相続土地国庫帰属制度 使い方及び条件 札幌の行政書士やっくんが解説

相続土地国庫帰属制度とは、相続によって取得したものの、利用する予定のない土地を国(国庫)に引き取ってもらうことができる制度です。2023年(令和5年)4月27日よりスタートしました。

近年、相続をきっかけに放置される「所有者不明土地」が社会問題化しています。管理されない土地は、雑草の繁茂や不法投棄、土砂崩れのリスクなど、近隣住民に悪影響を及ぼします。こうした事態を防ぎ、相続人の負担を軽減するために本制度が創設されました。

非常にありがたい制度ではあるものの、全ての土地を引き取ってくれるわけではありません。この辺も含めて、深く掘り下げて解説したいと思います。

目次

相続土地国庫帰属制度とは?

日本国内における不動産を取り巻く環境は、人口減少、少子高齢化、そして地方から都市部への急激な人口流出という構造的な変化によって、転換期を迎えています。高度経済成長期には資産価値の上昇が期待され、所有すること自体が目的化されていた土地も、現在では利用見込みがないのに、固定資産税や維持管理のコストばかりがかかる「負動産」となってしまっているということも珍しくありません。このような土地を相続したものの、管理を持て余す相続人が急増し、不動産登記簿を確認しても現在の真の所有者が判明しない、あるいは所有者に連絡がつかない「所有者不明土地」が全国土の約2割に達するという社会問題が顕在化しました。所有者不明土地の増加は、隣接地の環境悪化や公共事業の用地買収の遅れ、さらには災害復旧の妨げとなるなど、損失を招いています。

こうした背景の下、所有者不明土地の発生予防と土地利用の円滑化を目的とする総合的な民事法制の見直しが行われ、2021年(令和3年)4月に「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、相続土地国庫帰属法)」が成立しました。この法律に基づき、2023年(令和5年)4月27日より本格的に運用が開始されたのが相続土地国庫帰属制度です。

本制度の概要は、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した者が、法務大臣(実務上は法務局)の承認を受け、一定の負担金を納付することを条件に、その土地の所有権を手放して国庫(国)に帰属させることができるというものです。従来の法制度下では、所有権の絶対性が重んじられ、相続した土地の所有権のみを自発的に放棄する手段は存在しませんでした。不要な土地を手放すには、全ての遺産を放棄する相続放棄を選択するか、市場で第三者に売却する以外に道はなく、買い手のつかない地方の山林や原野を相続した者は、半永久的に管理コストを強いられるという制度の欠陥が存在しました。新たに施行された本制度は、国が最終的な受け皿となる道を開いた点において、画期的な内容となっています。

制定のポイントは、個人の過剰な負担を軽減しつつも、将来の管理コストを国民全体の税金で負担するというバランスをいかに取るかという点にあります。国がすべての不要な土地を無条件に引き受けることになれば、国家財政はひっ迫する上、土地所有者が意図的に粗悪な土地を国に押し付けるという制度の悪用が横行する懸念があります。これを防止するため、本制度では国が引き取ることができない土地の要件を厳格に規定し、審査手数料および今後10年間の標準的な管理費用に相当する負担金の納付を申請者に義務付けています。

制度開始後の統計データを見ると、本制度に対する潜在的なニーズの高さが伺えます。2023年度末時点で1,905件であった申請総数は、2024年度末時点には3,580件へと倍増しています。また、帰属が認められた件数も同時期に総数1,486件に達し、前年度末から1,200件以上の大幅な増加となりました。一方で、却下や不承認となった件数はそれぞれ50件台に留まっているものの、申請の取り下げ件数が2023年度末の212件から2024年度末には579件へと急増している事実は見逃せません。この最大の原因は、申請者が制度の厳格な要件や高額な費用負担に直面し、手続きの途中で国庫帰属を断念せざるを得ないケースが頻発していることによります。

※ 上記統計データは ⇒ 法務省:相続土地国庫帰属制度について 

相続土地国庫帰属制度の条件と対象について

本制度の対象となるには、申請者の資格に関する要件と、土地の物理的・権利的な状態に関する要件の双方を完全にクリアする必要があります。

まず最初に、申請権者の範囲は「相続又は相続人に対する遺贈によって土地の所有権を取得した者」に限定されている点です。この規定は、本制度が予期せぬ相続によって管理不全に陥る土地の救済を目的としていることに由来しています。したがって、相続等以外の原因、例えば自らの意思で取得した土地や、生前贈与によって取得した土地については、本制度を利用することができませんまた、法人はそもそも相続により土地を取得することができないため、原則として申請適格を有しません。対象となる土地が複数人の共有状態にある場合は、共有者全員が共同して申請を行うことが義務付けられています。一人の共有者が自らの持分のみを国庫に帰属させることは認められていません。ただし、共有者の中に売買等で持分を取得した者が含まれていたとしても、相続等によって持分を取得した者が少なくとも1名含まれていれば、その相続人と共同で申請を行うことは可能です。また、制度開始(令和5年4月27日)よりも前に発生した過去の相続によって取得した土地であっても、問題なく対象となります。

第二に、対象となる土地の要件です。国は、通常の管理や処分をするに当たって過分な費用や労力がかかる土地を引き取ることはできません。これについては、審査の入り口段階で門前払いとなる「却下要件(法第2条第3項)」と、詳細な審査の結果として引き取りを拒否される「不承認要件(法第5条第1項)」で規定されています。

これら「使えない土地」の基準は以下の表の通りです。

区 分根拠条文使えない土地の具体的要件排除される理由および背景
却下要件
(申請の段階で直ちに却下)
法第2条第3項A. 建物がある土地建物の老朽化による倒壊リスクや、解体・撤去費用を国が負担することを避けるため。申請前に自費で解体し更地にする必要がある。
B. 担保権や使用収益権が
設定されている土地
抵当権などの担保権や、他者の地上権・賃借権が付着した土地は、国の自由な処分を妨げ、権利関係の清算に多大なコストを要するため。
C. 他人の利用が予定されている土地通路、水路、墓地、境内地など、事実上他者が利用することが前提となっている土地は、国庫帰属後に利用制限や摩擦を生むため。
D. 土壌汚染されている土地特定有害物質による汚染土壌の浄化には莫大な税金が投入されるリスクがあるため。
E. 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲
について争いがある土地
行政による筆界ではなく「所有権界」が確定していない場合、隣接所有者との間で紛争に巻き込まれるリスクが高いため
不承認要件
(審査・実地調査の結果として不承認)
法第5条第1項A. 一定の勾配・高さの崖
がある土地
土砂崩落を防ぐための擁壁設置や斜面保護など、管理に過分な費用・労力がかかる地形であるため。
B. 土地の管理・処分を
阻害する有体物が地上に
ある土地
放置車両、大量の廃棄物、伐採が必要な樹木などが放置されている場合、その撤去費用が国に転嫁されることを防ぐため。
C. 土地の管理・処分の
ために除去が必要な有体
物が地下にある土地
産業廃棄物や、以前建っていた古い建物のコンクリート基礎など、地下埋設物の除去コストを回避するため。
D. 隣接土地所有者等との
争訟によらなければ管理
・処分ができない土地
不法占拠者が居座っている場合など、訴訟や強制執行を前提とする土地は、国に多大な負担を強いるため。
E. その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地特殊な地形や極端な悪条件など、上記に該当しなくとも国が引き取ることにより著しい支障を来す土地を包括的に排除するため。

これらの要件を概観すると、国庫に帰属させるためには、土地が完全な更地であり、かつ権利関係や境界に一切の問題がないクリーンな状態であることが絶対条件となっていることがわかります。境界が不明な場合は土地家屋調査士に依頼して測量を行い、建物や放置車両があれば解体・撤去費用を負担し、抵当権があれば借金を返済して抹消登記を行わなければなりません。すなわち、本制度はありのままの状態で国に土地を投げ出せる制度ではなく、引き取り可能な状態に整えるための初期投資を申請者が負担しなければならないという前提に立っています。

相続放棄、売却・処分と比べたメリット・デメリット

相続によって不要な土地を取得してしまった場合、相続土地国庫帰属制度の利用以外にも、「相続放棄」や「第三者への売却(処分)」という選択肢が考えられます。それぞれの法的な性質、経済的負担、そして実務上の効果は大きく異なるため、土地の状況や相続人全体の資産状況に応じて慎重な判断が求められます。

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それぞれの手段におけるメリットとデメリット

制度・手段対象となる範囲経済的な負担管理責任の帰趨主なメリット・デメリット
相続土地国庫帰属制度特定の土地のみ(選択的)審査手数料(1.4万円)+負担金(20万円〜)+整備費用国庫帰属時点で完全に消滅【メリット】他の有用な財産を相続したまま不要な土地だけを手放せる。買主を探す手間が不要。
【デメリット】要件が厳格で、負担金や測量等の高額な初期費用が発生する。
相続放棄遺産全体(プラスもマイナスも包括的)原則不要(裁判所への手続費用数千円程度)次の管理者が決まるまで残存するリスクあり【メリット】借金などの負債も免れ、負担金の支払いも不要。
【デメリット】預貯金や自宅などのプラス財産も全て失う。放棄後も管理責任(保存義務)が問われる懸念がある。
売却(仲介・買取等)特定の土地のみ(選択的)仲介手数料、測量費等(売却益で相殺可能)売却完了時点で所有権と共に移転【メリット】現金化でき、利益が出る可能性がある。負担金が不要。
【デメリット】需要のない土地は永遠に売れず、手放せない。買主との間で契約不適合責任を負う可能性がある。

第三者への売却は、最も理想的な解決策です。土地を手放すと同時に売却代金を得られ、将来の管理責任からも解放されるからです。しかし、需要が完全に消失している過疎地の原野や急傾斜の山林は、価格をゼロに設定しても買い手がつかないのが不動産市場の現実です。買い手が見つからなければ、永遠に固定資産税を払い続けなければなりません。

「相続放棄」は、民法第915条第1項に基づき、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述を行うことで、初めから相続人とならなかったものとみなされる制度です。この最大のメリットは、国庫帰属制度のような厳しい土地の要件審査や、数十万円の負担金納付が不要である点です。しかし、相続放棄は「包括的」な性質を持つため、「いらない山林だけを放棄して、預貯金や実家は相続する」といった都合の良い選択はできません。また、民法第940条の規定により、相続放棄をしたとしても、次順位の相続人や相続財産清算人が財産の管理を始めるまでは、その財産を自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理する義務(保存義務)が残る可能性があります。土砂崩れや倒木によって第三者に損害を与えた場合の賠償責任から完全に逃れられるとは限らない点も注意が必要です。

これらに対して、「相続土地国庫帰属制度」は「選択的」に特定の土地のみを手放せるという特徴を持ちます。これにより、資産価値の高い実家や預貯金といったプラスの財産を確実に引き継ぎつつ、負債でしかない不要な土地だけを国庫に移転させることが可能となりました。売却のようにいつ現れるか分からない買主を待つ必要もなく、一度負担金を納付して国庫に帰属すれば、将来にわたる固定資産税の負担や崖崩れ等の管理責任から未来永劫解放されます。その反面、前述の厳しい要件を満たすための労力と、金銭的コスト(審査手数料、測量費、負担金等)が発生するというデメリットを受け入れる必要があります。

申請手続きの流れを解説 ~ 自分で進める場合の準備と必要書類

相続土地国庫帰属制度は、要件が厳密に定められているため、事前の準備から承認・納付に至るまでの手続きを正確に踏む必要があります。申請者自身で手続きを進める場合の詳細なステップと、必要となる書類の全容を解説します。

STEP
事前相談とセルフチェック(土地状況の把握)

いきなり法務局に申請書を提出することはお勧めできません。14,000円の審査手数料が無駄になるリスクがあるため、まずは対象となる土地が法第2条および法第5条の引き取り&不可要件に該当していないかをセルフチェックしましょう。法務省のホームページには「相談したい土地の状況について(チェックシート)」および「相続土地国庫帰属相談票」のフォーマットが用意されており、これらを事前にダウンロードして記入することが第一歩となります。

相続土地国庫帰属相談票の入手先 ⇒ 相続土地国庫帰属相談票

自己点検を終えたら、管轄の法務局(または地方法務局)の「本局」にある不動産登記部門に対し、事前相談を行います。支局や出張所では相談を受け付けていません。対象の土地が遠方にある場合でも、申請者が居住する最寄りの法務局(本局)で相談が可能であるため、わざわざ遠隔地に足を運ぶ必要はありません。相談は1回30分以内の完全予約制となっており、「法務局手続案内予約サービス」を通じたインターネット予約、または電話での事前予約が必須です。2024年10月15日からはWEBでの相談対応も開始されており、利便性が向上しています。

事前相談の際には、手ぶらで行くのではなく、以下のような資料を可能な限り持参することが必要です。

① 登記事項証明書または登記簿謄本(法務局で取得)

② 法務局で取得した地図または公図の写し

③ 法務局で取得した地積測量図

④ その他、手元にある測量図面や境界に関する資料

⑤ 土地の現況や全体像、境界点が分かる画像や写真

STEP
申請書類の作成と準備

相談を経て、国庫帰属の承認が得られる見込みが高いと判断された場合、正式な承認申請の準備に入ります。提出する書類は「自ら作成・撮影するもの」と「官公署から取得するもの」に大別されます。

書類区分提出が必要な書類作成・準備のポイント
新たに自ら作成する書類承認申請書法定の様式に則り、申請者の情報や対象土地の表示を記載する
承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面公図等をベースに、対象土地の正確な位置関係を図示する
当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真現地にある境界標識(コンクリート杭や金属標)を明確に撮影したもの
承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真土地全体を見渡し、崖や有体物の有無が確認できるアングルで撮影したもの
用意する書類(官公署等発行)申請者の印鑑証明書全ての申請者が添付必須。市区町村役場にて取得する
固定資産税評価額証明書任意提出だが、審査の参考資料として有用(市区町村で取得)
現地案内図任意。山林など、申請土地に辿り着くことが難しい場合に提出する
その他相談時に指示された資料権利関係や境界の経緯に関する説明資料など
STEP
申請書の提出と審査手数料の納付

全ての書類が整ったら、対象土地を管轄する都道府県の法務局(本局)に提出します。提出方法は窓口への持参が原則ですが、郵送による提出も認められています。窓口へ持参する場合、原則として申請者本人が来庁する必要がありますが、困難な場合は家族が代行して提出することも差し支えないとされています。申請書には、土地1筆につき

14,000円分の収入印紙を貼付して審査手数料を納付します。

STEP
法務局による書面調査および実地調査

申請が受理されると、法務大臣から権限を委任された法務局の担当職員による審査が始まります。提出された図面や写真に基づく「書面調査」に加え、職員が実際に現地に赴いて崖や残置物、境界の状況を確認する「実地調査」が行われます。もし正当な理由なくこの実地調査を拒んだ場合、申請は直ちに却下されます。

STEP
審査結果の通知と負担金の納付

審査の結果、引き取り要件を満たすと判断された場合、法務局から承認の決定通知とともに「負担金の納入告知書」が郵送されてきます。申請者は、通知が到達した日の翌日から起算して30日以内に、指定された日本銀行(または代理店等)の窓口で現金にて負担金を一括納付しなければなりません。

STEP
国庫帰属の効力発生

納付期限内に負担金が払い込まれたその時点をもって、法的に対象土地の所有権が国庫に帰属(移転)し、すべての手続きが完了します。

審査手数料・負担金・納付の仕組みについて

本制度は、国民の税金の無駄な投入を避けるため、申請者に「受益者負担」の観点から一定の経済的コストを求めています。費用は申請時の「審査手数料」と、承認後の「負担金」という二つの要素で構成されています。

(1)審査手数料

審査手数料は、法務局による書類審査や現地調査にかかる行政コストを賄うためのものです。金額は「土地1筆につき一律14,000円」と定められており、申請書に収入印紙を貼付する形で納付します。注意点として、この審査手数料は、申請が受理された後は、結果が「却下」や「不承認」になった場合、あるいは申請者自身が途中で「申請を取り下げた」場合であっても、いかなる理由においても一切返還されないということです。境界が不明確なまま「とりあえず申請してみる」といった安易な行動は、単に14,000円を無駄にする結果に終わるため、十分な事前確認が必要となります。

(2)負担金(10年分の管理コスト)

負担金は、申請が承認され、国が対象土地を引き取った後、国有地として将来にわたり管理していくために必要となる「10年分の標準的な費用の額」を考慮して算定される一時金です。負担金の算定方法は、土地の「種目(宅地、農地、森林など)」と、その土地が「属する区域(市街化区域、用途地域など)」の組み合わせによって決められています。

土地の種目および区域負担金の算定方法と金額の目安
市街化区域外の一般的な土地
(宅地、農地、雑種地、原野など)
面積に関係なく、土地1筆あたり原則20万円の定額。
市街化区域内の宅地、または用途地域内の宅地面積に応じて算定。草刈りや巡回等の管理頻度が高いため、面積が広くなるほど金額が上がる(例:200㎡超で数十万円〜)。
市街化区域内、または農用地区域内の農地面積に応じて算定。周辺の農業環境保全のため高度な管理が求められるため、面積比例で算定される
森林(すべての山林)面積に応じて算定。面積が広大になることが多く、基本額を超える高額な負担金(数十万円〜数百万円)となる可能性がある

面積に応じて金額が変動する土地(森林など)の場合、計算式が複雑になるため、法務省のホームページで提供されているExcelファイルの「負担金額の自動計算シート」を活用することで、事前に正確なシミュレーションを行うことが推奨されます。

(3)負担金額算定の特例(隣接地の合算申出)

日本の不動産登記の実務では、一団の利用形態にある土地であっても、登記簿上は細かく複数の筆に分かれていることが珍しくありません。原則通り1筆ごとに20万円の負担金を適用すると、例えば3筆に分かれているだけで基本負担金が60万円に跳ね上がってしまう。このような不合理を解消し、申請者の負担を軽減するために設けられたのが、「負担金額算定の特例(政令第6条)」です。

この特例は、隣接する2筆以上の土地について、法務大臣に「合算申出書」を提出することで、それらを「一つの土地」とみなして負担金を算定する制度です。特例が適用されれば、複数筆であっても1筆分(20万円等)の負担金で国庫に帰属させることが可能となります。また、森林のように面積で計算される場合は、すべての筆の面積を合計した面積に基づいて計算される。ただし、合算の対象となるのは「同じ種目」の土地同士に限られます。例えば、市街化区域外の宅地と宅地は合算可能だが、宅地と山林が隣接していてもそれらを合算することはできない。合算申出は、承認申請書の提出時から法務局長による承認が下りるまでの間に申し出る必要があります。

(4)納付の仕組みと厳格な期限

負担金は、承認通知とともに送られてくる「納入告知書」を用いて、日本銀行(本店、代理店、都市銀行やゆうちょ銀行等の歳入代理店)の窓口で直接納付する必要があります。法務局に現金を持参することはできません。 特筆すべきは、その納付期限の厳しさです。納付期限は「負担金の通知が到達した日の翌日から30日以内」とされており、分割払いは一切認められていません。もし、資金繰りが間に合わずこの30日の期限を1日でも超過した場合、せっかく得た承認の効力は自動的に失効します。効力が失われれば、所有権は移転せず、最初から

14,000円の審査手数料を払い直して再申請しなければなりません。

法務局の審査結果・通知・却下への対応

国庫帰属の申請が受理された後、どのようなプロセスを経て結論が下されるのか、その内容と、望まない結果が出た場合の法的対応について解説します。

法務局における審査は、提出された申請書類と登記簿、公図等を照合する「書面調査」から始まります。ここで申請者の資格や土地の基本情報を確認した後、さらに深い事実確認が必要な項目(崖の有無、残置物、境界の状態等)については、法務局の担当職員が現地へ赴く「実地調査」が行われます。

(1)審査にかかる期間と固定資産税の負担

審査期間について、法務省は明確な標準処理期間を設けていませんが、実務上の目安として、申請の受理から帰属の決定までには、半年から1年程度を要するのが一般的です。これには、境界確認の難しさや、積雪地帯などにおける冬季の実地調査の遅延など、物理的な制約が影響しています。ここで 注意しなくてはいけないことは、審査が長引いている期間中も、固定資産税の課税主体は依然として申請者(所有者)にあるという点です。固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に対して1年分が課税される。したがって、例えば11月に承認通知が届いても、納付や手続きの遅れにより年をまたいで翌年の1月2日以降に国への所有権移転登記が完了した場合、翌年度の固定資産税はまるまる申請者が負担しなければならないという事態が生じ得ます。このような事から申請のタイミングには気を配る必要があります。

(2)審査結果の通知と却下・不承認への対応

審査の結果は、承認、却下、または不承認という行政処分として通知されます。

① 却下:申請要件を根本から欠く場合(権限のない者からの申請、建物がある、境界が不明等)に、門前払いで退けられる処分です。

② 不承認:審査の結果、管理に過分な費用がかかる(崖がある、争訟リスクがある等)と判断され、引き取りを拒絶される処分です。

もし却下や不承認の決定に不服がある場合、これらの処分は公権力の行使に該当するため、行政不服審査法に基づき、上級行政庁である法務大臣に対して「審査請求(異議申立て)」を行う権利が保障されています。審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に行う必要があります。また、行政事件訴訟法に基づき、処分の取消しを求める訴えを裁判所に提起することも可能です。 しかしながら、実務的な観点から言えば、法務局の現地調査によって「境界が確認できない」「擁壁のない危険な崖が存在する」といった客観的な事実が認定されている場合、不服申立てによって法務局の判断が覆る可能性は極めて低いと言わざるを得ません。そのため、処分を争うよりも、事前に却下事由を潰し込む(自費で測量する、残置物を撤去するなど)努力に労力を割くことが、結果として時間と費用の節約につながります。

こんな土地は申請できる? 農地・山林・原野商法の土地

本制度の利用が最も望まれているのは、不動産市場で取引価格がつかない土地です。しかし、土地の地目や取得経緯によって、国庫に帰属させるためのハードルは大きく異なります。代表的な3つのケースについて、実務上の課題と対策を解説します。

(1)農地(田・畑)のケース

農地は、食料安全保障の観点から農地法による厳格な規制が敷かれており、原則として農業従事者でなければ売買や贈与による所有権移転が許可されません。そのため、農家以外の者が相続した場合、売るに売れず、耕作放棄地として放置するしかないというジレンマがありました。 本制度の画期的な点は、農地であっても農地法に基づく農業委員会の許可を得ることなく、国庫へ帰属させることが可能であることです。ただし、長年放置された耕作放棄地で、外形上は雑木林と化しており、実質的に「山林」と見なされる状態になっている場合は注意が必要です。木が生い茂り、伐採や整地をしなければ農地として管理ができない状態であれば、「管理に過分な費用がかかる」として不承認となるリスクがあります。この場合、自費で樹木を伐採して更地に近い状態にするか、地目変更登記を行ってから申請するなどの対策が必要となります。負担金については、農用地区域内や市街化区域内の農地でなければ、原則20万円で済む可能性が高い。

(2)山林(森林)のケース

国産材の価格低迷により、経済的価値を失った山林の相続は、地方において最も深刻な課題となっています。山林も本制度の対象ですが、最大の障壁となるのは「境界の不明確さ」と「高額な負担金」の二点です。 まず、日本の山林は、明治時代の地租改正時の測量技術の限界等で、登記簿上の面積(公簿面積)と実際の面積(実測面積)が大きく異なる事例が常態化しています。さらに、明確なコンクリート杭などの境界標が存在せず、自然の地形(尾根や谷、立木)を目印にしていることが多い。このような状態では「境界が明らかでない土地」として却下事由に該当する可能性が高くなります。隣接する林地所有者を探し出し、立ち会いの上で境界を確認・標識を設置する作業には、多大な時間と専門家(土地家屋調査士)への費用がかかります。 また、森林の負担金は面積に応じて算定されるため、広大な山林であれば負担金が数十万円から数百万円に達することもあります。売却価値ゼロの山林を手放すために、測量費と高額な負担金を持ち出すことが経済合理性に適うのか、事前の慎重なシミュレーションが不可欠です。

(3)原野商法の土地のケース

1970年代から80年代にかけて、将来の開発計画や新幹線開通などを騙り、価値のない原野や山林を高値で売りつける「原野商法」が社会問題となりました。現在、親が騙されて購入した無価値な土地を子が相続し、処分に困窮する「原野商法の二次被害」が多発しています。 原野商法の土地であっても、本制度の対象となり得ます。しかし、極めて高い確率で直面するのが、やはり「境界の壁」です。原野商法では、広大な山林を机上で細かく分筆図面を引き、現地に一切の杭を打たずに販売する手法が取られていました。そのため、現地に行っても「自分の土地がどこからどこまでなのか」が誰にも分からないのです。法第2条第3項の規定により、境界が明らかでない土地は例外なく却下されます。 原野商法の土地で国庫帰属を目指すには、隣接する他の被害者全員と連絡を取り、境界の合意形成と測量を行う必要があります。多くの場合、この調査・測量にかかる費用が、負担金や土地の価値を遙かに上回る「費用倒れ」に陥ってしまいます。制度上の救済ルートは用意されたものの、原野商法の土地については実務上のハードルが高いのが現状です。

8.相談先はどこ?法務局・法務省及び行政書士等専門家の活用法

相続土地国庫帰属制度は、複雑な法令解釈と専門的な手続きを伴うため、独力で全てを完遂するのは非常に難しいのが現状です。適切な機関や資格者に相談し、役割分担を図ることが成功への近道となります。

(1)公的機関への相談(法務局・法務省)

本制度の所管官庁は法務省(民事局)であり、実際の審査および窓口業務は、各都道府県にある「法務局・地方法務局の本局(不動産登記部門)」が担っています。制度の一般的な概要や、所有する土地が要件を満たすかどうかの初期相談は、管轄の法務局本局に行います。相談は1回30分の事前予約制であり、「法務局手続案内予約サービス」からのインターネット予約や、電話での予約が必要です。令和6年10月からはウェブでの相談対応も始まり、遠方居住者の利便性が大きく向上しました。 また、制度全般に関する法的な問い合わせについては、法務省民事局民事第二課が代表窓口として機能しています。

(2)専門家(国家資格者)の活用法

実務的な申請手続きの代行や紛争解決については、業務の性質に応じて専門家を使い分ける必要があります。

① 行政書士の役割

行政書士は、「官公署に提出する書類の作成」および「権利義務・事実証明に関する書類の作成」を独占業務とする法律の専門家です。本制度において、法務局へ提出する「承認申請書」の作成代行、添付要件である「土地の位置及び範囲を明らかにする図面」の作成、現況を疎明する理由書の起案、および市区町村からの印鑑証明書や評価証明書などの収集代行において中核的な役割を果たします。図面作成や行政庁との折衝に不慣れな一般市民にとって、最も身近で頼りになる代行者です。

司法書士の役割

司法書士は不動産登記の専門家です。本制度を利用するための大前提として、土地の登記名義が「被相続人」から「申請者」に移転されている必要があります。2024年(令和6年)4月1日からは相続登記そのものが法律で義務化されており、未了のまま放置することはできません。司法書士は、相続登記の完了から、それに続く国庫帰属の申請代行までを対応してもらうことが可能です。

③ 弁護士の役割

隣地所有者との境界について争いがある場合や、土地に不法占拠者が居座っている場合、他人が勝手に車を駐車している場合など、具体的な「法的紛争」や「権利侵害」が発生している事案では、弁護士でなければ代理人として相手方と交渉したり、明渡し訴訟を提起したりすることができません。紛争性の高い土地をクリーンな状態にするための第一歩として、弁護士の介入が不可欠となります。

(参考)土地家屋調査士の役割

却下要件の筆頭に挙げられる「境界が明らかでない土地」を解消するためには、現況測量を行い、隣接所有者との立会いのもとに境界確認書を交わし、境界標を設置・復元する必要があります。こうした筆界特定のプロセスは、土地家屋調査士の専門領域です。

やっくんからのアドバイス

2024年(令和5年)に幕を開けた「相続土地国庫帰属制度」は、国民が長年抱えてきた「負動産」の重圧を取り除き、国家の根幹を揺るがす「所有者不明土地問題」という未曾有の危機に対処するための、重要な第一歩です。

本制度の意義は、遺産全体を放棄せざるを得ず、多大な不利益を被っていた「相続放棄」から人々を解放し、預貯金や優良な不動産は守りつつ、不要な土地だけを切り離すという「選択的放棄」の道を法的に切り拓いた点にあります。これは、地方の過疎化や土地神話の崩壊といった時代背景に即した、極めて現代的な救済措置と言えます。

しかしながら、本制度は決してどんな悪条件の土地でも国が無料で引き取ってくれる制度ではありません。制度の根底には「自らが引き継いだ財産の瑕疵は、自らの責任と費用で解消せよ」という自己責任の原則が貫かれています。建物の解体、不法投棄物の撤去、境界の確定といった「土地をクリーンな状態に戻す責任」は申請者に課されており、それに加えて審査手数料と10年分相当の管理コスト(負担金)の拠出が求められます。

とはいえ、これまで「売ることも捨てることもできず、子や孫の代にまで固定資産税の支払いと土砂崩れ等の賠償リスクを負わせ続けるしかなかった」という絶望的な状況において、正当な対価を払うことで不要な土地を手放す「確実な出口」が用意されたことの価値は計り知れません。

制度の恩恵を最大限に享受するためには、却下要件や不承認要件という高いハードルを越えるための正確な法的知識と、行政機関への戦略的なアプローチが必要不可欠です。特に、境界問題や共有地の整理、農地法の絡む案件など、複雑な要因が交錯するケースでは、個人の力だけで解決を図ることは危険です。将来世代へ負の遺産を押し付けないためにも、行政書士等実務の専門家と連携し、計画的かつ着実に手続きを進めることが、とても重要となります。

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