ご家族がお亡くなりになり、悲しみも癒えぬまま遺品整理や財産調査を進めていると、思いがけず「多額の借金」が発覚することがあります。特に、亡きお父様が事業を営んでいたり、連帯保証人になっていたりした場合、残されたご家族は「相続放棄」という重大な決断を迫られることになります。
相続放棄をすれば、マイナスの財産(借金)を引き継がずに済みます。しかし、ここで多くのご相談者様が直面する、非常にデリケートで悩ましい問題があります。
「相続放棄をしたら、代々守ってきたお墓や仏壇も手放さなければならないのでしょうか?」 「逆に、遠方のお墓や仏壇を引き継ぎたくない(放棄したい)場合はどうすればよいのでしょうか?」
実は、お墓や仏壇といった財産は、民法上、祭祀財産(さいしざいさん)と呼ばれ、預貯金や不動産といった一般的な相続財産とは全く異なる特別な扱いを受けます。
本記事では、この「祭祀財産」の基礎知識から、相続放棄との関係、費用負担、そして「引き継ぎたくない場合の手続き」まで、徹底的に解説いたします。札幌をはじめ、北海道内で相続にお悩みの方にとって、少しでも解決の糸口となれば幸いです。
「祭祀財産」とは何か?(読み方と含まれるもの)
まずは基本的な言葉の確認から始めましょう。「祭祀財産」は「さいしざいさん」と読みます。 「祭祀(さいし)」とは、祖先や神仏を祀る(まつる)ための儀式のことを指します。つまり、祭祀財産とは「ご先祖様を供養し、お祀りするために必要な財産」のことです。
民法では、祭祀財産を大きく以下の3つに分類しています。
① 系譜(けいふ)
ご先祖様から代々受け継がれてきた、家系や血統を示す記録のことです。
(例:家系図、過去帳など)
② 祭具(さいぐ)
祖先を祀るために日常的に使用される道具のことです。
(例:仏壇、位牌、神棚、仏像、十字架など)
③ 墳墓(ふんぼ)
ご遺骨を納め、供養するための設備や場所のことです。
(例:墓石、墓碑、霊屋、および墓地を使用する権利=墓地使用権など)
これら3つの要素が、法律上「祭祀財産」として扱われます。逆に言えば、これらに該当しないもの(例えば、先祖代々の土地であっても、単なる農地や山林など)は、通常の相続財産となります。
民法での扱いと「相続放棄」との関係
ここが最も重要なポイントです。 民法第897条の2において、祭祀財産は「相続財産とは区別して承継される」と定められています。
通常の財産(現金、不動産、借金など)は、亡くなった方(被相続人)から相続人全員へ、法定相続分に応じて引き継がれます。しかし、お墓や仏壇を「兄弟3人で3分の1ずつ共有する」というのは現実的ではありませんし、トラブルの元になります。 そのため、祭祀財産は「原則として1人の承継者(祭祀承継者と言います)が単独で引き継ぐ」ルールになっています。
「父の借金が多いから相続放棄をする。だからお墓も継げないのだろうか…」と涙ぐむご相談者様がいらっしゃいます。 結論から申し上げますと、相続放棄をしても、祭祀財産(お墓や仏壇)を引き継ぐことは完全に可能です。
前述の通り、祭祀財産は通常の相続財産(プラスの財産・マイナスの財産)の枠組みから外れています。
・ 相続放棄: 民法上の「相続財産(預金や借金)」を一切引き継がない手続き。
・ 祭祀承継: 民法上の「祭祀財産(お墓や仏壇)」を引き継ぐ手続き。
この2つは全く別個の制度です。したがって、「借金は相続放棄をしてゼロにしつつ、実家の仏壇と先祖代々のお墓だけは自分が守っていく」という選択が法律上認められているのです。ご安心ください。
では、誰が祭祀財産を引き継ぐのでしょうか。民法第897条の2では、以下の優先順位で決まるとされています。
① 被相続人の指定
亡くなった方が遺言や生前の言葉で「長男にお墓を頼む」と指定していた場合、その人が承継します。
② 地域の慣習
指定がなかった場合、その地域や親族間の慣習に従って決まります。
③ 家庭裁判所の調停・審判
指定もなく、慣習も不明で、親族間の話し合いでも決まらない場合は、家庭裁判所が一切の事情を考慮して決定します。
実際には、残されたご遺族による「話し合い(合意)」で決めることが最も一般的です。
逆に「祭祀財産を放棄したい」場合はどうするのか?
ここまでは「お墓を守りたい」という前提でお話ししましたが、現代においては「お墓や仏壇を引き継ぎたくない(放棄したい)」というご相談も少なくなりません。
例えば、以下のようなケースです。
・ 「札幌に実家と墓があるが、自分は東京にマイホームを買い、もう北海道に戻るつもりはない」
・ 「子どもがいないため、自分が墓を継いでも将来無縁仏になってしまう」
・ 「父の借金で散々苦労させられたので、父の供養など一切したくない」
結論から言うと、家庭裁判所で行う「相続放棄」のように、「祭祀財産を放棄します」という公的な宣言・手続きは法律上存在しません。 あなたが祭祀承継者に指定された、あるいは親族の話し合いであなたが継がざるを得ない状況になった場合、「要らないから捨てる」と簡単に権利を放棄することはできないのです。
しかし、絶望する必要はありません。祭祀財産を引き継いだ(所有者になった)からといって、「未来永劫、お墓を維持管理し、法要を営まなければならない」という法的な義務はないのです。
祭祀承継者は、その祭祀財産をどのように扱うかについて、絶対的な決定権を持っています。つまり、「引き継いだ上で、自分の代で処分(整理)する」ことが可能です。
具体的には以下の方法をとります。
① お墓の処分(墓じまい・改葬)
遠方のお墓を維持できない場合は、「墓じまい」を行います。 墓じまいとは、現在のお墓を解体・撤去して更地にし、墓地の管理者に敷地を返還することです。中のご遺骨は、以下のように扱います。
・ 改葬(かいそう): 自宅近くの納骨堂や永代供養墓にご遺骨をお引越しする。
・ 散骨(さんこつ): パウダー状にして海や山に撒く。
・ 合祀(ごうし): お寺などの共同墓地に他のご遺骨と一緒に埋葬してもらい、以後の供養
をお寺に任せる。
※ お墓の引っ越し(改葬)には、市区町村役場での「改葬許可申請」という行政手続きが必要です。当事務所のような行政書士がサポート可能な領域です。札幌市の平岸霊園や里塚霊園などの市営霊園からの墓じまいも、年々増加しています。
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② 仏壇や位牌の処分
仏壇や位牌も、そのまま粗大ゴミとして捨てるのは精神的な抵抗があるかと思います。一般的には「閉眼供養(魂抜き)」をお寺の住職に依頼し、単なる「物」に戻した上で、お焚き上げ(焼却処分)をしてもらったり、仏具店に引き取りを依頼したりします。
誰も「墓じまいの手間すら負いたくない」と言って祭祀承継者を押し付け合うようなケースでは、最終的に家庭裁判所での調停・審判になります。裁判所は、故人との関係性などを考慮して強制的に承継者を決定します。決定された人は、責任をもって「墓じまい」等の手配をしなければなりません。
祭祀財産を相続した場合の「諸経費」は誰が負担すべきか?
お墓や仏壇を維持していくには、お金がかかります。
・ 墓地の年間管理費
・ お寺への護持会費やお布施
・ 法要(四十九日、一周忌など)の費用
・ 墓じまいをする場合の解体費用・離檀料・改葬費用
法的な原則としては、祭祀財産を引き継いだ「祭祀承継者」が、これらの一切の維持管理費用や処分費用を負担することになります。 他の兄弟(共同相続人)に対して、「俺が墓を継いだんだから、管理費を3等分して払ってくれ」と法的に強制することはできません。
もちろん、親族間の話し合いで「長男が代表して墓を継ぐが、費用は兄弟でお金を出し合おう」と合意することは自由ですし、道義的にはそれが美しい形です。しかし、法的な支払い義務を負うのは、あくまで名義人である祭祀承継者1人となります。
ここで、相続放棄を検討している方に警告があります。
「父の口座に50万円残っているから、これで今年の墓地管理費と、未払いだったお寺の護持会費を払ってしまおう。残りの借金については相続放棄をすればいい」
これを行うと、相続放棄ができなくなる(無効になる)非常に高いリスクがあります。
民法には法定単純承認というルールがあります。これは、亡くなった方の財産に手をつけて処分した場合、その時点で「相続を承認した」とみなし、以後はいかなる理由があっても相続放棄を認めない(=借金も全額背負うことになる)というものです。
お墓の管理費や、お寺への過去の未払い金は、被相続人(父)の債務、あるいは祭祀承継者が払うべき費用です。これを「亡き父の預金」から引き出して支払う行為は、「遺産の勝手な処分」とみなされ、単純承認が成立してしまう可能性があります。
【相続放棄を成功させるための鉄則】
・ 相続放棄の申述が裁判所で受理されるまでは、父の預金には絶対に手をつけない。
・ お墓の管理費や、お寺から請求された費用は、必ず「祭祀承継者自身のポケットマネー(固有財産)」から支払うこと。
※ なお、社会通念上相当な範囲内の「お葬式代(葬儀費用)」を遺産から支払うことについては、判例上「単純承認には当たらない(遺産の処分ではない)」とされたケースが多いですが、非常にグレーな部分を含みます。少しでも不安がある場合は、一切手を付けないのが最も安全です。
Q&A集 祭祀財産と相続放棄のよくあるご質問
お墓や仏壇にまつわる具体的な疑問をQ&A形式でまとめました。
結びに ~ 相続や墓じまいでお悩みなら専門家へご相談を
いかがでしたでしょうか。 「亡き父の借金による相続放棄」と「お墓・仏壇(祭祀財産)の取り扱い」は、ご遺族にとって感情面でも金銭面でも非常に重いテーマです。
・ 借金から逃れるための相続放棄は、期限(原則、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内)が厳格に決まっています。
・ そして、お墓をどうするか迷っている間に、誤って父の遺産から寺院へ支払いをしてしまい、相続放棄が認められなくなる(借金を背負う)という最悪の事態は絶対に避けなければなりません。
また、相続放棄の危機は脱したとしても、「今後の墓じまい・改葬手続きをどう進めればいいのかわからない」という実務的な壁にぶつかる方も多くいらっしゃいます。 市区町村役場への改葬許可申請、お寺からの「離檀料(りだんりょう)」の高額請求トラブルの回避、各種証明書の収集など、一般の方には負担の大きい手続きが待ち受けています。
もし現在、以下のような状況でお悩みでしたら、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。
・ 親の借金が発覚し、急いで相続放棄をしたいが、お墓の管理費の請求が来て焦っている。
・ 自分が祭祀承継者になりそうだが、遠方(本州など)に住んでおり、札幌・北海道内の墓じ
まい手続きを代行してほしい。
・ 親族間でお墓の押し付け合いになっており、法的なアドバイスが欲しい。
当事務所(札幌市)では、相続・遺言の手続きサポートはもちろんのこと、行政書士として「墓じまい(改葬手続き)」のサポートにも力を入れております。複雑な戸籍の収集から役所への書類作成・提出まで、お客様の負担を最大限軽減できるよう、迅速かつ丁寧に対応いたします。
北海道の長く厳しい冬。雪に閉ざされたお墓の管理にご苦労されている方も多いことでしょう。先祖を想う「心」を大切にしながらも、現代のライフスタイルに合わせた無理のない供養の形を見つけるお手伝いができればと願っております。
■ 札幌での相続・遺言のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
【お問い合わせ先】 つしま行政書士事務所
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