札幌でも最近すっかり暖かくなり、春の気持ちの良い風の中、人気犬種の柴犬やトイプードルなどと一緒に楽しそうに散歩する高齢者の方々を見ることが多くなりました。
ペットは飼われている方にとっては家族同然の大切な宝物です。しかし飼われている方が高齢でその方が突然亡くなってしまった場合、いったいそのペットはどうなってしまうのだろうか。そんな疑問が湧きます。
最近特に都市部で、行政書士への相談が徐々に増えはじめているものがあります。それは「一人暮らしだった親が急死してしまい、残されたペット(犬や猫)をどうすればいいか分からない」という飼い主の死後における、遺族の方のペットに関する悩みです。
「親の死」という深い悲しみと、膨大な死後の手続き。それに加えて「命あるペットの行き先」という待ったなしの問題が降りかかってきたとき、ご遺族のパニックは計り知れません。
本日は、札幌での実際の事例なども交えながら、「飼い主の死後、ペットの法律的な扱いはどうなるのか」「残された家族はどうすべきか」そして「ペットを愛する飼い主が、生前にしておくべき対策」について、徹底的に、かつ分かりやすく解説いたします。
大切な家族であるペットを守るために、ぜひ最後までお読みください。
突然の悲劇!札幌市内のとあるご家族の事例
まずは、実際に起こりうるケースを見てみましょう。
【ケーススタディ:手稲区の父と、中央区の息子】
札幌市手稲区の戸建てで一人暮らしをしていたお父様(75歳)が、心筋梗塞で急逝されました。お父様は「そうすけ」という8歳のサモエドを溺愛しており、「そうすけ」もお父様にべったりでした。
札幌市中央区のマンションに住む一人息子のAさん(40歳・会社員)。悲しみに暮れる間もなく、葬儀の手配などに追われますが、Aさんの目の前には、主人が起き上がらないことを不思議そうに見つめる「そうすけ」の姿がありました。
Aさんの苦悩
- 自分の住んでいるマンションは「大型犬は不可」の規約がある。
- 妻は大の犬ぎらいで、特に大きなサモエドに恐怖を抱き、一時的に預かることすら難しい。
- いずれにしても、主のいない、「そうすけ」をそのまま家に置いておくことは出来ない。
このような状況に陥ったとき、Aさんは法律上、どのような立場に置かれ、どのような責任を負うのでしょうか。
法律上の現実 ペットは「モノ(動産)」である
非常に冷たい言い方になってしまいますが、日本の法律(民法)において、ペットは人間ではありません。命ある生き物ですが、法律上の扱いは「動産(モノ)」となります。
時計や家具、車などと同じように、ペットも亡くなった方(被相続人)の「所有物」であった以上、相続財産の一部として扱われます。
したがって、お父様が亡くなった瞬間から、サモエドの「そうすけ」は法定相続人であるAさんの共有財産(今回は一人息子なので単独所有)となります。
ペットが相続財産になるということは、相続人にはそのペットに対する「飼育・管理の責任」が発生するということです。 「自分は犬が嫌いだ」「ペット禁止の家に住んでいる」という個人的な事情は、法律上の管理責任を免除する理由にはなりません。
もし、Aさんが「飼えないから」といってタロウを手稲区の自宅に放置して餓死・凍死させてしまったり、公園に捨ててしまったりした場合、動物愛護管理法違反(動物の遺棄・虐待)となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
つまり、飼い主が亡くなった後、残された遺族は「飼う」か「新しい飼い主を探す」かの二択を、極めてスピーディーに迫られるのです。
残された家族(相続人)が直面する壁と対応策
もし皆様がAさんの立場になった場合、どのような行動をとるべきでしょうか。
特に北海道の冬場など、ライフラインの止まった空き家にペットを放置することは命に関わります。
① 親族・友人に一時預かりを頼む
② ペットホテルや動物病院に預ける
※ ただし、1泊数千円の費用が毎日かかります。この費用は原則として相続人負担、あるいは相続財産から捻出することになります。
どうしても自分たちで飼えない場合、速やかに新しい命のバトンを渡す先を探さなければなりません。
① 知人・友人のツテを頼る
② 民間の動物保護団体(NPO法人など)に相談する
札幌市内や近郊には、行き場を失った動物を保護・譲渡している素晴らしいボランティア団体が複数あります。しかし、どこも常に「満床」状態で、資金も人手もギリギリで運営されています。「親が死んだから引き取ってくれ」と丸投げすることはできません。引き取りにあたっては、寄付金やこれまでの医療費の負担などを求められるのが一般的です。
③ 行政(札幌市動物管理センター等)への相談
札幌市では「殺処分ゼロ」を目指す取り組みが進んでいますが、行政のセンターはあくまで「最終手段」です。また、動物愛護管理法の改正により、行政は「正当な理由のない引き取り」を拒否できるようになりました。相続人がいる場合、「単に飼えないから」という理由だけでは引き取りを拒否されるケースもあります。
相続人が複数いる場合(例えば母と兄弟3人など)、ペットを誰が引き取るかを「遺産分割協議」で話し合う必要があります。 「兄さんが実家を相続するんだから、犬も一緒に引き取ってよ」「いや、俺は仕事が忙しいから無理だ」といった押し付け合いになり、結果的にペットが宙に浮いてしまう悲しいトラブルも少なくありません。
愛犬・愛猫を守るため!生前にできる3つの「ペット法務」
ここまでお読みいただき、「残された家族にとっても、何よりペット自身にとっても、無計画なまま飼い主が亡くなることは悲劇でしかない」ということがお分かりいただけたかと思います。
「自分が死んだ後、この子はどうなってしまうのか…」
その不安を解消し、確実にペットの命と幸せを守るために、行政書士がサポートできる3つの法的な生前対策をご紹介します。
遺言書を使って、「ペットの飼育をお願いする代わりに、財産を渡す」という方法です。
・ 内容: 「友人Bに預貯金200万円を遺贈する。その負担として、私の愛犬「そうすけ」(マイクロチップ番号〇〇)が天寿を全うするまで、愛情をもって適切な飼育をすること」といった内容を遺言書(できれば公正証書遺言)に記載します。
・ メリット: 遺言者の単独の意思で作成できるため、手続きが比較的シンプルです。
・ デメリット: 遺言は「一方的な意思表示」であるため、受遺者(友人B)は、遺言者の死後にこれを「放棄(拒否)」することができます。 もし友人Bが「お金は欲しいけど、犬の世話はやっぱり無理」と放棄してしまったら、「そうすけ」は行き場を失います。また、引き取った後でお金だけ使い込み、「そうすけ」の世話を放棄してしまうリスクもあります。
・ 対策: このリスクを防ぐため、遺言の内容がきちんと実行されているかを監督する「遺言執行者(行政書士などの専門家が適任)」を指定しておくことが極めて重要です。遺言執行者は、友人Bが「そうすけ」を飼育しない場合、遺贈を取り消すよう家庭裁判所に請求することができます。
遺言が「一方的な手紙」だとすれば、死因贈与契約は「生前の約束(契約)」です。
・ 内容: 生前に友人Bとの間で、「私が死んだら200万円をあげるから、代わりにそうすけの面倒を見てね」「分かりました、引き受けましょう」という契約書を交わします。
・ メリット: 相手の合意を得て契約を結ぶため、死後に「やっぱり嫌だ」と拒否されるリスクが遺言に比べて格段に低くなります。お互いの合意事項を書面(公正証書推奨)に残すため、確実性が高まります。
・ デメリット: 遺言と同様、引き渡した後のお金の使い込みリスクを完全に排除することは難しいため、やはり信頼できる第三者を「執行者」として指定しておく必要があります。
現在、ペットの生前対策として最も注目され、かつ最も確実性が高いと言われているのが「ペット信託」です。
これは「信託法」という法律に基づく仕組みで、ペットの飼育資金を、自分の財産から切り離して専用の口座(信託口座)で管理する制度です。
ペット信託の仕組み
① 委託者(あなた): ペットの飼い主。財産を出して信託をスタートさせる人。
② 受託者(信頼できる人や法人): 委託者からお金を預かり、ペットのために「管理・支払い」をする人。(※例えば信頼できる親族や、信託を専門とする一般社団法人など)
③ 受益者(ペット?): 利益を受ける人。
※ 日本の法律上、動物は受益者になれないため、「新しい飼い主」を受益者に設定するか、「ペットのために適正に飼育してもらう権利」を持つ人を設定します。
④ 新しい飼い主: 実際にペットを引き取って世話をする人。
⑤ 信託監督人(行政書士など): 受託者がちゃんとお金を管理しているか、新しい飼い主がちゃんとペットの世話をしているかを「監督・チェック」する人。
ペット信託のメリット
① 資金の確実な保全: 信託したお金は「ペットのためのお金」として厳格に管理されます。新しい飼い主の借金の返済などに差し押さえられることはありません。
② 分割払い(毎月の支給)が可能: 新しい飼い主にポンと大金を渡すのではなく、「毎月のエサ代・医療費として3万円ずつ振り込む。領収書を提出させる」といった詳細なルールを決めることができます。これにより、お金の使い込みを完全に防ぐことができます。
③ 「認知症」にも対応できる: 遺言や死因贈与契約は「飼い主が死亡したとき」にしか効力を発揮しません。しかし、現代社会において深刻なのは「飼い主が認知症になり、老人ホームに入居することになってペットが取り残される」ケースです。ペット信託であれば、「自分が認知症などで飼育不能になった時点」から効力をスタートさせることができます。これはペット信託の最大のメリットです。
愛犬・愛猫のために残すべき「お金」の計算方法
「ペットのために財産を残す」といっても、一体いくら残せばいいのでしょうか。 漠然と「100万円くらい?」と考えるのではなく、論理的に計算する必要があります。
【飼育費用の計算式】
(ペットの平均寿命 - 現在の年齢) × 1年間の飼育費用 + 予備費(大きな医療費・葬祭費など)
(例)現在5歳の小型犬の場合
・ 小型犬の平均寿命: 約15歳(残り10年)
・ 1年間の飼育費用(フード、ペットシーツ、狂犬病・ワクチン、フィラリア予防、トリミン
グ代等): 約15万円
・ 予備費(将来の手術代や介護費、死後の火葬代など): 50万円
計算:10年 × 15万円 + 50万円 = 200万円
このように、ペットが寿命を全うするまでに必要な具体的な金額を算出し、その分を「負担付遺贈」や「ペット信託」に充てるように計画します。 特に晩年は、人間と同じように医療費や介護費用(おむつ代など)が跳ね上がる傾向にありますので、少し余裕を持った金額設定が必要です。
ペットの「エンディングノート」を書きましょう
法的な手続き(遺言や信託)と併せて、今すぐご自宅でできる一番簡単な準備があります。 それが「ペットのためのエンディングノート(飼育ノート)」の作成です。
もし明日、あなたに万が一のことがあり、新しい飼い主が引き継ぐことになった場合、その人はあなたのペットの「クセ」や「持病」を知っているでしょうか?
以下の項目をノートにまとめ、分かりやすい場所に置いておくか、かかりつけの動物病院の診察券と一緒にしておきましょう。
・ 基本情報: 名前、生年月日、犬種/猫種、性別、去勢・避妊の有無、マイクロチップ番号
・ 食事について: いつも食べているフードのメーカー、1回のグラム数、1日何回か、好きなおやつ、絶対に与えてはいけないアレルギー食物
・ 健康状態: かかりつけの動物病院(名前と電話番号)、持病、現在飲んでいる薬、過去の大きな病気・手術歴、ワクチン接種の状況
・ 性格・日常のケア: 好きな遊び、嫌がること(触られると怒る場所など)、散歩のルートと時間、おしっこ・うんちのサイン、雷や花火への反応
・ 緊急時の連絡先: 自分に何かあった時に、一番に連絡してほしい人の名前と電話番号(「この子の一時預かりをお願いしています」と明記しておく)
この1冊のノートがあるだけで、残されたご家族の負担は劇的に減り、何よりペット自身が新しい環境で受けるストレスを最小限に抑えることができます。
行政書士が「ペット法務」でできること
私たち行政書士は、「街の身近な法律家」として、権利義務に関する書類作成や事実証明に関する書類作成のプロフェッショナルです。ペット法務に関して、以下のようなサポートを行っております。
① ご相談と最適なプランの提案
ご家族の構成、財産の状況、ペットの年齢や性格などを総合的にヒアリングし、「遺言が良いか」「信託が良いか」など、最適な法的アプローチをご提案します。
② 法的な書類の作成サポート
「負担付遺贈」を含んだ遺言書の起案、公証役場での手続きのサポート(公正証書遺言の作成)。「死因贈与契約書」や「ペット信託契約書」の緻密な作成を行います。法律的に無効にならない、確実な書類をお作りします。
③ 遺言執行者・信託監督人への就任
飼い主様が亡くなられた後、遺言通りに財産が渡り、確実にペットの飼育がされているかを確認する「遺言執行者」や「信託監督人」として、第三者の厳しい専門家の目でペットの生活を見守ります。もし飼育放棄があれば、法的措置をとってペットを保護する手はずを整えます。
まとめ ~ 愛する家族だからこそ、「その日」に備える責任を
札幌もそうですが、核家族化が進み、一人暮らしの高齢者がペットと暮らすケースは非常に増えています。ペットは孤独を癒やし、生きる活力を与えてくれるかけがえのない存在です。
しかし、「愛している」という気持ちだけでは、自分が死んだ後のペットの命を守ることはできません。
「うちの子供たちは犬が好きだから、私が死んだら当然引き取ってくれるだろう」 「なんとかなるだろう」
このような「希望的観測」が、最も危険なのです。 いざという時、子供のマンションがペット不可だったら? 家族がアレルギーを発症していたら? 配偶者が反対したら? その瞬間、愛するペットは「処分されるかもしれないモノ」という残酷な立場に立たされてしまいます。
ペットは、自分で自分の将来を決めることも、自分でご飯を買うこともできません。飼い主であるあなたの準備だけが、彼らの命綱なのです。
「まだ元気だから大丈夫」と思っている今こそが、準備のベストタイミングです。 まずは、ペットのエンディングノートを1行書くところから始めてみませんか。そして、「もしもの時の行き先」と「そのためのお金」について、真剣に考えてみてください。
もし、少しでも不安を感じたり、専門的な仕組み(遺言やペット信託)について詳しく知りたいと思われましたら、どうぞお気軽に札幌の当事務所までご相談ください。 飼い主様の深い愛情を「法的な安心」に変え、愛犬・愛猫の未来を守るために、誠心誠意サポートさせていただきます。
■ 札幌での相続・遺言のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
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