「四十九日の法要も終わり、相続人全員で話し合って遺産分割協議書に実印を押した。銀行の解約も不動産の名義変更もすべて完了して、ようやく一息つける……」
そんな矢先、亡くなった方の遺品整理を続けていたら、書斎の引き出しの奥、あるいは古い本の間から「遺言書」と書かれた封筒が出てきた。このような事態に直面したら、誰しもパニックに陥ってしまうことでしょう。
「せっかく苦労してまとめた遺産分割協議は無効になってしまうのか?」 「すでに名義変更した不動産や、引き出した預貯金はどうなるのか?」 「相続税の申告も済ませてしまったのに、やり直さなければならないのか?」
実はこのような「遺産分割後の遺言書発見」というトラブルは決して珍しいものではありません。故人が家族に内緒で遺言書を書いていたり、貸金庫や思わぬ場所に保管していたりすることが原因です。
本記事では、遺産分割協議が完了した後に遺言書が発見された場合、法的にどのような扱いになるのか、そして具体的にどのような手続きや対応をとるべきなのかについて、行政書士の視点から詳しく、かつ分かりやすく解説いたします。
突然の事態に焦るお気持ちは大変よくわかりますが、まずは深呼吸をしていただき、本記事をお読みになりながら一つずつ冷静に対処法を確認していきましょう。
【大原則】 遺言書と遺産分割協議、どちらが優先される?
結論から申し上げますと、日本の民法においては「遺言書の内容が遺産分割協議よりも優先される」のが大原則です。
相続においては、亡くなった方(被相続人)の生前の最終意思を最大限に尊重するという考え方が根底にあります。そのため、法定相続分(法律で定められた分割割合)や、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)よりも、遺言書による財産の指定が最優先されるのです。
したがって、遺産分割協議がすべて完了していたとしても、後から有効な遺言書が発見された場合、原則としてその遺産分割協議は「無効」となり、遺言書の内容に従ってやり直さなければならないことになります。
しかし、「絶対にすべてやり直しになるのか?」というと、実はそうではありません。一定の条件を満たせば、すでに行われた遺産分割協議をそのまま有効として進めることも法律上認められています。
この「やり直す場合」と「やり直さなくてよい場合」の違いを理解することが、トラブル解決の第一歩となります。
発見された遺言書の種類と、まず絶対にやるべきこと・やってはいけないこと
遺言書が見つかった場合、その遺言書が「どのような種類のものか」、そして「どのような状態で見つかったか」によって、最初にとるべき行動が大きく異なります。ここでは絶対に注意していただきたいポイントを解説します。
もし発見された遺言書が封筒に入っており、封印(のり付けされ、印鑑が押されている状態)がされている場合、絶対にその場で開封してはいけません。
封印のある遺言書を家庭裁判所外で勝手に開封した場合、民法により5万円以下の過料に処せられる可能性があります。また、勝手に開封したことで他の相続人から「中身を改ざんしたのではないか?」という疑いをかけられ、深刻な相続トラブルに発展する恐れがあります。
発見される遺言書には、大きく分けて以下の種類があります。それぞれの対応方法を確認しましょう。
① 自筆証書遺言(自分で手書きした遺言書)の場合
見つかった遺言書が、公証役場などで作成されたものではなく、故人が自ら手書きしたものである場合、速やかに家庭裁判所での「検認(けんにん)」手続きを経る必要があります。 検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防ぐための証拠保全手続きです。封印されている場合は、この検認手続きの日に、家庭裁判所の裁判官の面前で開封することになります。
② 法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた場合
2020年(令和2年)7月より開始された制度で、故人が法務局に遺言書を預けていた場合です。この場合、家庭裁判所での「検認」は不要です。法務局にて「遺言書情報証明書」の交付を請求することで、内容を確認でき、そのまま相続手続きに使用することができます。
③ 公正証書遺言の場合
公証役場で公証人が作成した遺言書です。原本は公証役場に保管されており、発見されたものは「正本」または「謄本」です。この場合も偽造の恐れがないため、家庭裁判所での「検認」は不要です。すぐに遺言書の内容を確認し、相続手続きを進めることができます。
④ 秘密証書遺言の場合
内容は誰にも知られずに、存在のみを公証人に証明してもらう形式の遺言書です。実務上は非常に稀ですが、もしこれが見つかった場合は、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所での「検認」が必要となります。
【行政書士からのアドバイス】
まずは発見した遺言書の外観を確認し、手書きの封筒であれば絶対に開けず、速やかに家庭裁判所への検認申し立ての準備を始めましょう。検認申し立てには戸籍謄本などの収集が必要となりますので、専門家にご相談いただくのがスムーズです。
遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合の「3つの対応パターン」
遺言書の内容が確認できた(または検認が終わった)後、すでに済ませてしまった遺産分割協議をどう扱うかについて、状況に応じて以下の3つのパターンに分かれます。
パターン1 全員の合意で「既存の遺産分割協議」を有効とする(やり直さない)
これが最も円満で、手間がかからない解決方法です。 大原則として遺言書が優先されると述べましたが、「遺言書の内容を把握した上で、それでも相続人・受遺者全員が合意すれば、遺言書と異なる内容の遺産分割(すでに済ませた遺産分割協議)を有効とすることができる」という判例・実務上のルールがあります。
【このパターンが成立する条件】
① 遺言書の存在と内容を、相続人全員が知っていること
② 相続人全員が「遺言書には従わず、以前におこなった遺産分割協議の結果をそのまま採用する」ことに同意していること
③ 遺言書によって「遺産分割の禁止」が指定されていないこと
④ 相続人以外の第三者(受遺者など)に財産を譲る記載がないこと(※記載がある場合は、その第三者の同意も必須)
⑤ 遺言執行者が指定されていないこと(※指定されている場合の注意点は後述します)
例えば、遺言書には「長男に全財産を相続させる」と書かれていたものの、長男自身が「もう兄弟で平等に分けることで話し合いがついて納得しているから、遺言書は使わなくていいよ」と同意すれば、すでに行った遺産分割協議のままで問題ありません。
パターン2 遺言書の内容に従って「遺産分割をやり直す」
相続人のうち一人でも「すでに合意した遺産分割協議ではなく、やっぱり遺言書の内容通りに相続したい」と主張した場合、既存の遺産分割協議は無効となり、初めからやり直すことになります。
特に、遺言書の内容が自分にとって有利であった相続人(先ほどの例で言えば、全財産をもらえるはずだった長男)が、「遺言書があるなら、その通りにしたい」と主張するのは当然の権利です。この場合、法律の原則通りに遺言書が優先されるため、以下のような大変な手続きが必要になります。
① 名義変更のやり直し
すでに各相続人の名義に変更してしまった不動産の登記を元に戻し(真正な登記名義の回復など)、遺言書に基づき再登記する。
② 預貯金の返還
分割して各自の口座に振り込まれた預貯金を、一旦集約して遺言書の指定通りに再配分する。
③ 相続税の修正申告・更正の請求
取得財産額が変わるため、税務署に対する申告のやり直し(不足分の納税または納めすぎた分の還付請求)を行う。
パターン3 遺産分割協議の「一部」だけをやり直す
遺言書に記載されていた内容が、財産の「一部」についてのみであった場合のパターンです。 例えば、「自宅不動産は長男に相続させる」という遺言が見つかったとします。しかし、それ以外の預貯金や株式についての記載がありませんでした。
この場合、以下のように切り分けて処理を行うことが可能です。
① 遺言書に記載があった財産(自宅不動産)
遺産分割協議は無効となり、遺言書に従って長男が相続する。
② 遺言書に記載がなかった財産(預貯金など)
すでに行った遺産分割協議の決定事項をそのまま有効として取り扱う。
このように、遺言書の記載内容と、相続人全員の意思によって、今後の進め方は大きく変わってきます。
やり直しが「絶対に不可避」となる重大なケース(要注意)
前項の「パターン1」で、全員が合意すれば遺産分割協議を優先できると解説しましたが、特定の条件に当てはまる場合は、たとえ相続人全員が「今の協議内容のままでいい」と合意しても、法的に遺産分割をやり直さなければならない(既存の協議が無効になる)ケースが存在します。ここが最もトラブルになりやすいポイントです。
遺言書に「お世話になった友人Aに現金500万円を遺贈する」「特定のNPO法人に寄付する」といった、法定相続人以外の人物(受遺者といいます)への財産移転が記されていた場合です。 遺産分割協議は「相続人全員」で行うものですが、受遺者がいる場合は、受遺者の権利を侵害することはできません。したがって、受遺者が遺贈を「放棄」しない限り、受遺者の取り分を確保するために遺産分割(遺産の清算)をやり直す必要があります。
これが実務上、最も厄介なケースです。遺言書の中で「遺言執行者(遺言の内容を実現するための責任者)」が指定されていた場合、相続人は勝手に遺産の処分(名義変更や引き出しなど)を行うことが禁じられます(民法第1013条)。
もし、遺言執行者がいることを知らずに(あるいは無視して)遺産分割協議を行い、名義変更などを済ませてしまっていた場合、その行為は原則として無効となります。
この場合、すでに行った遺産分割協議を有効にするためには、「遺言執行者の同意」が不可欠となります。遺言執行者が専門家(弁護士や行政書士など)である場合、彼らには遺言の内容を実現する法的な義務と責任があるため、簡単に「遺言書を無視して協議書通りにしてください」という同意を得ることは非常に困難です。結果として、すべてを白紙に戻してやり直す事態になりやすいのです。
遺言書によって「隠し子を認知する」という記載があった場合です(遺言認知)。 認知された子は、法律上正当な「相続人」となります。遺産分割協議は「相続人全員」で行わなければ無効という絶対的なルールがあるため、認知された子を除外して行われた遺産分割協議は、後から遺言書が見つかった時点で完全に無効となります。新たに発覚した子を含めて、最初から協議をやり直す必要があります。 (ただし、すでに分割が終わってしまっている場合、新たな相続人は「金銭による価額支払い」を請求することになります)。
遺言により、被相続人は「相続開始の時から最長5年間」、遺産の分割を禁止することができます。この記載があった場合、その期間中は遺産分割協議を行うことができませんので、すでに行ってしまった協議は無効となります。
遺産分割をやり直す際の実務上の壁とトラブル事例
実際に遺言書通りに遺産分割をやり直すことになった場合、単なる話し合いでは済まない深刻な実務上のトラブルが発生することがあります。
最も深刻なケースです。例えば、遺産分割協議で長男が相続した実家の土地を、長男がすでに第三者である不動産会社に売却し、所有権移転登記まで済ませていたとします。その後、「実家は次男に相続させる」という遺言書が見つかりました。
この場合、次男は「遺言書によれば実家は自分のものだから、不動産会社から取り返したい」と主張するでしょう。しかし、法律上は「登記を先に備えた者が勝つ(対抗要件)」というルールがあります。 不動産会社が事情を知らずに(善意で)正当に買い受け、すでに登記を済ませている場合、次男は不動産会社から土地を取り戻すことは非常に困難です。結果として、次男は長男に対して、売却代金相当額の損害賠償や不当利得返還請求を行うという、泥沼の「兄弟間訴訟」に発展する可能性が高くなります。
遺産分割協議で取得した現金を、借金の返済や車の購入などで使い切ってしまった後に遺言書が見つかったケースです。 遺言書に従ってやり直すとなれば、本来もらう権利のなかった分は返還しなければなりません。「もう使ってしまって手元にお金がない」という言い訳は法的には通用しませんので、返還のために自らの財産を売却したり、借金をしてでも返還する義務が生じます。
遺産分割協議に基づいてすでに相続税の申告と納税を済ませていた場合、遺言書の発見によって各相続人の取得割合が変われば、税務署への手続きが必要になります。
① 自分がもらう財産が増えた場合(納税額が増える)
「修正申告」を行い、不足分の税金を納めます。この際、発見が遅れると「延滞税」などのペナルティが課される可能性があります。
② 自分がもらう財産が減った場合(納税額が減る)
「更正の請求」を行い、納めすぎた税金の還付を受けます。ただし、更正の請求ができる期間には制限があります(原則として遺言書が見つかって遺産分割がやり直しになった等の事実を知った日の翌日から2ヶ月以内など、特例期間の適用があります)。
税務手続きのやり直しは非常に複雑であり、期限も厳格に定められているため、税理士との早急な連携が不可欠です。
遺言書によるトラブルを未然に防ぐために
ここまで「発見された後」の対処法を解説してきましたが、このような精神的・経済的に甚大な負担を強いるトラブルを防ぐためには、相続が発生した直後、あるいは「生前」からの対策が何よりも重要です。
相続が発生したら、すぐに遺産分割協議を始めるのではなく、まずは「遺言書がないか」を徹底的に調査することが鉄則です。
① 公証役場での検索
全国の公証役場で「遺言検索システム」を利用し、公正証書遺言が作成されていないかを調べることができます。(昭和64年以降に作成されたものが対象)
② 法務局での検索
令和2年以降に開始された保管制度を利用していないか、法務局で「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行い確認します。
③ 自宅の捜索
貸金庫、仏壇の引き出し、書斎、よく読んでいた本の間、親しい友人や顧問税理士・弁護士への確認などを行います。
被相続人となる方が存命の場合は、「遺言書を書いたかどうか」「どこに保管しているか」だけでも家族に伝えておくことが、残された家族への最大の思いやりとなります。内容まで教える必要はありませんが、存在と保管場所だけは共有しておくべきです。
関連記事

実務上のテクニックとして、遺産分割協議書を作成する際、念のために「後日、遺言書が発見された場合の取り扱い」についての条項を盛り込んでおくという方法があります。 例えば、「万が一後日遺言書が発見された場合においても、相続人全員の合意により、本遺産分割協議の効力を妨げない(本協議を優先する)ものとする。ただし、受遺者や遺言執行者の指定がある場合は別途協議する」といった文言を入れておくことで、後々のトラブルをある程度予防することができます。
8. よくあるご質問(FAQ)
遺言書と遺産分割に関するよくある質問をまとめました。
まとめ ~ 遺言書が見つかったら、まずは冷静に専門家へご相談を
いかがでしたでしょうか。遺産分割協議が終わった後に遺言書が出てくるという事態は、相続人にとってまさに青天の霹靂です。
本記事で解説した重要ポイントを最後におさらいします。
① 大原則として「遺言書」が優先されるが、条件を満たせば「既存の遺産分割協議」を活かすこともできる。
② 封印された手書きの遺言書は「絶対に勝手に開封しない」。家庭裁判所の検認を受ける。
③ 遺言執行者や相続人以外の受遺者が指定されている場合は、協議のやり直しが不可避になる可能性が高い。
④ 不動産の売却や預金の消費、相続税の申告が絡むと、問題は非常に複雑化する。
一度完了したと思っていた手続きを根底から覆すことになりかねないため、当事者同士だけで話し合いを進めると、感情的な対立を生み、取り返しのつかない骨肉の争い(争族)に発展するリスクが極めて高いです。
「遺産分割後に遺言書が見つかった」 ~ その瞬間こそが、専門家の介入が最も必要なタイミングです。
私たち行政書士は、遺言書が有効な要件を満たしているかの確認(形式的要件の精査)から、検認手続きに向けた戸籍収集のサポート、相続人全員が納得するための新たな「遺産分割協議書」の作成、そして必要に応じて提携する司法書士(登記手続き)や税理士(相続税修正申告)、弁護士(紛争解決)へのスムーズな橋渡しまで、法的な羅針盤として皆様を全力でサポートいたします。
「遺言書が出てきたけれど、どうすればいいか分からない」「他の兄弟にどう伝えたらいいか悩んでいる」など、ご不安なことがあれば、決して一人で抱え込まず、少しでも早く当事務所までご相談ください。初回相談は無料でお受けしております。冷静かつ迅速な対応で、皆様の財産と家族の絆をお守りするお手伝いをさせていただきます。
■ 札幌での相続・遺言のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
【お問い合わせ先】 つしま行政書士事務所
- 所在地:札幌市東区
- 対応エリア:札幌市内および近郊エリア(出張相談も承ります)
- 営業時間:平日 9:00〜18:00(※事前の予約で土日祝や夜間も対応可能です)
初回60分相談料無料

☎ 011-788-3883

