【札幌発 兄さん、名前を貸すだけだから】弟の会社の借金と公正証書が必要な保証契約について 札幌の行政書士やっくんが解説

札幌もいよいよ、本格的な夏を迎えようとしています。

6月は涼しい日が多かったのに突然の蒸し暑い毎日、熱中症や夏バテ、食中毒等気をつけなくてはなりません。

水分の補給や食事には十分注意をはらい、北海道の短い夏を満喫しましょう!

さて、本日は 公正証書 保証契約 についてお話したいと思います。

どちらも、うちには関わりのない話だと思われるかもしれませんが、どうしても断り切れない間からでの「保証人」の問題について、よりわかりやすくするため物語を交えて解説したいと思います。

少し長めの内容とはなりますが、皆様にもいつ訪れるかもしれない問題ですので、ぜひ最後まで読んでいただきたいと思います。

目次

札幌のとある兄弟の物語 弟の会社の借金に兄が保証人??

1.プロローグ

札幌の街並みがすっかり秋の気配に包まれ始めた、ある日の夕暮れ時のことです。

札幌市内の食品メーカーに勤める佐々木正志さんは、仕事帰りに大通公園のベンチで、缶コーヒーを片手に一息ついていました。正志さんは今年で58歳。定年退職の足音が少しずつ近づいてくる中、長年家族を支え、払い続けてきた住宅ローンもようやく完済目前を迎えていました。

「これで肩の荷が下りるな。これからは、妻とのんびり温泉旅行にでも行こうか」

そんな風に、穏やかなセカンドライフを思い描いていた正志さんのスマートフォンが、ポケットの中で静かに震えました。画面を見ると、札幌市内で小さな建設会社を経営している3歳年下の弟(修さん)からの着信でした。

普段はめったに連絡を寄こさない弟からの電話に、少しの胸騒ぎを覚えながらも、正志さんは通話ボタンを押しました。

「もしもし、修か? どうしたんだ?」

画面越しの弟の声は、どこか切羽詰まっているようでありながら、必死に明るさを装っているように聞こえました。

「あ、兄さん? 忙しいところごめん。実はさ、ちょっと相談というか、お願いがあって。近いうちに一度、会えないかな?」

2.運命の夜 すすきのの居酒屋での「お願い」

数日後の週末、正志さんは修に指定された、すすきのの路地裏にある居酒屋の暖簾をくぐりました。 席につくなり、修はビールを注文し、世間話もそこそこに本題を切り出しました。

「兄さん、実は今度、新しい公共工事の案件が取れそうでさ。そのための資材購入や人件費の支払いで、どうしてもまとまった資金が必要になったんだ。それで、いつも取引している銀行から融資を受けることになったんだよ」

「それは良かったじゃないか。お前の会社も、順調にいっているんだな」

正志さんは安堵してビールを口に運びました。しかし、修の次の言葉に、喉が思わず凍りつきました。

「ただ……融資の条件として、保証人が一人必要だと言われてね。兄さん、名前を貸してくれないか?」

「えっ、保証人……?」

正志さんの脳裏に、「保証人にだけはなるな」という、亡き父からの遺言のような言葉がよぎりました。一瞬にして顔を曇らせた正志さんを見て、修は身を乗り出し、懇願するように手を合わせました。

「名前を貸すだけだから! 会社の売り上げは順調だし、今回は確実に入る公共工事の資金なんだ。返済計画もバッチリ立ててある。兄さんに迷惑をかけることは絶対にない。これは形式的な手続きなんだよ。どうか、お願いだ。兄さんしか頼れる人がいないんだ」

「形式だけ……か。しかし、保証人というのは、もしお前が返せなくなったら、俺が代わりに払うということだろう?」

「もちろん、そんなことには絶対にさせない! 万が一のときでも、会社に設備や資産があるから大丈夫だ。本当に、名前を貸すだけでいいんだ」

幼い頃から、どこか憎めない、少し頼りない弟でした。困ったときにはいつも正志さんの後ろについて歩いていた弟が、今、必死の形相で頭を下げています。 正志さんは悩み抜きました。 自分はもうすぐ定年を迎え、老後の資金も考えなければならない身です。しかし、ここで自分が断れば、弟の会社はチャンスを逃し、最悪の場合は立ち行かなくなるかもしれない。

「うーん…分かった。お前がそこまで言うなら、名前を書くよ。ただし、絶対に迷惑はかけないでくれよ」

「ありがとう、兄さん! 恩に着るよ!」

修は涙ぐみながら、何度も頭を下げました。正志さんは、少しの不安を抱えつつも、「弟を助けてやれたのだ」と自分に言い聞かせ、その夜は家路につきました。

3.突然の弟からの要求 公証役場へ行ってほしい

ところが、それから数日後のことです。修から再び電話がかかってきました。

「兄さん、本当にありがとう。それでね、保証人の手続きなんだけど、銀行から公証役場へ行って、保証意思宣明公正証書を作ってきてほしいと言われたんだ。来週あたり、平日に時間を作って、大通の公証役場に行ってもらえないかな?」

正志さんは耳を疑いました。

「こうしょうやくば? こうせいしょうしょ?……おい、ちょっと待て。借金をするのはお前の会社だろう。ただ書類に名前を書いてハンコを押すだけじゃないのか? どうして保証人になるだけの自分が、わざわざ仕事を休んで公証役場なんていう、お堅い場所に行かなければならないんだ?」

正志さんの頭の中は、一気に混乱と強い不安で満たされました。 「名前を貸すだけ」という弟の軽い言葉とは裏腹に、何か非常に重大な、取り返しのつかない大ごとに向かっているのではないか。

なぜ公証役場へ行かなくてはいけないのか?

実は、正志さんが直面したこの「公証役場へ行くこと」こそ、日本の民法が定める「個人保証人を保護するための極めて重要な砦」なのです。

今回は、行政書士の立場から、なぜ正志さんが公証役場へ行かなければならないのか、そして「事業用の融資における個人保証」に潜む本当のリスクとルールについて、分かりやすく徹底的に解説していきます。

借金や保証契約は、原則として公正証書がなくても成立する

まず、基本的な法律のルールから整理していきましょう。

世の中の多くの契約は、お互いの「貸します」「借ります」「保証します」という意思の合意があれば成立します。 お金の貸し借り(消費貸借契約)や、その借金を主債務者に代わって返済することを約束する「保証契約」も、原則として公正証書がなくても成立します。

書面(または電磁的記録)は必須

ただし、保証契約については、後から「言った・言わない」のトラブルになることを防ぐため、民法によって「書面(または電子データ)で契約をしなければ効力を生じない」と定められています(民法第446条2項)。 したがって、口約束だけの保証は無効ですが、裏を返せば、「保証契約書」という紙の書類に署名・捺印をするだけで、法律上は有効に保証契約が成立してしまうのが大原則なのです。

では、なぜ今回の正志さんのケースでは、ただの契約書だけでなく「公正証書」が必要だと言われたのでしょうか。

事業用融資の保証には特別なルールがある

その理由は、弟の修さんが受ける融資が「事業用融資(法人の事業資金)」だからです。

日本のこれまでのビジネス慣行において、中小企業が銀行から融資を受ける際、経営者の親族や知人が「義理や人情」「断りきれない関係性」から、安易に保証人(あるいは連帯保証人)になってしまうケースが後を絶ちませんでした。

その結果、会社が倒産した際に、保証人となった個人が突然数千万円、数億円という巨額の借金を背負わされ、自宅を失い、自己破産に追い込まれ、場合によっては家庭崩壊や自殺に至るという悲劇が社会問題化し続けたのです。

このような悲劇を未然に防ぐため、2020年(令和2年)4月1日に施行された「改正民法」において、非常に画期的なルールが導入されました。それが、「個人が事業用融資の保証人になる場合、あらかじめ公証役場で保証する意思を確認してもらい、公正証書を作成しなければ、保証契約自体を無効にする」という厳格なルールです。

経営者ではない個人が保証人になる場合、公正証書が必要になる

このルールは、すべての保証人に適用されるわけではありません。ポイントは、誰が保証人になるかです。

法人が事業資金を借りる際、その会社の「代表取締役(社長)」自身が連帯保証人になることが一般的です。このように、会社の経営に直接関与し、会社の財務状況を完全に把握している立場の人(主たる債務者が個人事業主の場合は、その共同事業者や配偶者など)については、この公正証書の作成は不要です。

しかし、物語の佐々木正志さんのように、「会社経営に全く関与していない、単なる親族や知人(第3者の個人)」が保証人になる場合には、必ず公正証書を作成しなければならないと法律で義務付けられました。

もし、この公正証書を作らずに、銀行と正志さんとの間で「保証契約書」だけにサインを交わした場合、その保証契約は法律上「無効」になります。

銀行が修さんに「公証役場へ行って、手続きをしてきてほしい」と求めたのは、この法律をクリアしなければ、万が一のときに正志さんからお金を回収できなくなってしまうためです。

なぜこの制度が設けられたのか

では、なぜ国はわざわざこのような面倒な手続きを法律で義務付けたのでしょうか。 その理由は、一言で言えば「保証人になろうとする個人に、頭を冷やし、本当のリスクを再認識する機会(ライトチェック)を与えるため」です。

弟の修さんは正志さんにこう言いました。 「名前を貸すだけだから」 「絶対に迷惑はかけないから」 「形式的な手続きだから」

これらは、保証人を頼む人が使う「典型的な決まり文句」です。頼まれた側は、身内のよしみや、「まさか弟が自分を騙すはずがない」「そこまで言うなら」という感情に流され、具体的なリスクを深く考えないまま、契約書に判を押してしまいがちです。

そこで法律は、契約を結ぶ前に、「国家公務員である公証人」という第三者の前で、その借金の額や、自分が背負う責任の重さを直接説明させ、本当に自分の財産を失う覚悟があるのかを、厳粛な空気の中で確認させることにしたのです。

公証役場の重々しい扉を開け、公証人と対峙することで、多くの人が「これは大変なことだ」と我に返ることができます。言わば、「義理人情による安易な署名を防ぐための防波堤」として、この制度は設けられたのです。

誰が対象になり、誰が例外になるのか

ここで、どのような場合に公正証書が必要になり、どのような場合に例外として不要になるのか、整理しておきましょう。

保証人になる人公正証書の要・不要具体的な対象者の例
1 主たる債務者が「法人」の場合
① 法人の代表取締役(社長)不要(そのまま契約可能)経営者本人はリスクを熟知して
いるため
法人の議決権の過半数を持つ株主不要(そのまま契約可能)実質的に会社を支配している
ため
③ 共同事業者や、業務に専念する
配偶者
不要(そのまま契約可能)経営に深く関与しているため
④ 上記以外の個人
(親族、知人、従業員など)
必要(公正証書が必須)佐々木正志さんはここに該当
します
2 主たる債務者が「個人事業主」の場合
① 共同事業者不要(そのまま契約可能)一緒に商売を行っているため
② 事業主の配偶者
(事業に専念している場合)
不要(そのまま契約可能)実質的な共同経営者とみなせる
ため
③ 上記以外の個人
(親族、友人など)
必要(公正証書が必須)単なる身内や知人の場合

正志さんは、修さんの建設会社の役員でもなければ、株主でもありません。食品メーカーに勤める、全くの「社外の個人(第3者)」です。したがって、公正証書の作成が「絶対条件」となります。

いつまでに作らなければならないのか

この公正証書は、いつでも作れば良いというわけではありません。作成する「タイミング」が厳格に決まっています。

【作成の期限】 保証契約を締結する前「1ヶ月以内」に作成しなければならない。

つまり、銀行と「保証契約書」を交わす当日、あるいはそれよりも前に、あらかじめ公証役場に行って公正証書を作成しておく必要があります。 例えば、2026年10月1日に保証契約を結ぶ予定であれば、その前1ヶ月間(9月1日〜9月30日までの間)に公証役場での手続きを完了していなければなりません。

これより前に作ったものは無効ですし、保証契約を結んだ後から「やっぱり公証役場に行って作ろう」というのは認められません。順序が逆になった時点で、その保証契約は無効となります。

公証人から何を確認されるのか

では、実際に正志さんが公証役場に行くと、どのようなことが行われるのでしょうか。

公証役場では、担当の公証人(元裁判官や元検察官などの法律の実務家)が、正志さんと対面し、個室などでじっくりと面談を行います。この手続きを「保証意思宣明(ほうしょういしせんめい)手続き」と呼びます。

公証人は、正志さんに対して以下のような内容を直接問いかけ、確認していきます。

① 主債務(弟の会社が借りる借金)の具体的内容を知っているか

「主債務者は〇〇建設、債権者は〇〇銀行、融資の限度額は3,000万円、金利は年〇.〇%、遅延損害金は……という契約ですが、間違いありませんか?」

② 保証人としての責任の重さを理解しているか

「もし〇〇建設が返済を怠った場合、あなた自身の給料や自宅、預貯金を投げ打ってでも、代わりにこの3,000万円を全額返済する義務を負うことになりますが、その覚悟はありますか?」

③ 主債務者(弟)の財産状況や、返済の見込みについて説明を受けているか

「主債務者から、会社の試算表や売上の状況、他からの借入状況などについて、事前に詳しい説明を受けましたか?」

④ 本当に自分の自由な意思で保証人になろうとしているか

「誰かに脅されたり、無理やり連れてこられたりしていませんか? 自分の意思で保証人になりますか?」

公証人は、正志さんが少しでも「えっ、そんな大金だとは知らなかった」「弟からそこまで説明されていない」と口にしたり、不安そうな素振りを見せたりした場合、公正証書の作成を拒否します。

公証人が作成を拒否すれば、公正証書は作れず、結果として保証契約を結ぶことはできなくなります。つまり、ここで嘘をついて「はい、分かっています」と言わない限り、手続きは進みません。正志さんは、自らの口で「自分が代わりに全財産を失ってでも払う」と言わされることになるのです。

    代理人では作れない理由

    「忙しいから、弟の修に代わりに公証役場に行ってもらおう」 「委任状を書くから、奥さんに頼めないか?」

    そう考える方もいるかもしれませんが、それは絶対に不可能です。

    この「保証意思宣明公正証書」の作成手続きは、必ず保証人になる本人自身(今回の場合は正志さん)が、公証役場に直接出向かなければならないと法律で定められています。代理人による作成は一切認められていません。

    なぜなら、この制度の本質が「本人の確実な意思を確認すること」だからです。もし代理人を認めてしまえば、融資を受けたい弟(主債務者)が、兄(正志さん)の実印や身分証明書をこっそり持ち出し、勝手に代理人として手続きをしてしまうといった不正が防げなくなってしまいます。

    どれだけ仕事が忙しくても、どれだけ公証役場が遠くても、本人が平日の昼間に公証役場へ足を運ぶ必要があります。これは、国が設けた究極の「ストッパー」なのです。

    「強制執行認諾文言付き公正証書」との違い

    ここで、法律に少し詳しい方がよく混同しやすい「もう一つの公正証書」との違いについて整理しておきましょう。

    実務上、お金の貸し借りの際に作られる公正証書として有名なのが「強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんだくもんごん)付き公正証書」です。

    これら2つの公正証書は、名前は似ていますが、目的も中身も全く異なります。

    【保証意思宣明公正証書】(今回の正志さんのケース)
    ◆ 目的:保証人になろうとする個人の「頭を冷やし、確認する」ため。
    ◆ 内容:「私は保証人になるリスクを十分に理解した上で、保証人になります」という本人の意思表示を記録したもの。
    ◆ 特徴:これ自体に「すぐに差し押さえができる」という強力な力はありません。あくまで保証契約を結ぶための「前段階のハードル」です。
    
    【強制執行認諾文言付き公正証書】
    ◆ 目的:返済が滞ったときに、裁判を通さずに「すぐに差し押さえをする」ため。
    ◆ 内容:「もし返済が遅れたら、裁判所の判決を待たずに、私の財産(給与や預金など)を差し押さえても構いません」という合意を記録したもの。
    ◆ 特徴:債権者(銀行など)にとって非常に強力な武器となります。
    

    もし、弟の修さんの借金について、銀行が「強制執行認諾文言付き公正証書」も求めてきた場合、正志さんは「裁判なしで、いつでも自宅や預金を差し押さえられる状態」を受け入れることになります。 これら2つの公正証書は全く別物であり、両方が求められるケースもあるため、自分が今どちらの、どのような書類に署名しようとしているのかを正確に把握する必要があります。

    保証人になる前に確認すべきこと

    もし、あなたが佐々木正志さんのように、大切な親族から「名前を貸すだけだから」と保証人を頼まれ、公証役場に行くことを求められたら、署名する前に必ず以下の5つのポイントを確認してください。

    1.主債務者の財務状況(情報提供義務)の有無

    改正民法では、事業用融資の保証を個人に依頼する場合、借り手(弟の修さん)は保証人(正志さん)に対して、自社の財務状況に関する以下の情報を必ず提供しなければならないと定めています(民法第465条の10)。

    ・ 直近の財産、収支の状況(決算書、試算表など)

    現在抱えている他の借入金(他社からの融資やローンの残高)

    ・ 返済計画と、その履行の見込み

    もし、弟が「決算書は見せられないけど、大丈夫だから」と言ってお茶を濁すようであれば、その時点で保証人を断るべきです。情報を開示しない、あるいは嘘の情報を伝えて保証人にさせた場合、その保証契約は後から取り消される可能性があります。

    2.「連帯保証人」と「保証人」の違いを理解しているか

    多くの場合、銀行から求められるのは単なる「保証人」ではなく、より責任の重い「連帯保証人」です。 連帯保証人には、以下の強力な権利がありません。

    ① 催告の抗弁権(さいこくのこうべんけん)がない

    「まずは主債務者(弟)に請求してくれ」と言える権利がありません。

    ② 検索の抗弁権(けんさくのこうべんけん)がない

    「弟には返す財産があるから、そっちを先に差し押さえてくれ」と言える権利がありません。

    つまり、「連帯保証人」を選択すると、弟の会社にお金があろうがなかろうが、銀行から「正志さん、あなたが代わりに払ってください」と言われたら、正志さんは一切の言い訳をせず、全額を支払わなければならないのです。

    3.「名前を貸すだけ」「形式だけ」という言葉の嘘

    法律の世界において、「名前を貸すだけ」という保証人は存在しません。 どれだけ弟が「形式だけだ」と主張しても、ひとたび契約が成立し、公正証書が作られれば、正志さんは「銀行に対して数千万円の債務を直接背負った当事者」になります。 「弟が絶対に迷惑はかけないと言ったから」という理由は、銀行に対して1ミリも通用しないことを肝に銘じてください。

    4.セカンドライフへの影響を具体的に想像する

    正志さんは58歳。住宅ローンを完済し、老後の蓄えをこれから作っていく大切な時期です。 もし、弟の会社が倒産し、3,000万円の保証債務が正志さんに降りかかってきたらどうなるでしょうか。

    • 完済目前だった自宅は、差し押さえられ競売にかけられます。
    • 定年退職で手に入るはずだった退職金は、すべて銀行の返済に消えていきます。
    • 老後の年金だけでは暮らせず、高齢になっても過酷な労働を続けざるを得なくなるかもしれません。
    • 奥様との関係も悪化し、離婚に踏み切らざるを得なくなるかもしれません。

    「弟を助けたい」という優しい気持ちの代償が、あまりにも大きすぎるという現実を、冷静に天秤にかける必要があります。

    5.「保証人を断る」という選択肢を持つ

    「ここで断ったら、兄弟の縁が切れるかもしれない」 そう思うかもしれません。しかし、本当にあなたを大切に思っている身内であれば、あなたの生活や家族全員を破滅に導くリスクがある「保証人」を無理に強要することは無いはずです。

    保証人を断ることは、決して薄情なことではありません。自分の家族と、自分の人生を守るための正当な権利です。

    物語の結末  佐々木正志さんの選択

    数日後、正志さんは再び弟の修さんと向き合いました。手元には、今回の保証契約と公正証書について調べ尽くしたメモがありました。

    「修、悪いけれど、公証役場に行くことはできない。俺は保証人にはなれない」

    修は一瞬、言葉を失い、それから怒ったような、悲しそうな顔をしました。

    「兄さん、どうしてだよ! 名前を貸すだけだって言ったじゃないか! 公証役場に行くのも、ただの決まり切った手続きだよ。俺を信用できないのか?」

    正志さんは静かに、しかし毅然とした態度で答えました。

    「お前を信用していないんじゃない。法律を調べたんだ。公証役場に行くということは、俺がお前の代わりに人生をすべて投げ打ってでも、3,000万円を払う覚悟があると、公証人の前で宣言するということだ。 俺はもうすぐ定年だ。住宅ローンをようやく返し終え、これからは妻と穏やかに暮らそうと話している。もしお前の会社に万が一のことがあったら、俺たちの家も、老後の資金も、すべて一瞬で失われる。そんな重大な責任を名前を貸すだけなんて軽い言葉で引き受けるわけにはいかないんだ」

    正志さんは一呼吸置いて、さらに言葉を続けました。

    「修、お前が事業を成功させたい気持ちは本当によく分かる。だけど、兄貴の生活を担保にしなければ成り立たないような融資なら、それは返済計画そのものに無理があるんじゃないか? 銀行と、もう一度保証人を立てない別の融資枠(経営者保証ガイドラインの適用など)がないか、徹底的に交渉してみてくれ。あるいは、別の資金調達の方法を一緒に考えよう。汗を流して手伝うことはできても、命の次に大切な家族の生活を、書類一枚で差し出すことはできないんだ」

    正志さんの真っ直ぐな目を見て、修は反論の言葉を失いました。肩を落とし、しばらく沈黙していた修でしたが、やがて小さくため息をつき、ぽつりと言いました。

    「ごめん、兄さん。俺、自分の事業のことばかりで、兄さんのこれからの生活のことなんて、全然考えていなかった。本当に身勝手な頼みをしてしまったよ。分かった。保証人の件は白紙に戻す。銀行には、別の保証の形や、担保の提供で交渉できないか、もう一度掛け合ってみるよ」

    修の表情から、焦りと強がりが消え、経営者としての引き締まった顔に戻っていました。

    大通公園を歩いて帰る正志さんの胸には、冷たい秋風が吹き抜けていましたが、その心は不思議と、すっきりと晴れ渡っていました。

    まとめ ~ 大切なサインをする前にご相談ください

    「身内からの頼みだから、断りにくい」 「公正証書を作ってほしいと言われたけれど、どうすればいいか分からない」

    このような悩みを抱えている方は、非常に多くいらっしゃいます。 契約や法律のルールは複雑であり、特に民法改正によって保証人の保護が手厚くなった一方で、手続きの内容を知らないままに流されて署名してしまう危険性は依然として存在します。

    行政書士は、こうした契約に関する身近な街の専門家です。 「この契約書にサインしても大丈夫なのか」「公証役場から呼び出されたけれど、どのようなリスクがあるのか」など、客観的な立場からアドバイスを行い、あなたが不利益を被らないよう徹底的にサポートいたします。

    一生をかけて築き上げてきた大切な財産と、これからの人生を守るために。 少しでも不安や疑問を感じたときは、決して一人で抱え込まず、まずは専門家へお気軽にご相談ください。あなたの勇気ある第一歩が、あなたと、そして大切なご家族の未来を救うことになります。

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