大切なご家族が亡くなられた後、遺族が直面する大きなハードルの一つが 口座凍結 です。「銀行口座が凍結されると、もうお金は一切引き出せないの?」「手続きはどうすればいいの?」といった疑問や不安をお持ちの方は非常に多いかと思います。
本日は、「父が亡くなって口座凍結の手続きを進めていたところ、信じられないような恐ろしいトラブルに巻き込まれた」という、デジタル遺産にまつわるお話を紹介しながら、知っておくべき口座凍結の真実、凍結される理由や解除方法、そして巷で囁かれる都市伝説の嘘ホントまで、行政書士の視点から分かりやすく徹底的に解説していきます。
万全を期したはずが… ネットバンクと消えた1000万円
まずは、あるご遺族(Aさん)の身に起きた、恐怖のお話を紹介します。
1.遺品整理と順調に見えた口座凍結
札幌市内で暮らしていたAさんのお父様が急逝されました。悲しみに暮れる中、Aさんは遺品整理を進めました。お父様の部屋の引き出しからは、地元の地方銀行やゆうちょ銀行の通帳がいくつか出てきました。
Aさんは「名義人が亡くなったら、まずは口座を凍結して財産を確定させなければならない」という知識を持っていたため、すぐにそれらの金融機関へ連絡し、口座の凍結を依頼しました。
銀行から「これでお取引はすべて停止いたしました」と告げられ、Aさんは一安心。集まった親族たちと「これからじっくり遺産分割協議の準備を進めていこう」と話し合っていたのです。
2.父の友人が持ってきた「エンディングノート」
ところが、四十九日の法要が過ぎた頃、お父様の長年の友人という方がAさんのもとを訪れました。その手には1冊のノートが握られていました。
「実は生前、お父さんから「俺に万が一のことがあったら、これを子どもたちに渡してくれ」とエンディングノートを託されていたんだ。」
驚いたAさんがノートを開くと、そこには家族の誰も知らなかった驚くべき事実が記載されていました。通帳があった店舗型の銀行だけでなく、実はお父様はネットバンクにも口座を開設し、多額の現金を預けていました。
3.スマホアプリを開いて凍りついた理由
ノートには、そのネットバンクのログインIDやパスワードが丁寧に書き残されていました。
Aさんは嫌な予感を覚えながらも、お父様のスマートフォンを操作し、残されていた情報をもとにネットバンクの専用アプリからログインを試みました。
無事に画面が開き、残高が表示された瞬間、Aさんは目を疑いました。
そこにあったはずの残高が、生前にお父様がエンディングノートに記していた金額より明らかに少なかったのです。
慌てて過去の「入出金明細」を確認したAさんは、背筋が凍りつくような恐怖を覚えました。
なんと、お父様が亡くなった「後」の日付で、1000万円もの大金が複数回に分けてそっくり引き落とされ、別の口座へ送金されていたのです。
4. 犯人と、そこに潜む落とし穴
店舗型の銀行口座はすべて凍結していたため、安心しきっていたAさん。しかし、通帳も店舗もないネットバンクの存在には気づけず、凍結の手続きが漏れてしまっていました。
では、一体誰がそんなことをしたのでしょうか?
詳しく調査を進めた結果、恐ろしいことに犯人は「お父様が生前にスマホ操作を頼んでいた、ごく身近な親族の1人」だったことが判明しました。その親族は、お父様が亡くなったことをいいことに、暗証番号やアプリの操作方法を知っている立場を悪用し、口座が凍結される前に自分の懐へお金を移してしまったのです。
「まさか、身内がそんなことをするなんて……」と、Aさんは深いショックを受けられていました。
※ 本記事の物語は、口座凍結の重要性をご理解いただくためのフィクションです。登場する人物や家族構成、エピソードなどはすべて架空のものであり、実在の特定の人物やご相談事例とは一切関係ありません。ただし、このような相続を巡るご家族間のトラブルは、実務において比較的多く見られるケースをベースにしております。
このような「勝手な引き出し事件」が起きた場合の解決方法
万が一、このように名義人の死後に特定の誰かが勝手に口座からお金を引き出してしまった場合、どのように解決すればよいのでしょうか。取るべきステップを解説します。
ネットバンクを含め、不正な引き出しが発覚した口座、あるいはまだ手続きをしていない口座があれば、一刻も早く該当の銀行へ死亡の事実を伝えて口座を完全に凍結させてください。これ以上の被害拡大を防ぐのが最優先です。
誰が、いつ、どこから(どのATMやネットバンキングから)いくら引き出したのかを客観的に証明するため、銀行に「取引履歴証明書(開示請求)」を申請します。
これは法定相続人であれば、単独で請求することが可能です(亡くなった方の戸籍謄本や、請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本などが必要です)。
引き出した本人に対して、「預金を勝手に取得したのは法律上の正当な理由がない行為(不当利得)である」として、引き出された金額を遺産(または各相続人の法定相続分)に戻すよう請求します。
話し合いに応じない場合は、弁護士を通じて裁判所へ「不当利得返還請求訴訟」などの民事訴訟を起こすことになります。
【注意】身内間の窃盗は刑事罰にならない?
刑法には「親族相盗例(しんぞくそうとうれい)」という規定があり、配偶者や直系血族(親・子・孫など)、同居の親族間での窃盗罪などは、刑が免除されることになっています。そのため、警察に「親族にお金を盗まれた」と駆け込んでも、民事不介入として被害届を受理してもらえないケースがほとんどです。したがって、解決のためには民事上の返還請求というアプローチを取る必要があります。
そもそも、なぜ銀行口座は凍結されるのか? 3つの主な理由
今回の事件でもキーワードとなった「口座凍結」ですが、銀行は嫌がらせで口座を止めるわけではありません。口座が凍結されるのには、大きく分けて3つの明確な理由があります。
銀行が口座名義人の死亡を知った瞬間、その口座にある預金は「故人の個人の財産」から「相続人全員の共有財産」へと性質が変わります。
もし凍結せずに誰でも引き出せる状態にしておくと、前述のAさんの例のように、一部の相続人が勝手に自分のお金にしてしまい、後から他の相続人と大トラブルに発展するリスクがあります。銀行は身内の揉め事に巻き込まれるのを防ぎ、正当な相続人が確定するまで財産を安全に守る(保全する)ために口座をロックするのです。
口座名義人が重度の認知症などになり、物事の判断能力が不十分であると金融機関が判断した場合も口座は凍結されます。
これは、本人に意識がないまま高額な契約を結ばされたり、詐欺グループにお金を振り込ませてしまったりするリスクから本人の財産を守るための措置です。また、親族であっても本人の同意なしに勝手に預金を引き出すことは原則できないため、本人の権利を守るという意味もあります。
振り込め詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪に口座が使われた疑いがある場合、警察からの要請などによって口座が凍結されます。また、名義人が自己破産や民事再生などの「債務整理」を弁護士等に依頼し、銀行へ受任通知が届いた場合も、銀行側が貸付金と預金を相殺する等の手続きのために口座を凍結します。
【疑問】 少額なら凍結されない? 「金額の目安」はあるのか
ここで、お客様からよくいただく「残高が数千円とか数万円くらい少額なら、わざわざ口座を凍結しなくてもいいの?」という疑問についてお答えします。
結論から申し上げますと、「この金額以下なら口座を凍結しなくてよい(=死亡してもそのまま使い続けてよい)」という免除基準のような金額は、法律上も銀行のルール上も存在しません。
たとえ残高が「数円」「数百円」であっても、銀行が名義人の死亡を把握すれば、原則として一律で口座は凍結されます。これは、金額に関係なく「亡くなった人の財産は相続人全員の共有財産になる」という民法の原則があるためです。
ただし、「口座が凍結された後、通常よりも簡単な手続きで(実質的に凍結解除と同じ扱いで)お金を全額払い戻してくれる少額基準」であれば、多くの銀行が独自に設けています。
通常であれば「相続人全員の署名・実印・印鑑証明書」が必要になりますが、残高がごくわずかな場合に限り、銀行側の判断で「代表相続人1人の請求(他の相続人の実印なし)で全額解約して戻す」という特例対応を行っているのです。
その金額の目安は、おおむね以下のようになっています。
・ ゆうちょ銀行: 100万円以下(公式に基準を明示しています)
・ 主要な都市銀行・地方銀行: 30 〜 50万円以下(銀行の内規による)
・ 信用金庫・信用組合: 10 〜 30万円以下(地域や内規による)
※ ゆうちょ銀行以外の多くの民間銀行は、この少額基準の具体的な金額を公にしていません。そのため、事前に窓口や電話で確認をとる必要があります。
「残高が数万円程度なら、銀行に死亡を伝える前にキャッシュカードで下ろして口座を空っぽにすればいいのでは?」と考える方も非常に多いです。確かに実務上、銀行が死亡を知る前であればATMで下ろせてしまいますが、これには重大な法的リスクがあります。
① 「相続放棄」ができなくなる(単純承認)
亡くなった後に少しでも故人の財産に手を付けたり消費したりすると、法律上すべての財産(借金含む)を相続することを認めたとみなされ、後から莫大な借金が発覚しても一切の相続放棄ができなくなります。
② 他の親族から「使い込み」を疑われる
たとえ「葬儀費用や法要のお布施に使った」という正当な理由であっても、他の相続人に無断で行うと「勝手に遺産を隠した」と言いがかりをつけられ、親族間の大きな亀裂(争族)に発展するケースが後を絶ちません。
残高の多寡にかかわらず、正しい手順を踏んで手続きを行うことが、のちのトラブルを防ぐ一番の近道です。
凍結された口座の解除方法(死亡・認知症ケース別)
一度凍結されてしまった口座は、キャッシュカードで下ろそうとしてもエラーになり、公共料金の自動引き落としなどもすべてストップします。これを解除し、お金を動かせるようにするための具体的な手続きを解説します。
故人の口座を根本的に解約・名義変更して解除するためには、原則として「相続人全員」が同意したことを示す書類が必要になります。
必要な主な書類
① 亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍など)
※ 誰が法定相続人であるかを漏れなく証明するため、非常に多くの通帳が必要になるケースがあります。
② 相続人全員の現在の戸籍謄本
③ 相続人全員の印鑑証明書(通常、発行から3〜6ヶ月以内のもの)
④ 遺産分割協議書(相続人全員が署名し、実印を押印したもの)
⑤ 銀行所定の相続届・払戻請求書
行政書士からのプチアドバイス 「法定相続情報一覧図」の活用
複数の銀行で手続きをする場合、その都度大量の戸籍謄本をごっそり提出するのは大変ですし、銀行側で確認する時間もかかります。法務局に戸籍一式を提出して「法定相続情報一覧図」という公的な家系図のような証明書を無料で発行してもらうと、これ1枚で戸籍一式の代わりにできるため、手続きが劇的にスムーズになります。当事務所でもよく作成を代行しています。
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急ぎでお金が必要な時は? 「遺産分割前の仮払い制度」
遺産分割協議が整うには数ヶ月以上かかることがしばしばです。しかし、葬儀費用や当面の生活費がどうしても必要な場合、2019年(平成31年)から始まった「預切金の仮払い制度」を利用すれば、他の相続人の同意がなくても、単独で一定額まで引き出すことができます。
引き出せる金額の計算式 {相続開始時の預金残高}✕1/3✕{請求する相続人の法定相続分}
※ ただし、同一の金融機関からの引き出しは上限150万円までとなります)
名義人が生きていて、認知症によって口座が凍結されてしまった場合、死亡時のように「遺産分割協議書」で解決することはできません。なぜなら財産はまだ本人のものだからです。
この場合の解除方法は、原則として成年後見制度を利用するしかありません。
手続きの流れ
① 家庭裁判所に対して「成年後見人の選任申し立て」を行います。
② 裁判所によって「成年後見人(本人の代わりに財産を管理する人)」が選ばれます(親族が選ばれることもあれば、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることもあります)。
③ 選ばれた成年後見人が、後見人の登記事項証明書を持って銀行の窓口へ行くことで、凍結が解除され、後見人による口座管理が可能になります。
⚠ 注意点
成年後見制度は本人の財産を「守る」ための制度です。そのため、後見人がついたからといって、家族が「本人の家をリフォームしたい」「孫の入学祝いを出したい」といった理由で自由にお金を使えるようになるわけではありません。また、一度後見人がつくと、本人が亡くなるまで毎月数万円の後見人報酬(専門家が選ばれた場合)が発生し続けるなど、大きな負担になることもあります。だからこそ、認知症になる前に「家族信託」や「任意後見」といった対策をしておくことが極めて重要です。
銀行が口座を凍結する際の「都市伝説」を検証!
ネットや噂話では、口座凍結にまつわる様々な噂が飛び交っています。ここでは、よくある「都市伝説」の真実を暴いていきましょう。
【判定】 嘘(基本的にはありません)
「A銀行に死亡を連絡したら、その情報がネットワークで回って、B銀行もC銀行も自動的に全部凍結される」と怯えている方がいますが、そんなシステムはありません。銀行はそれぞれ独立した民間企業ですので、個人情報を他行と勝手に共有することはありません。
口座が凍結されるのは、あくまで「その銀行が個別に名義人の死亡(または認知症)の事実を把握したとき」だけです。
ただし、例外があります。
・ 同じ銀行の「札幌駅前支店」と「大通支店」のように、同じ金融機関内で複数の口座を持っている場合は、1つの支店に連絡すればすべての口座が同時に凍結されます。
・ 犯罪利用の疑いや、税金の滞納による「差し押さえ」の場合は、警察や役所からの通達により、複数の銀行口座がほぼ同時に凍結されることがあります。
【判定】 嘘
役所に死亡届を出したからといって、そのマイナンバーや戸籍の情報がリアルタイムで民間銀行に通知される仕組みは現在(2026年時点でも)存在しません。役所と銀行のシステムは繋がっていませんので安心してください。
口座凍結のタイミングに関する「今のリアル」
では、銀行は一体どこから「名義人が亡くなった」という情報を得ているのでしょうか?
昔はよく「銀行の担当者が毎朝、地元紙のお悔やみ欄(死亡広告や地域の情報欄)をチェックして、取引先の名義人がいないか探し、見つけ次第口座を止めていた」という話がありました。これは都市伝説ではなく、昔は本当に行われていた実務です。
しかし、最近ではこのケースは激減しています。
理由は主に2つあります。
① 個人情報保護の観点
名前が同姓同名の別人であるリスクがあり、万が一間違えて生きている人の口座を凍結してしまったら大問題になるため、不確実な情報での凍結に慎重になっている。
② 家族葬の増加
そもそも新聞のお悔やみ欄に情報を掲載しないご遺族が非常に増えている。
現在、口座が凍結されるきっかけのほとんどは、ご遺族自身が「葬儀費用を下ろしたい」「名義変更をしたい」と銀行の窓口や電話で伝えた瞬間です。また、地域の狭いコミュニティの店舗などで、行員が偶然噂で耳にしたり、生前の担当者が葬儀を見かけたりして確実な裏付けが取れた場合に凍結されることはありますが、基本的には「遺族が言うまでは凍結されない」と考えて差し支えありません。
まとめ ~ トラブルを防ぐために今すぐできる対策
冒頭のお話のネットバンク1000万円消失のように、現代の相続は「目に見えない財産(デジタル遺産)」との戦いでもあります。家族に苦労や恐怖を味わわせないために、以下の対策を強くおすすめします。
① エンディングノートや財産目録を作っておく
通帳のないネット銀行、ネット証券、仮想通貨(暗号資産)などがある場合は、必ずその存在(銀行名と支店名、ログインのヒントなど)を家族に共有しておきましょう。ただし、今回の事件のように悪用されるリスクもあるため、信頼できる保管方法を選ぶか、ノートの存在を伝える相手を見極める必要があります。
② 生前対策(家族信託や任意後見、遺言書)を検討する
認知症による口座凍結を防ぐには「家族信託」、死後の確実な遺産引き継ぎには「遺言書」の作成が最も効果的です。
札幌で「親の口座が凍結されてしまって手続きが進まない」「ネットバンクがあるか調べる方法がわからない」「将来のためにきちんとした遺言書や財産目録を作っておきたい」とお悩みの方は、ぜひ一度、当・対馬行政書士事務所へご相談ください。複雑な戸籍集めから金融機関の解約手続きまで、親身になってサポートさせていただきます。
皆様の 大切な資産と家族の絆を守るために、早めの準備を始めていきましょう。
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