いますが、そのための強力なセキュリティとして、次の「法務局の関与」がセットになっています。
ここが最も誤解しやすいポイントなのですが、デジタル遺言が解禁されたからといって、「パソコンで文章を作って、自宅のハードディスクに保存しておけばOK」というわけではありません。それだけでは、誰かが勝手にパソコンを操作して偽造したり、データを消去したりできてしまうからです。
そのため、新制度では「法務局(遺言書保管所)へのデータ提出と、厳格な真意確認」が必須要件となっています。
具体的な作成フロー(想定)は以下の通りです。
① データの作成
遺言者がパソコンやスマホ等で遺言内容(デジタルデータ)を作成します。
② 法務局への提供
作成したデータをオンライン等で法務局に送信、または書面に印刷して持参します。
③ 本人確認と真意の確認(ここが最重要!)
本人が法務局に出向いて職員と対面する、あるいはマイナンバーカード等を用いた高度な認証システムを使い、ウェブ会議システム(リモート)を通じて法務局職員と面談します。
④ 全文の口述(読み上げ)
なりすましや、他人に脅されて作らされていないかを確認するため、遺言者本人がカメラの前や職員の前で、遺言の全文を自ら読み上げる(口述する)手続きなどが行われます。その様子は録画・録音等で記録される見込みです。
⑤ 国による安全な保管
手続きが完了すると、遺言書は法務局の強固なサーバー、または書面として安全に保管されます。
このように、作成自体はパソコンで劇的に楽になりますが、それが「本人の本当の意思であること」を国がオンラインや対面でしっかりと担保する仕組みになっています。そのため、家族間での「本当に本人が書いたのか?」という争い(筆跡鑑定の争いなど)を未然に防ぐことができます。
既存の遺言制度との比較 何がどう違うのか?
今回の法改正によって、私たちが選べる遺言のバリエーションが広がりました。ここで、既存の代表的な遺言制度である「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」および従来の「自筆証書遺言」、そして今回登場した「保管証書遺言」の違いを、分かりやすく表にまとめて比較してみましょう。
どの制度にも一長一短がありますので、ご自身の状況に合わせて最適なものを選ぶ目を持つことが大切です。
遺言制度の比較表
| 項 目 | ① 従来の自筆証書遺言 (自宅保管) | ② 公正証書遺言 (公証役場で作成) | ③ 新制度:保管証書遺言 (デジタル+法務局) |
| 本文の作成方法 | すべて手書き(自書) ※財産目録のみPC可 | 公証人が作成 (本人は口頭で伝える) | パソコン・スマホで作成 (手書きの負担ゼロ) |
| 押印(ハンコ) | 必須(実印が望ましい) | 必須(実印) | 不要(電子認証等で代替) |
| 証人の立ち会い | 不要 | 2名以上必要 | 不要 |
| 作成費用 | ほぼ無料 | 資産額に応じた公証人手数料 (数万円〜十数万円) | 低額の手数料 (数千円程度を想定) |
| 保管場所 | 自宅の金庫や引き出し等 (紛失・改ざんリスクあり) | 公証役場に原本を保管 (極めて安全) | 法務局のサーバー等 (極めて安全) |
| 検認(けんにん)手続き ※死後の裁判所手続き | 必要 (これがないと預金解約不可) | 不要 (死後すぐに手続き可能) | 不要 (死後すぐに手続き可能) |
| 形式不備による無効 | 非常に多い | ほぼゼロ | ほぼゼロ (法務局がチェックするため) |
各制度の位置づけ
この表を見ていただくと分かる通り、新制度である「保管証書遺言」は、まさに①と②の「中間」に位置する、非常に利便性の高い制度です。
・ 従来の自筆証書遺言と同様に「証人を集める必要がなく、費用も安い」という手軽さを維持しつつ
・ 公正証書遺言のように「法務局が預かるため紛失や改ざんの恐れがなく、死後の裁判所での検認手続きも不要」という高い安全性を備えています
まさに、デジタル時代の新しいインフラとして、今後の相続実務のスタンダードになっていくことが予想されます。
デジタル遺言(保管証書遺言)のメリット・デメリット
行政書士として多くの相続現場に立ち会ってきた経験から、この新制度がもたらすメリットと、逆に「ここに注意しなければならない」という潜在的なデメリット(リスク)について、専門家ならではの視点で分析いたします。
1.長文の遺言や、細かい財産指定が苦にならなくなる
これまでの手書き遺言では、「長男には〇〇の土地を、次男には〇〇の預金を、長女には……」と細かく書けば書くほど、本人の体力が奪われ、誤字脱字のリスクが高まりました。デジタル化により、不動産の登記情報(所在や地番など)や、ネット銀行の複雑な口座番号も、コピー&ペーストや正確なタイピングで簡単に記載できるようになります。これにより、より「具体的で遺産分割がしやすい遺言」を遺すことが可能になります。
2.死後の「検認」が不要で、残された家族の手続きがスムーズ
自宅で保管されていた自筆証書遺言は、本人が亡くなった後に未開封のまま家庭裁判所に持参し、「検認」という手続きを受けなければなりません。これには1〜2ヶ月以上の時間がかかり、その間は銀行口座の凍結解除もできないため、残された家族に大きな負担がかかっていました。新制度の保管証書遺言は、国の機関である法務局が保管するため検認が不要です。亡くなった後、すぐに遺言書の内容に沿って手続きを進められるため、家族をパニックから救うことができます。
3.「紛失」「隠匿」「改ざん」の危険が完全に消える
「タンスの奥に隠しておいた遺言書を、自分に不利な内容だと知った親族が見つけて破り捨ててしまった」「認知症が進んで、どこに置いたか分からなくなってしまった」といった悲劇は、相続の世界では日常茶飯事です。国(法務局)のセキュアな環境にデジタルデータとして保管される保管証書遺言であれば、こうした物理的な紛失や悪意ある親族による破棄・改ざんは100%防止できます。
一方で、デジタルだからこそ、また新制度だからこその「落とし穴」もあります。
1.「遺言の内容が正しいか」までは法務局は保証してくれない
ここが最大の落とし穴です。法務局の職員は、提出されたデジタル遺言が「本人の意思で作られたか」「日付や氏名などの形式が整っているか」はチェックしてくれますが、「その遺言の内容が、法律的に見てトラブルを起こさないか」という中身のコンサルティングまではしてくれません。
例えば、以下のようなケースは、デジタル遺言として法務局に無事保管されたとしても、本人の死後に大揉めすることになります。
・ 遺留分の侵害: 特定の子供だけにすべての財産を譲るような内容になっており、他の子供から法律上の最低限の取り分(遺留分)を請求されて泥沼化するケース。
・ 財産の特定が曖昧: 「札幌の家を譲る」とだけ書いてあり、複数の不動産がある場合や、土地と建物の名義が分かれている場合に、どの不動産を指すのか特定できず、結局名義変更(登記)の段階で法務局や銀行から跳ね返されてしまうケース。
・ 受遺者(じゅいしゃ)の表記不正確: 財産を渡したい相手の氏名や生年月日、あるいは団体名が不正確で、手続きが進まないケース。
つまり、「パソコンで簡単に作れること」と「争いのない、完璧な遺言書になること」は全くの別問題であるということです。
2.ITの操作や、法務局での「全文読み上げ」が心理的・身体的負担になる可能性
パソコンやスマホの操作に全く馴染みがない超高齢の方にとっては、「デジタルで遺言を作る」という行為自体がストレスになる場合があります。また、法務局の職員の前や、ウェブ会議のカメラの前で「遺言の全文を自ら読み上げる」という手続きは、耳が遠い方や発声が難しい方、あるいは極度に緊張してしまう方にとっては、手書きすること以上に高いハードルになることも懸念されます。
行政書士からのアドバイス 法改正を待つべきか、今すぐ動くべきか?
「パソコンで簡単に遺言が作れるようになるなら、制度が施行されるまで待ってから作成したほうがいいのでは?」
今回のニュースを聞いて、そう考えられた方も多いのではないでしょうか。しかし、相続・遺言の専門家である行政書士としての私たちの答えは、明確に「いいえ、法改正を待つべきではありません。今すぐ準備を始めるべきです」となります。
なぜ、新制度を待たずに今すぐ動くべきなのか。そこには、命と相続に関する冷徹な現実があります。
先ほど解説いたしました通り、今回の改正民法が成立したからといって、実際に使えるようになる(施行される)までには、ここからおよそ1年半〜3年の歳月がかかります。
この「待ち時間」の間に、もし万が一のことがあったらどうなるでしょうか。
あるいは、命はあっても、脳梗塞などを患ってしまったり、認知症が急激に進行してしまったりして、「遺言を作成するための能力(遺言能力)」が失われてしまったら、その時点で遺言書を遺すチャンスは永遠に失われてしまいます。
認知症になってからでは、手書きであれデジタルであれ、どのような形式であっても法律上有効な遺言書を作ることは絶対にできません。新制度のスタートを待っていたばかりに、大切な家族に遺産争いの火種を遺してしまうことになっては、本末転倒です。
新制度を待たずとも、現在利用できる制度だけで、十分に安全で確実な遺言書を作ることができます。
特に、公証人が作成する「公正証書遺言」であれば、現在でも手書きの必要は一切ありません(公証人に口頭やメモで内容を伝えれば、公証人がパソコンで作成してくれます)。さらに、法務局が紙の自筆証書遺言を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」も既にスタートしており、大変好評を得ています。
「今、確実に家族を守るための遺言」を既存の制度でカチッと作っておき、将来的にデジタル遺言(保管証書遺言)が施行され、ご自身の環境や財産が変わったタイミングで、新しいデジタル方式を使って「書き直す(アップデートする)」という手法が、最も賢く、リスクのない選択です。遺言は何度でも書き直しが認められており、常に「最も新しい日付の遺言」が優先される仕組みになっているからです。
まとめと当事務所のサポートについて
いかがでしたでしょうか。今回は、可決成立したばかりの改正民法の目玉である「デジタル遺言」と「保管証書遺言」について、その背景から仕組み、施行までのスケジュール、そしてメリット・デメリットまで、網羅的に詳しく解説してまいりました。
ここでもう一度、今回の重要なポイントをおさらいしておきましょう。
① 歴史的な法改正
パソコンやスマホで本文を作成し、押印も不要となる新しい「保管証書遺言」が創設されました。
② 施行までは時間がかかる
法律の成立・公布から実際の施行までには、法務局のシステム整備等のため、およそ1年半〜3年の準備期間があります。
③ 法務局が厳格に関与
偽造を防ぐため、オンライン(ウェブ会議)や対面での本人確認、および「全文の読み上げ(口述)」などの厳格な手続きが義務付けられます。
④ 形式と内容は別物
パソコンで作りやすくなっても、「遺留分」や「財産の特定」が不適切であれば、死後に家族が揉める原因になります。
⑤「今」の備えが最優先
明日の健康は誰にも分かりません。新制度の施行を待つことなく、既存の「公正証書遺言」などを活用して、今すぐ対策を取ることが最大の家族愛です。
法律の手続きがデジタル化され、どれほど形式が簡単になったとしても、「大切な家族に、自分の財産をどのように引き継ぎ、将来幸せに暮らしてもらうか」という、遺言の“本質”と“温かみ”は、時代が変わっても決して変わりません。
むしろ、簡単に作れるようになるからこそ、法律的なチェックや、残された家族が絶対に揉めないための「中身の設計」が、これまで以上に重要になってまいります。
札幌での相続・遺言作成は、当行政書士事務所にお任せください
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