【札幌発 兄の悲しい最後!遺言書を書いてほしかった】 遺言書が絶対に必要な人とは 札幌の行政書士やっくんが解説

近年、終活という言葉が定着し、遺言書に対する関心が高まってきました。「うちは財産が多くないから関係ない」「家族の仲が良いから話し合って決めるだろう」そう考えて、遺言書の作成を後回しにされている方は非常に多くいらっしゃいます。

しかし、実務の現場に身を置く立場として、私は「すべての方に遺言書を書いてほしい」と切に願っています。なぜなら、遺言書がないばかりに、残された人々が泥沼の紛争に巻き込まれたり、故人の生前の想いが無残に踏みにじられたりする悲劇を何度も目の当たりにしてきたからです。

今回は、「兄の悲しい最後」という物語をもとに、なぜ遺言書が必要なのか、そして「遺言書が絶対に必要となる6つのケース」について、法律の仕組みを交えながら詳しく解説いたします。この記事を読まれた方が、ご自身や大切なご家族の未来を守る一歩を踏み出していただければ幸いです。

目次

兄の悲しい最後 ~ ATMと呼ばれた男の悲劇 ~

まずは、ある男性が迎えた、あまりにも切なく、悲しい結末についてお話しさせてください。このお話は、法律が時にいかに無慈悲であるか、そして遺言書がどれほど重要な役割を持つかを教えてくれる、決して他人事ではない物語です。

1.ブルーカラーとして家族を支え続けた日々

兄は札幌市内の会社で、いわゆる「ブルーカラー」と呼ばれる現場仕事に従事していました。夏は猛暑の中で汗を流し、冬は凍てつく寒さの中で泥にまみれながら、実直に、一生懸命に働き続ける男でした。

兄の仕事は、社会のインフラを支える立派な仕事です。給与も決して少なくはなく、兄は自分が苦労して稼いだお金で、妻と一人娘に不自由のない、裕福な生活をさせていました。何不自由ない暮らしを送り、不自由なく学校に通える環境は、すべて兄の毎日の汗と努力の結晶だったのです。

2.「臭い、汚い」「お前は私たちのATM」

しかし、家に帰った兄を待っていたのは、温かい家庭ではありませんでした。

妻と娘は、兄の仕事に対して感謝するどころか、日常的に侮蔑の言葉を投げつけました。「泥だらけで汚い」「汗臭いから近づかないで」と罵り、兄がリビングに座ることすら嫌がったのです。

さらに心が張り裂けるような言葉が、実の娘や妻の口から日常的に飛び出しました。

「お前は私たちのATMなんだから、黙ってお金を稼いでくればいいのよ」

兄は家族のためにすべてを捧げて働いていたにもかかわらず、家庭内では人間としての尊厳を奪われ、単なる「お金を運んでくる機械」として扱われていたのです。

3.妻の不倫と、娘の裏切り、そして孤独

そんな地獄のような日々の中、決定的な事件が起きます。妻の不倫が発覚したのです。それだけでも兄の心は深く傷つきましたが、さらに追い打ちをかけたのは、最愛であるはずの娘の行動でした。

娘は、不倫をした母親の味方をし、父親である兄を徹底的に冷遇しました。そして最後には、不倫をした母親と共に、兄を一人残して家を出て行ってしまったのです。

その後、離婚調停を経て正式に離婚が成立しました。兄は広い家にぽつんと一人取り残され、孤独な生活を送ることになりました。それでも文句一つ言わず、黙々と仕事を続けていましたが、心身ともに限界を迎えていたのかもしれません。離婚から数年後、兄は病に倒れ、誰にも看取られることなく、息を引き取りました。心筋梗塞による突然死でした。

4.葬儀にも来なかった娘の「変貌」

兄の葬儀を執り行ったのは、私たち親族でした。元妻や娘には当然連絡を入れようと試みましたが、連絡先が変わっており、居場所も定かではありませんでした。結局、実の娘でありながら、兄の葬儀に顔を出すことはありませんでした。寂しい葬儀ではありましたが、私たちは「これで兄もようやく苦しみから解放され、天国で安らかに眠れるだろう」と祈っていました。

しかし、悲劇はこれで終わりませんでした。

四十九日の法要が過ぎたころ、人づてに兄が亡くなったことを聞きつけた娘が、元妻(離婚した兄の元妻)を伴って突然現れたのです。

葬儀の時に線香一本あげに来なかった娘が、開口一番、こう主張しました。

「父親が死んだんだから、遺産を相続するのは法律上、すべて私のはずです。預貯金も家も、全部渡してください」

5.法律の壁と、遺言書がなかった後悔

私たち親族は激しい怒りと戸惑いを覚えました。生前、兄を「ATM」と呼び、臭い、汚いと罵り、最後は不倫した母親について家を出て行った娘です。死に目にも会わず、葬儀にも来なかった人間が、お金の話になった途端に権利を主張してきたのです。

しかし、法律(民法)は残酷です。

どれだけ生前に酷い扱いをしていようとも、どれだけ不義理を働いていようとも、「離婚した妻」には相続権はありませんが、「実の子供」は第一順位の法定相続人となります。

兄は生前、「あの娘には一円も財産を渡したくない。あんなに私を苦しめた人たちに、私の血と汗の結晶を渡したくない」と周囲に漏らしていました。しかし、兄はそれを「遺言書」という法的な書面に残していなかったのです。

遺言書がない以上、法律上は娘が唯一の相続人となり、兄が命を削って遺した財産は、すべてその娘の手に渡ることになってしまいました。兄が天国でどれほど悔しがっているかと思うと、涙が止まりません。「もし、兄が遺言書を書いていてくれたら……」という激しい後悔が、何年たっても消えることはありません。

※ 本記事の物語は、遺言書作成の重要性をご理解いただくためのフィクションです。登場する人物や家族構成、エピソードなどはすべて架空のものであり、実在の特定の人物やご相談事例とは一切関係ありません。ただし、このような相続を巡るご家族間のトラブルや遺言書の有効性は、実務において非常に多く見られるケースをベースにしております。

なぜ、今「遺言書」が必要とされるのか?

前述の物語のように、「自分の財産の行方を自分で決める」ためには、生前に遺言書を作成しておくことが絶対に不可欠です。ここでは、遺言書がない場合にどのような問題が発生するのか、日本の法律の仕組みを踏まえて解説します。

1.遺言書がないと「法定相続」が基本になる

人が亡くなると、その遺産を誰がどれだけ引き継ぐかという問題が発生します。遺言書がない場合、民法が定めた基準である「法定相続人」が、民法の定める割合(法定相続分)を基準に財産を分けることになります。

法定相続人の範囲は法律で厳格に決まっており、配偶者は常に相続人となり、それ以外の親族は以下の優先順位で相続人になります。

・ 第1順位: 子(子が亡くなっている場合は孫)

・ 第2順位: 直系尊属(父母や祖父母)

・ 第3順位: 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)

どれだけ関係性が深くても、内縁の妻や、熱心に介護をしてくれた嫁、叔父・叔母などは法定相続人にはなれません。逆に、どれだけ疎遠であっても、血がつながっている子供や兄弟であれば、法律上の強い権利を持つことになります。

2.「遺産分割協議」の恐ろしさ

遺言書がない場合、すべての法定相続人が集まって「誰がどの財産をどれだけもらうか」を話し合わなければなりません。これを「遺産分割協議」と言います。 この遺産分割協議には、非常に高いハードルがあります。それは、「相続人全員の合意」が必要であるという点です。一人でも反対する人がいたり、一人でも連絡が取れない人がいたりすると、遺産分割協議は成立しません。

協議が成立しなければ、銀行口座の凍結を解除することもできず、不動産の名義変更(相続登記)もできません。

そして、この話し合いの場で、多くの家庭で「争続」が勃発します。

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「自分が一番親の面倒を見た」「兄貴は生前に家を建ててもらった」「私の取り分が少なすぎる」といった不満が噴出し、これまで仲の良かった兄弟姉妹が、遺産を巡って絶縁してしまうケースが後を絶ちません。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割のトラブルの約8割は、実は財産額が「5,000万円以下」の、いわゆる一般的なご家庭です。財産が少なくても、遺言書がないだけでトラブルは簡単に発生するのです。

3.遺言書があれば、自分の意思を最優先できる

遺言書は、法律が定める「法定相続」よりも優先されます(一部、遺留分という例外はあります)。

つまり、「妻にすべての財産を遺したい」「長男に事業を引き継がせたい」「お世話になったこの人に財産を譲りたい」というご自身の「最後の意思」を、法的な効力を持って実現させることができるのです。

遺言書があることで、残された相続人たちは「故人がこう望んでいたのだから」と納得しやすく、無用な話し合いや争いを避けることができます。遺言書は、残される家族への「最後の思いやり」であり、「紛争予防の特効薬」なのです。

⚠️【重要】 遺言書が絶対に必要な人とは 6つのケース

ここからは、本題である「遺言書が絶対に必要な人」について、代表的な6つのパターンを詳しく解説します。もしご自身やご家族がこれらの中に一つでも当てはまる場合は、今すぐ遺言書の作成を検討してください。

ケース1 夫婦の間に子がないとき

「私たち夫婦には子供がいないけれど、お互いが全財産を相続するから大丈夫」と思われている方は非常に多いです。しかし、これは法律上の最大の誤解の一つです。

法律上のリスク

子供がいない夫婦の場合、配偶者がすべてを相続できるとは限りません。先ほど説明した相続人の優先順位を思い出してください。子供がいない場合、相続権は「第2順位(親)」、親が亡くなっている場合は「第3順位(兄弟姉妹)」に移動します。

つまり、夫が亡くなった場合、残された妻だけでなく、「夫の親」や「夫の兄弟姉妹(または甥・姪)」も一緒に法定相続人になるのです。

発生するトラブル

夫が亡くなり、長年住みなれた自宅と少々の預貯金が残されたとします。妻が引き続きその家に住み続けたいと思っても、夫の兄弟姉妹から「法律通りの分け前(全体の4分の1など)を現金を支払ってほしい」と請求される可能性があります。

また、遺産分割協議を行うためには、長年付き合いのなかった夫の兄弟や、会ったこともない甥・姪全員の実印と印鑑証明書をもらわなければなりません。

「全財産を妻に渡すことに同意してほしい」と頭を下げて回る苦痛は、残された妻にとって計り知れない負担となります。中には、ハンコ代として高額な金銭を要求してくる親族もいます。

遺言書による解決

遺言書に「妻にすべての財産を相続させる」と一言書いておくだけで、この問題は一発で解決します。

兄弟姉妹には「遺留分(最低限保障される相続財産の取り分)」がありません。そのため、遺言書があれば、夫の兄弟姉妹に一切財産を渡すことなく、すべての財産をスムーズに妻に遺すことができます。残された配偶者の生活を守るために、子供のいないご夫婦にとって遺言書は義務であると言えます。

ケース2 再婚し、先妻の子と後妻がいるとき

現代では再婚される方も珍しくありませんが、相続の実務において、この「前妻(先妻)の子」と「後妻(現在の妻)」が存在するケースは、最もトラブルになりやすいパターンの一つです。

法律上のリスク

離婚した前妻には相続権はありません。しかし、前妻との間に生まれた子供は、離婚しても血のつながった実子ですから、第一順位の法定相続人としての権利を永久に持ち続けます。

一方で、現在の妻(後妻)も当然、配偶者として相続人になります。もし現在の妻との間にも子供がいれば、その子も相続人になります。

つまり、「現在の妻(およびその子供)」と「何年も会っていない前妻の子供」が、同じ順位の相続人として一緒に遺産分割の話し合いをしなければならなくなります。

発生するトラブル

前妻の子供からすれば、「実の父親を後妻に奪われた」という感情的なしこりを持っていることが少なくありません。また、父親が亡くなったことで、自分たちがもらえるはずの財産が後妻やその家族に流れてしまうことを嫌がります。

逆に、現在の妻からすれば、「これまで夫を支え、看取ったのは自分なのに、なぜ昔の家庭の子供に財産を分けなければならないのか」という不満が生じます。

お互いに強い感情的な対立があるため、遺産分割協議は高確率で決裂します。連絡を取ることすら拒否されたり、弁護士を立てての泥沼の裁判に発展したりすることが非常に多いのです。

遺言書による解決

このようなケースでは、生前に財産の分け方を遺言書で指定しておくことが絶対条件です。「現在の妻に自宅を遺し、前妻の子には一定の預貯金を相続させる」といったように、それぞれの生活や感情に配慮した遺言書を作成します。

前妻の子には「遺留分(最低限の取り分)」があるため、それを侵害しないような配慮(遺留分対策)が必要ですが、遺言書があることで、直接の話し合い(遺産分割協議)を回避させることができ、現在の家族を守ることができます。

ケース3 事業を承継させたいとき

中小企業の経営者や、個人で事業(農業、店舗、賃貸不動産業など)を営んでいる方は、遺言書がないと会社の存続自体が危うくなります。

法律上のリスク

遺言書がない場合、事業用の資産(工場の土地・建物、営業車、会社の株式、事業用の預貯金など)もすべて「一般的な遺産」として扱われ、法定相続人の間で分割の対象になります。

例えば、子供が3人いて、そのうちの長男が後継者として事業を手伝っていたとします。遺言書がない場合、事業用資産も含めたすべての遺産を3人で均等に分ける権利が発生します。

発生するトラブル

長男が「事業を続けるために、工場や株式は自分がすべて引き継ぎたい」と主張しても、他の次男や長女が「それなら、その分の価値に相当する現金を俺たちにくれ」と言ってきた場合、手元に十分な現金がなければ、事業用資産を売却せざるを得なくなります。

また、会社の株式が兄弟間で分散してしまうと、重要な経営決定(取締役の選任など)ができなくなり、会社の経営が完全にストップしてしまいます。

最悪の場合、創業者である先代が亡くなった途端に、会社が倒産したり、廃業に追い込まれたりすることになります。従業員の雇用や、取引先への責任も果たせなくなってしまいます。

遺言書による解決

事業承継をスムーズに進めるためには、遺言書を使って「後継者(長男など)に、事業用資産(株式、店舗、工場土地など)をすべて相続させる」と明記することが不可欠です。

他の相続人には、事業に関係のない個人資産(自宅以外の預貯金や生命保険金など)を割り振るなどの配慮をすることで、事業の経営権を後継者に集中させ、会社の未来と従業員の生活を守ることができます。

ケース4 相続人不在のとき

身寄りがなく、一人暮らしをされている高齢者の方が増えています。いわゆる「おひとり様」のケースです。

法律上のリスク

法律上の相続人が一人もいない場合(配偶者もおらず、子供もおらず、両親や兄弟姉妹、甥・姪もすべていない、または全員亡くなっている場合)、その人が遺した財産はどうなるでしょうか?

自動的に国に没収されるわけではありませんが、最終的には「国庫に帰属する(国のものになる)」という手続きが進められます。

ただし、これには「相続財産清算人」という専門家を裁判所に選んでもらう必要があり、非常に複雑な手続きと長い時間がかかります。

発生するトラブル

「身寄りがないから、自分が死んだら財産は国にあげるから構わない」と思われるかもしれませんが、遺言書がないと、生前に大変お世話になった友人や、近所で身の回りの世話をしてくれた人、長年尽くしてくれた内縁のパートナーなどに、1円も財産を遺すことができません。

また、自分が大切にしていた自宅や愛着のある品々が、誰も管理しないまま放置され、地域の空き家問題化してしまうこともあります。さらに、葬儀や片付けをしてくれた人に対して、その費用を財産からスムーズに支払うことも難しくなります。

遺言書による解決

相続人が誰もいないからこそ、遺言書の価値が高まります。遺言書を作成すれば、「長年お世話になった〇〇さんに全財産を遺す」と指定したり、「自分が応援していた慈善団体や、生まれ育った自治体に寄付(遺贈)する」といった指定が可能になります。

自分が一生をかけて築き上げた大切な財産を、自分の望む形で社会や大切な人のために役立てることができるのです。

ケース5 相続人ではない第三者に遺贈するとき

法律上の「相続人」以外の親族や、全く血縁関係のない人に財産を渡したい場合は、遺言書が「唯一の手段」となります。

法律上のリスク

何度も申し上げている通り、遺言書がない場合に財産を受け取れるのは「法定相続人」だけです。

どれだけ深い絆があっても、法律上の婚姻関係を結んでいない「内縁の妻・夫」には、1円の相続権もありません。また、「長男の妻(お嫁さん)」が、高齢になった義理の両親を何年も献身的に介護し、看取ったとしても、そのお嫁さんには相続権はありません。長男がすでに亡くなっている場合、お嫁さんは完全に部外者として扱われてしまいます。

さらに、孫にお金を遺したいと思っても、子が健在である限り、孫は相続人にはなれません。

発生するトラブル

「内縁の夫が亡くなり、長年2人で暮らしてきた自宅があるけれど、遺言書がなかったために、夫の兄弟から「家を出て行ってくれ、売却して分けるから」と言われてしまったという悲劇は、比較的よく聞く話です。

また、介護を頑張ったお嫁さんが、夫の兄弟たちから「あなたは他人だから引っ込んでいて」と言われ、一銭の報いも受けられないという理不尽なケースも多々あります。

遺言書による解決

このように、法定相続人以外の第三者に財産を譲ることを法律上「遺贈」と言います。 遺言書に「内縁の妻である〇〇に、自宅土地建物を遺贈する」「長男の妻である〇〇に、私の介護をしてくれた感謝として金〇〇万円を遺贈する」と書いておけば、彼女たちの献身や権利を法的に守ることができます。

大切な人に感謝の気持ちを形にして遺すために、遺言書は不可欠なツールです。

ケース6 相続させたくない法定相続人がいるとき

そして、最後にご紹介するのが、冒頭の物語のケースに該当する「特定の相続人に財産を渡したくない」というケースです。

法律上のリスク

親子の縁を切りたいほどの確執があっても、日本の法律(民法)上、戸籍がつながっている以上は親子の関係を一方的に消滅させることはできません。「勘当した」「もう何十年も会っていない」と言っても、子供には第一順位の相続権が厳然として存在します。

遺言書がない場合、どれだけ生前に親を苦しめ、暴言を吐き、お金だけを無心してきた子供であっても、法律に従って他の子供たちと同じ割合の財産を手にする権利が与えられます。

発生するトラブル

まさに物語のケースがこれに当たります。生前、父親を「ATM」と罵り、仕事に対して「臭い、汚い」と侮辱し、不倫した母親と共に家を出て行った娘。葬儀にも来なかった娘が、四十九日が過ぎた途端に現れ、「私は実の娘だから、遺産はすべて私に権利がある」と主張する。

法律上、遺言書がなければこの主張は100%通ってしまいます。故人が生前にどれほど悔しい思いをし、どれほど「この子には渡したくない」と願っていても、書面(遺言書)がなければ、その想いはゴミ同然に扱われてしまうのが法治国家の現実です。

遺言書による解決

では、このような不条理に対抗するためにはどうすればよいのでしょうか。遺言書を使って、最大限の意思表示と対策を行うことができます。

まず、遺言書の中に「長女〇〇には、生前の著しい非行や侮辱行為を鑑み、財産を一切相続させない」という旨を明記します。 ただし、ここで一つ大きな法律上の壁が存在します。それが遺留分です。

遺留分とは、配偶者や子供などの法定相続人に法律上最低限保障されている「財産の取り分」のことです。子供の場合、本来の法定相続分の「半分」が遺留分として認められています。

そのため、遺言書に「全財産を他の親族(例えば兄の兄弟など)に譲る」と書いてあっても、娘が「遺留分をよこせ(遺留分侵害額請求)」と主張してきた場合、その分の現金を支払わなければならなくなります。

「じゃあ、遺言書を書いても無駄なのか?」と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。ここからが非常に重要なポイントです。

① 付言事項(ふげんじこう)の活用

遺言書には、財産の分け方だけでなく、「なぜこのような分け方にしたのか」という理由や、家族へのメッセージを遺すことができます。これを「付言事項」と言います。

ここに、生前に受けた仕打ち、言われた言葉(「ATM」呼ばわりされたこと、仕事への侮辱など)、そして家を出て行った経緯等、無念の想いを、ありのままに、生々しく書き記すのです。

これには法的な強制力はありませんが、これを読んだ相続人が自身の非を恥じ、遺留分の請求を断念する心理的効果が期待できます。また、万が一裁判になった際にも、故人の強い意思や生前の事情を裁判官に伝える重要な証拠になり得ます。

② 推定相続人の廃除の手続き

民法第892条には、財産を渡したくない相続人の権利を完全に剥奪する「相続人の廃除」という制度があります。

遺言書の中に「長女〇〇を相続人から廃除する」と記載し、その理由(虐待や重大な侮辱、著しい非行など)を明記しておきます。遺言が効力を発揮した後、遺言執行者(遺言の内容を実行する人)が家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が「これは確かに酷い、廃除に値する」と認めれば、その相続人は遺留分も含めてすべての相続権を完全に失います。

この廃除が認められるハードルは非常に高いのですが、物語のケースのように「日常的なひどい侮辱、金銭的搾取、扶養義務の完全な放棄(孤独死への放置)」といった事実が客観的に証明できれば、認められる可能性は十分にあります。

もし物語の兄が生前に、専門家に相談し、これらの対策を施した遺言書を作成していれば、強欲な娘に大切な財産を奪われることなく、無念を晴らすことができたはずなのです。

遺言書を作成する際の重要なポイント

遺言書が必要なケースについてご理解いただけたと思いますが、遺言書は「ただ紙に書けば良い」というものではありません。法律で厳格な様式が定められており、書き方を一歩間違えると「無効」になってしまう恐れがあります。

1.遺言書の種類(自筆証書遺言と公正証書遺言)

一般的な遺言書には、大きく分けて下記2つが主流です。

項  目自筆証書遺言(自分で書く)公正証書遺言(公証役場で作る)
作成方法全文(財産目録除く)、日付、氏名を手書きし、捺印する。公証人と証人2人の前で内容を口頭で伝え、公証人が作成する。
費用ほぼ無料(法務局保管制度利用時は数千円)。財産額に応じた公証人手数料が必要(数万円~)。
無効リスク形式不備による無効のリスクが高い。専門家が作成するため、無効になるリスクは極めて低い。
紛失・偽造紛失や改ざん、隠匿の恐れがある(法務局保管時は安心)。原本が公証役場に保管されるため、紛失・偽造の心配がない。
検認手続き亡くなった後、家庭裁判所での「検認」が必要(法務局保管時は不要)。検認手続きが不要で、逝去後すぐに手続きができる。

確実性を求めるのであれば、私は圧倒的に「公正証書遺言」をお勧めします。費用はかかりますが、法律のプロである公証人が作成するため、後から親族に「認知症だったから無効だ」「無理やり書かされたのだ」とひっくり返されるリスクを最小限に抑えることができます。

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2.「遺言執行者」を必ず指定しておく

遺言書を作る際、内容を実現してくれる人である「遺言執行者」を必ず指名しておきましょう。

特に、ケース6でご紹介した「相続人の廃除」を行う場合や、ケース5のように相続人以外の第三者に財産を渡す場合、遺言執行者がいなければ手続きが非常に困難になります。遺言執行者には、信頼できる親族や、行政書士などの法律の専門家を指定しておくのが一般的です。

行政書士があなたとご家族のためにできること

相続や遺言の手続きは、一生のうちに何度も経験するものではありません。だからこそ、多くの方が「何から始めればいいのかわからない」「自分の場合はどの遺言書がいいのだろう」と悩まれます。

私たち行政書士は、みなさまの身近な「街の法律家」として、以下のようなサポートを行っています。

① 現在の状況のヒアリングと最適な遺言プランのご提案

みなさまのご家族構成や財産の状況、そして「誰にどのような想いを届けたいか」を丁寧にお聞きし、将来トラブルが起きないための最適な遺言書の内容をご提案します。

② 財産目録の作成と相続人の調査

遺言書に記載するための不動産の登記簿謄本や、預貯金の情報を整理し、正確な財産目録を作成します。また、戸籍謄本を取り寄せて、隠れた相続人がいないか確実に調査します。

③ 公正証書遺言の作成サポート

公証役場との事前の打ち合わせや文案の作成、必要書類の収集、当日の証人の引き受けなど、すべてをトータルでサポートします。みなさまは当日、公証役場に足を運んでサインをするだけで済みます。

④ 付言事項の文面作成アドバイス

物語のケースのように、感情的な問題や無念の想いがある場合、どのように書けば後々のトラブルを防ぎ、想いを伝えることができるか、法律の枠組みを踏まえたアドバイスをいたします。

まとめ ~ 後悔しないために、今すぐ一歩を踏み出してください

冒頭の物語をもう一度思い出してください。

この物語の兄は毎日、泥にまみれ、汗を流して働いていました。その理由はただ一つ、家族に不自由のない生活をさせるためでした。それにもかかわらず、返ってきたのは「臭い、汚い」という罵声と、「ATM」という人間性を否定する言葉、そして裏切りでした。

さらに、兄が亡くなった後に起きた、四十九日を過ぎてからの娘と元妻の執念深い財産要求。

もし、兄が病に倒れる前に「遺言書」を書いていたら。

もし、親族や専門家(行政書士等)に一言相談してくれていたら。

結果は全く違うものになっていたはずです。兄の財産は、兄を最後まで心配し、寄り添い、葬儀を出した人たちのために使われ、兄の尊厳は守られていたはずなのです。

法律は、知っている人の味方をします。しかし、知っていても「行動」を起こさなければ、大切な人や自分自身の人生を守ることはできません。

遺言書は、自分が死ぬための準備ではありません。自分が亡くなった後も、大切な人たちが揉めることなく、幸せに生きていくための「未来へのラブレター」であり「お守り」なのです。

「まだ早い」「うちは大丈夫」と思わず、少しでも不安がある方、今回ご紹介した6つのケースに一つでも当てはまる方は、ぜひお気軽に当事務所にご相談ください。

ここ札幌の地で、みなさまの心の重荷を少しでも軽くし、大切なご家族の笑顔を守るために、全力を尽くしてサポートさせていただきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。みなさまのご相談を、心よりお待ちしております。

■ 札幌での相続・遺言のご相談なら

札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。

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