【札幌発 初期の認知症の父が財産を全て私にと言っている】認知症の遺言能力について 札幌の行政書士やっくんが解説

住み慣れた札幌の街も、季節ごとに美しい表情を見せてくれますが、日々の生活の中でご家族の介護に奔走されている方にとっては、息をつく暇もない毎日かもしれません。

今回は、認知症の遺言能力というテーマを1つの物語をもとに解説します。

札幌でOLをしている島田郁美さん(47歳)のお話です。

郁美さんは、札幌市内のご自宅で父(太一さん・82歳)の介護をしながら生活しています。太一さんは1年前に初期のアルツハイマー型認知症と診断され、2か月前の骨折を機に寝たきりとなってしまいました。母は5年前に他界され、兄の義雄さん(50歳)は大学卒業後すぐに東京で就職し、現在は埼玉県に住んでいます。母の葬儀以外ここ5年間は法事を含めて一度も札幌に帰ってきていません。

郁美さんは太一さんの介護のために管理職を辞め、残業のない事務職へ転換されました。収入が従来の3分の2に減ってしまうという大きな犠牲を払われながらも、太一さんに寄り添っています。太一さん自身も、独身の郁美さんに「しもの世話までかけて申し訳ない。自宅と3,000万円ほどの預金を含め、全額を郁美に譲りたい」と言ってくれています。

しかし、気になるのは「認知症と診断された父が書いた遺言書は、果たして法的に有効なのか」という点です。何も対策をしなければ、将来兄との間で深刻な相続トラブルに発展する懸念があります。

この問題について、郁美さんが職場の同僚の方に相談したところ、相続専門の行政書士を紹介してもらいました。

認知症の進行や寝たきりの状態にあっても、法的に有効な遺言書を残すためにはどうすればよいのか。詳しく解説していきます。少し長くなりますが、重要なテーマなのでぜひお読みください。

※ 本記事の物語は、認知症の遺言能力をご理解いただくためのフィクションです。登場する人物や家族構成、エピソードなどはすべて架空のものであり、実在の特定の人物やご相談事例とは一切関係ありません。

目次

認知症は遺言書が書けないは間違い 遺言能力の真実

まず最も重要な結論からお伝えします。 「認知症と診断されているからといって、一律に遺言書が書けない(無効になる)わけではありません」

法律の世界には「遺言能力」という概念があります。これは、自分がこれから作成する遺言によって、誰にどの財産が渡り、それがどのような結果をもたらすかを正しく理解・判断できる能力のことです。

たとえ医師からアルツハイマー型認知症の診断を受けていても、あるいは物忘れの症状が確実に進んでいたとしても、この遺言能力が認められるタイミングであれば、有効な遺言書を作成することは可能です。

太一さんは現在、「自分が寝たきりで郁美さんに苦労をかけていること」「自宅と3,000万円の預金があること」「それを全て郁美さんに相続させたいということ」をはっきりと自覚し、自分の置かれた状況を正しく理解されています。この理解できている状態のときに作成することがポイントになります。

しかし、注意しなければならないのは、「本人が元気なつもりで書いたとしても、後から他の相続人(兄 義雄さん)に「あの時、親父はボケていたから遺言は無効だ」と主張されるリスクが極めて高いという点です。

裁判に発展した場合、遺言能力の有無は以下の4つの要素を総合的に考慮して判断されます。

① 医学的観点

認知症の度合い(長谷川式認知症スケールなどの点数)、医師の診断書やカルテの記録。

② 遺言内容の複雑さ

「長女に全財産を相続させる」というシンプルなものか、多くの人に複雑に分配するものか(シンプルなほど認められやすい)。

③ 遺言作成の動機・経緯

なぜその内容にしたのか。日頃の介護の状況や、同居の有無など(郁美さんが仕事を犠牲にして介護している事実は強い動機になります)。

④ 遺言作成時の言動

作成当日に本人がどれだけしっかり受け答えできていたか。

口約束のまま太一さんが亡くなってしまえば、兄(義雄さん)との間で法定相続分(各2分の1)での話し合い(遺産分割協議)が必要になり、郁美さんが自宅を失うリスクすら生じます。だからこそ、今、確実な遺言書を残す必要があるのです。

郁美さんが今すぐ取るべき「公正証書遺言」という選択肢

遺言書には大きく分けて、自分で手書きする「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」の2種類があります。

今回のようなケースでは、絶対に「公正証書遺言」を選ぶべきです。自筆証書遺言は手軽ですが、後から兄(義雄さん)に「本当に本人が書いたのか」「書かされたのではないか」「認知症が悪化していたはずだ」と反論された際、その有効性を証明することが非常に困難になります。

公正証書遺言が圧倒的に有利な理由は以下の通りです。

1.法律のプロである公証人が本人の意思を確認する

公正証書遺言は、元裁判官や元検察官などの法務の実務経験豊かな「公証人」が、太一さんと直接面談して作成します。公証人は、お父様に「お名前は?」「今日の日付は?」「どなたにどの財産を譲りたいですか?」といった問いかけをし、本人の口から直接意思を確認します。公証人が「遺言能力がある」と判断して作成した遺言書は、後から裁判で無効になる確率が極めて低くなります。

2. 寝たきりでも安心「公証人の出張制度」

太一さんは2か月前の骨折により、現在は自宅で寝たきりの状態です。「公証役場まで連れて行くのは無理だし……」と諦める必要はありません。公証人は自宅や療養中の病院・施設まで出張して遺言書を作成してくれます

※ 出張の場合は公証人の手数料が5割増しになり、別途日当と交通費がかかりますが、利用する価値は十分にあります。

3.紛失や改ざんのリスクがゼロ

完成した遺言書の原本は公証役場に厳重に保管されます。手元にある遺言書を誰かに書き換えられたり、破棄されたりする心配がありません。

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無効と言わせないための徹底的な証拠集めと事前準備

公正証書遺言を作成するとしても、相手は認知症の診断を受けている82歳の父(太一さん)です。将来の兄(義雄さん)からの「無効主張」を完全にシャットアウトするためには、作成当日に向けて徹底的な「証拠の補強」を行っておく必要があります。

専門の行政書士が関与する場合、以下のような極めて厳密な準備を進めます。

STEP
医師による「遺言能力の確認」と診断書の取得

太一さんの主治医(認知症の診断をした医師や、現在の往診医など)に、「現在、遺言書を作成しようと考えているが、意思能力・遺言能力の有無について判断してほしい」と相談します。 可能であれば、遺言作成の直前に「自分の財産処分について判断する能力を有している」旨を明記した診断書を書いてもらいます。また、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEといった認知機能テストの直近のスコアも開示してもらい、初期段階であることを証明できるようにします。

STEP
日々の介護日記や体調記録の保管

郁美さんが毎日つけている介護の記録や、訪問看護・訪問介護の記録も重要な証拠になります。「この時期、お父様がどれだけしっかり会話できていたか」「意識が混濁していなかったか」を客観的に示す材料になるからです。

STEP
遺言作成当日の「動画撮影」

公正証書遺言を作成する際、公証人が父(太一さん)に質問し、太一さんが「全財産を郁美に譲りたい。兄の義雄は東京へ行ったきり戻ってこないし、郁美には仕事を変えさせてまで介護の苦労をかけているからだ」と、自分の言葉でしっかりと答えている様子をビデオカメラやスマートフォンで動画撮影しておきます。これが、将来の裁判において「自分の意思で遺言をした」という最大の客観的証拠になります。

兄との泥沼の争いを防ぐ「遺留分」への対策

お父様が「全財産を郁美に」という遺言書をどれだけ完璧に作成したとしても、どうしても無視できない法律上の問題があります。それが「遺留分」です。

遺留分とは、一定の法定相続人(配偶者、子供、父母)に法律上最低限保障されている、遺産の取り分のことです。今回のケースでは、お母様が既に他界されているため、お子様である郁美さんと兄(義雄さん)の2人が相続人です。 本来の法定相続分は各2分の1ですが、そのさらに半分、つまり「全体の4分の1」が、義雄さんの遺留分となります。

もし太一さんが「全ての財産(自宅+預金3,000万円)を郁美に相続させる」という遺言を残した場合、義雄さんは郁美さんに対して、「財産総額の25%相当額を現金で支払え」と請求する権利を持ちます。これを「遺留分侵害額請求」と言います。

この請求は義雄さんが「遺言の内容を知った時から1年以内」に行う必要があり、もし請求された場合、郁美さんは拒否することができません。

遺留分トラブルを回避するための3つの処方箋

「全額郁美さんに」という太一さんの強い願いを叶えつつ、兄(義雄さん)からの請求で郁美さんが困窮しないために、以下のような高度な遺言実務のテクニックを使います。

① 遺言書に「付言事項」を記載する

付言事項とは、遺言書の最後に書き添える「家族へのメッセージ」です。法的拘束力はありませんが、遺言者の最後の願いとして、相続人の心情に強く訴えかける効果があります。 公証人に依頼して、以下のようなお父様の生の声を遺言書に盛り込んでもらいます。

【付言事項】

息子の義雄へ。お前が東京で家庭を持ち、立派に働いていることを嬉しく思っている。しかし、母さんが亡くなってからの5年間、私は札幌の自宅で孤独と病気への不安を抱えていた。そんな中、妹の郁美は自分のキャリアを犠牲にし、管理職を辞めてまで私の日々の介護やしもの世話を一生懸命に見てくれた。骨折して寝たきりになってからも、郁美のおかげで私は住み慣れた我が家で尊厳を持って暮らすことができている。 私は郁美のこれまでの多大な犠牲と貢献に報いるため、そしてこれからの彼女の生活を守るために、すべての財産を郁美に譲ることに決めた。義雄には何も残せなくて申し訳ないが、私のこの最後の願いを理解し、郁美に対して遺留分の請求などをすることなく、兄妹仲良く暮らしてくれることを心から切望する。

このようなメッセージがあるだけで、お兄様が請求を思いとどまるケースは少なくありません。

② 遺留分相当額の現金をあらかじめ準備するか、生命保険を活用する

もし義雄さんがビジネスライクに「法律通り4分の1を請求する」と主張してきた場合、総財産(仮に自宅価値1,000万円+預金3,000万円=4,000万円とした場合)の4分の1である1,000万円の現金を郁美さんがお兄様に支払う必要があります。

手元の預金3,000万円から1,000万円を支払っても、郁美さんには2,000万円の預金と自宅が残るため、生活が破綻することはありませんが、あらかじめ「兄(義雄さん)用の遺留分として一定の現金を割り当てる遺言にする」か、あるいは「お父様を被保険者、郁美さんを受取人とする生命保険」に加入し、受け取った保険金(これは相続財産ではなく郁美さんの固有財産になります)をお兄様への支払いに充てるという対策を検討します。

③ 「特別受益(とくべつじゅえき)」の主張を準備しておく

義雄さんが大学進学時に高額な学費や仕送りをもらっていたり、東京での就職・結婚、住宅購入時に、亡くなったお母様や太一さんから多額の資金援助(住宅資金の贈与など)を受けていた場合、それを「特別受益(前渡しの財産)」として主張し、義雄さんの遺留分を減額または消滅させることができる可能性があります。過去の銀行口座の履歴や、太一さんの記憶があるうちにメモを残しておくことが重要です。

相続専門の行政書士が入ることで、郁美さんの不安はどう解消されるか?

郁美さんが職場の同僚の方から行政書士を紹介されたのは、非常に幸運なことでした。なぜなら、認知症を抱えたご家族の遺言書作成を、法律知識のない一般の方が個人で進めるのはほぼ不可能に近いからです。

行政書士がサポートに入ることで、具体的に以下の実務を一手に引き受けます。

① 財産の全容調査と評価

札幌の自宅不動産の正確な価値(路線価や固定資産税評価額)を調べ、預貯金の残高証明を集め、総額でいくらの遺産があるのか、遺留分はいくらになるのかを正確に計算します。

② 公証人との事前打ち合わせ・交渉

太一さんの病状(初期のアルツハイマー型認知症であること、寝たきりであること)を公証人に正確に伝え、自宅への出張手続きの調整や、遺言書原案の作成をすべて代行します。これにより、作成当日に公証人が「これなら大丈夫ですね」とスムーズにサインできる環境を整えます。

③ 証人(2人)の引き受け

公正証書遺言を作成する際には、利害関係のない2名の「証人」の立ち会いが必要です。推定相続人である郁美さんや、義雄さんは証人になれません。行政書士や守秘義務のあるスタッフが証人として立ち会うため、誰にも知られずに手続きを完了できます。

④ 医師や医療機関との連携アドバイス

どのような診断書を書いてもらえば裁判で勝てる証拠になるか、医師への上手なアプローチ方法を文面レベルで指導します。

郁美さんは現在、管理職を降りて事務職になり、心身ともに疲れ果てている中で、さらに義雄さんとの将来の争いや複雑な法的手続きのことを考えなければならず、精神的な限界を迎えていらっしゃいました。私たちが間に入ることで、郁美さんは「太一さんの最期の日々に寄り添う介護」に集中することができるようになります。

知っておきたい! 認知症の相続に関するQ&A

ここでは、郁美さんと同じような悩みを抱えている皆様からよくいただく質問について、分かりやすくお答えします。

長谷川式認知症スケールの点数が低くても、遺言書は絶対に書けませんか?

点数が低いからといって、自動的に無効になるわけではありません。 長谷川式認知症スケールやMMSEの点数は、あくまで「記憶力や計算力」の目安であり、法律上の「遺言能力」と完全に一致するわけではありません。例えば、点数が15点(中等度の認知症レベル)であっても、「自分の娘に家をあげる」という極めて単純な内容であり、かつ本人がその理由(介護をしてくれているから)を周囲にはっきりと説明できる状態であれば、遺言能力が認められた裁判例は多数あります。大切なのは点数そのものよりも、「その遺言内容を本人が本当に理解して望んでいるか」という実態です。

兄に内緒で遺言書を作っても大丈夫ですか?後からバレて怒られませんか?

全く問題ありません。むしろ、秘密に進めるべきです。 遺言は、遺言者(お父様)が誰にも邪魔されず、自身の自由な意思で残すものです。作成時に他の相続人に通知する義務はありませんし、公証役場や行政書士には厳格な守秘義務があります。事前に伝えるとお兄様が札幌に怒鳴り込んできたり、お父様に圧力をかけて遺言を妨害したりするリスクが生じます。お父様が亡くなった後に遺言書を開示すれば十分です。そのための「付言事項(メッセージ)」をしっかりと書いておきましょう。

お父様が文字を書けなくなっていても、公正証書遺言は作れますか?

はい、署名ができなくても作成可能です。 お父様が寝たきりで、骨折の影響や麻痺などで手が震えて字が書けない場合でも心配いりません。公正証書遺言では、公証人がお父様の意思を口頭で確認(口授)し、公証人が代わりに遺言書を作成します。署名の欄はお父様が自署できない理由(病気療養のため等)を公証人が付記し、お父様は「拇印(ぼいん)」を押すだけで法的に完全に有効な遺言書が完成します。

行政書士に相談してから、遺言書が完成するまでにどれくらいの期間がかかりますか?

通常、2か月程度ですが、急ぎの対応も可能です。 戸籍謄本を取り寄せて相続人を確定させ、不動産の調査をし、主治医の診断書を手配した上で、公証人と出張日時の調整を行うため、丁寧に進めると2か月かかります。ただし、お父様の体調が急変するリスクがある場合などは、公証役場と交渉をし、2週間程度で緊急作成する特急対応を行うこともあります。気づいた段階で一刻も早く動くことが重要です。

もし遺言書を作らないままお父様が亡くなったら、財産はどうなりますか?

お兄様と2分の1ずつの共有状態になり、話し合いがまとまらなければ自宅を売却せざるを得なくなります。 遺言書がない場合、お父様の財産は「遺産分割協議」という話し合いで決めることになります。法律上の権利はお兄様も2分の1持っています。5年間一度も札幌に帰ってこず、介護の苦労を全く知らないお兄様であっても、法律は無情にも2分の1の権利を認めます。お兄様が「法律通り半分よこせ、払えないなら札幌の家を売って現金化しろ」と主張した場合、郁美さんは住む家を失うか、お兄様に多額の現金を支払わなければならなくなります。口約束の優しさは、法律の前では無力です。

まとめ ~ 介護の努力が報われる確かな未来のために

この物語の主人公である島田郁美さん、本当によく頑張りました。 キャリアをリセットし、収入を減らしてまで太一さんのしもの世話を含む在宅介護を引き受けることは、並大抵の覚悟でできることではありません。太一さんが「全財産を郁美に」と言ってくれているのは、太一さんから郁美さんへの、精いっぱいの感謝のしるしであり、親としての愛情そのものです。

認知症という病気は、残酷にも少しずつ進行していきます。今日しっかり会話ができていても、3か月後、半年後にはどうなっているか分かりません。「まだ初期だから大丈夫」「本人がしっかりしているからそのうちに」と先延ばしにしていると、ある日突然、法的な遺言能力が完全に失われ、二度と遺言書が書けなくなってしまう瞬間が訪れます。そうなってからでは、どれだけ専門家が知恵を絞っても、太一さんの願いを叶えることはできなくなります。

太一さんの意識がはっきりしており、「郁美に全てを残したい」という強い意思をご自身の口で語れる「今」こそが、法的に有効な遺言書を残せるラストチャンスです。

今回の物語は特殊な事例ではありません。高齢化社会で認知症の比率は80歳以上で20~50%です。(厚生労働省2022年度調査)従い、この年齢のお父様、お母様が健在の方は、「あの時、ちゃんと手続きをしておいて本当によかった」と心から安心できる未来を迎えるために、第一歩を踏み出してみませんか?いつでもお気軽にご相談ください。丁寧にお話を伺います。

■ 札幌での相続・遺言のご相談なら

札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。

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