認知症はもはや特別な病気ではなく、どの家庭でも起こり得る課題となっています。後期高齢者の親がいる場合は「転ばぬ先の杖」で特に症状が出ていなくとも注意深く観察し、疑わしい場合は、早いうちに適切な治療を受けることが大切です。しかしながら、実家の父親が認知症の兆候を示し始めた際は、家族、とりわけ長男が直面する責任と手続きは非常に重要となります。
預金・不動産などの財産管理、成年後見や家族信託などの対策及びもし放置した場合のトラブルを分かりやすく解説します。
突然訪れる「認知症」という現実に向き合う
「最近、父の物忘れがひどくなってきた」「同じ話を何度も繰り返す」「通帳やハンコの場所を忘れてしまう」 そんな変化に気づいたとき、多くの長男は「まだ大丈夫だろう」と現実から目を背けてしまいがちです。
しかし、厚生労働省の推計によれば、2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になる(注1)とされており、もはや他人事ではありません。特に長男は「家を継ぐ者」として、親の財産管理・介護・法的手続きを一手に担うケースが多く、何も準備していないと家族全員を脅かす深刻な事態を招きます。
(注1) 出典:厚生労働省 老健局「認知症施策の総合的な推進について」(2019年6月)
認知症は進行性の病気であり、気づいたときにすぐ動き出すことが、家族全員を守る最善の方法です。
放置すると起きる深刻な3つの問題
まず、認知症の父への対策を怠った場合に発生する具体的なリスクを理解しましょう。これらの問題は実際に多くの家族が直面している現実です。
金融機関が名義人本人の認知症を把握すると、財産保護のために口座が事実上凍結されます。一度凍結されると、たとえ長男であっても以下の取引ができなくなります。
① 大きな金額の引き出し
② 定期預金の解約
③ 投資商品の解約・売却
④ 振込や送金手続き
結果として、施設の入居一時金を払えない、医療費の支払いに困る、家族が介護費用を立て替えなければならないという経済的負担を強いられることになります。
認知症により判断能力が低下すると、不動産の売買契約や建築請負契約を結ぶことができなくなってしまいます。
そのため
① 誰も住まなくなった実家を売却して介護費用に充てたい。
② 老朽化した実家をリフォームして住みやすくしたい。
③ 賃貸に出して収入を得たい。
これらの希望があっても、法的に手続きを進めることが不可能になります。2024年4月からは相続登記も義務化されており、不動産の放置は将来的なトラブルの火種となります。
これは最も深刻な問題となります。特別養護老人ホームなどの介護施設に入所する際には、原則として本人による契約が必要です。判断能力がないと契約行為が無効となるため、入所手続きがスムーズに進まず、希望するタイミングで適切な介護サービスを受けられないリスクが生じます。
認知症の段階と法的能力の関係を理解する
認知症と診断されたからといって、即座にすべての法律行為ができなくなるわけではありません。法的な「意思能力」の有無が、財産管理や契約行為の有効性を左右します。
意思能力とは、自分が行う法律行為(契約・贈与・遺言など)の内容を理解し、その結果を判断できる能力のことです。この能力が著しく低下した状態で締結した契約は、後から無効とみなされる可能性があります。
① 軽度(初期段階): 日常生活はほぼ自立しているが、複雑な判断が難しくなる
・ 対応可能: 任意後見契約、家族信託の締結
・ 重要: この段階での早期対応が最も効果的
② 中度(中期段階): 日常的な金銭管理が困難になる
・ 対応可能: 法定後見制度の申立て
・ 注意: 契約行為の有効性に疑問が生じる段階
③ 重度(後期段階): 意思能力がほぼ失われている
・ 対応可能: 法定後見制度のみ
・ 制限: 本人単独での法律行為は困難
重要なのは、「まだ軽度のうちに手を打つ」ことです。 中度・重度になってからでは選択できる手続きが限られ、家族の希望通りの財産管理ができなくなることがあります。
<参考記事> 親が認知症になる前に銀行でやるべき9つの対策 札幌の行政書士やっくんが解説
長男がまず取り組むべき初期対応
父親の様子がおかしいと感じたら、まずは冷静に現状を把握し、家族間で情報を共有することが第一歩となります。
法律や手続きよりも先に、医療機関を受診して「本当に認知症なのか」「どれくらい進行しているのか」を知ることが重要です。
- かかりつけ医への相談
- もの忘れ外来・認知症外来の受診
- 地域包括支援センターでの相談
- 要介護認定の申請(札幌市の場合は各区役所の保健福祉課)
診断書を取っておくと、今後の成年後見の申立てなど、法的な手続きにも役立ちます。
ただし、起こりがちな事として、本人が受診を拒否することです。拒否する背景には、「自分が病気だと認めたくない」「プライドが許さない」「病気が発覚することへの恐怖」など、複雑な心理的要因が絡んでいます 。無理に「認知症の検査」と伝えて連れて行こうとすると、家族関係が悪化し、その後の支援が困難になるリスクがあります 。
受診を促す際は、以下のようなアプローチが有効です。
① 家族の安心を理由にする: 「お父さんの元気な姿をずっと見ていたいから、家族が安心するために付き合ってほしい」という、家族の側を主語にした伝え方を用います 。
② 口実を作る: 「健康診断のついでに」「最近よく眠れていないようだから」「血圧の薬をもらいに行くついでに」といった、本人が受け入れやすい理由を提示します 。
③ 第三者の力を借りる: かかりつけ医から「念のため一度詳しく診てもらいましょう」と勧めてもらったり、信頼している友人の声かけを利用したりします 。
長男であるあなたが全部を背負い込む必要はありません。むしろ、1人で抱え込むと、後で兄弟間のトラブルになることもあります。必ず、親族一同に会した家族会議を開きましょう。
① 役割分担の例
・ 長男: 主な窓口役(役所や専門家との連絡)
・ 二男・長女: 実家の様子確認、父の通院付き添い
・ 離れて暮らす子: 費用面のサポート
② 家族会議で共有すべき事項
・ 父の現在の様子(物忘れ、金銭管理の状況など)
・ 実家の名義、不動産の有無
・ 預貯金や年金の状況(分かる範囲で)
・ 今後の介護方針と費用負担
・ 誰が父の財産管理を手伝うか
財産の全体把握:長男が確認すべきチェックリスト
財産の全体像を把握しておかなければ、詐欺被害・不正引き出し・不動産の無断処分などのリスクに気づくことができません。以下の項目を一つずつ確認していきましょう。
① 銀行通帳・キャッシュカードの保管場所と残高
② ネットバンキングの利用状況
③ 年金の振込先口座
④ 定期預金や投資信託などの有無
⑤ 複数の金融機関への口座開設状況
① 実家の名義確認(法務局で登記事項証明書を取得)
② その他の土地・建物の所有状況(田畑・貸家・駐車場など)
③ 固定資産税の納税通知書の確認
④ 住宅ローンの残債状況
① 住宅ローンやカードローンの残高
② クレジットカードの利用状況とリボ払い残高
③ 連帯保証人になっている債務の有無
④ 借入金や未払い債務
① 生命保険・医療保険・介護保険の契約内容
② 自動車(車検証の名義確認)
③ 株式・投資信託・国債などの有価証券
④ 貴金属・骨董品などの動産
※ これらを一覧にした「財産目録」を作成しておくことで、後の手続きが格段にスムーズになります。
認知症の父の財産を守る3つの法的制度
父の財産を守るための法的手段は主に3つあります。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて最適な選択をすることが重要です。
概要: 本人がまだ判断能力のあるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、信頼できる人に財産管理を委託する契約を結ぶ制度
メリット
① 本人が自分の意思で後見人を選べる
② 将来の財産管理の方針を事前に決められる
③ 家族の希望が反映されやすい
デメリット
① すでに判断能力が大きく低下している場合は利用不可
② 公証役場での手続きと監督人への報酬が必要
③ 実際の開始まで時間がかかる場合がある
※ 費用の目安: 公正証書作成費約1万円〜、監督人報酬 月1〜3万円
概要: 財産を持つ本人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・運用・処分を託す契約
メリット
① 相続対策と財産管理を一体的に考えられる
② 裁判所の関与なく柔軟な財産管理が可能
③ 将来の売却・修繕なども受託者がスムーズに対応可能
④ 認知症になった後も財産の有効活用ができる
デメリット
① 契約内容が複雑で専門家の関与がほぼ必須
② 父に判断能力がある段階でないと契約不可
③ 受託者の責任が重い
※ 費用の目安: 専門家報酬30〜100万円、信託登記費用など
概要: すでに判断能力が不十分になった人を守るために、家庭裁判所が成年後見人を選任
する制度
メリット
① 判断能力が低くなってからでも利用可能
② 銀行や不動産取引の場面で信頼されやすい
③ 家庭裁判所の監督下で安全な財産管理
デメリット
① 家庭裁判所の監督下で厳格な財産管理が求められる
② 後見人への報酬が毎月発生(月2〜6万円程度)
③ 一度始まると本人が亡くなるまで継続
④ 家族の希望が必ずしも反映されない
※ 費用の目安: 申立て費用約1万円、後見人報酬月2〜6万円
| 状 況 | 推奨制度 | 理 由 |
|---|---|---|
| 認知症初期、本人の理解あり | 任意後見 or 家族信託 | 本人の意思を最大限反映可能 |
| 不動産活用・相続対策重視 | 家族信託 | 柔軟な財産管理が可能 |
| 認知症中〜重度 | 法定後見 | 他に選択肢がない |
| 家族間で意見対立あり | 法定後見 | 公正中立な管理 |
<参考記事>1.家族信託と任意後見人制度、認知症対策にはどちらが良いか?札幌の行政書士やっくんが解説
<参考記事>2.家族信託の危険性 行政書士にお任せしよう! 札幌の行政書士やっくんが解説
札幌・北海道特有の問題と対策
札幌市および周辺地域では、以下のような特有の相談が多く寄せられます。
よくある状況
① 父は札幌で一人暮らし
② 長男は東京、次男は関西など遠方在住
③ たまに帰省すると生活が心配になってきた
対策のポイント
① 地域包括支援センターとの連携強化
② 認知症の進行具合を遠方からでも把握できる仕組み作り
③ 将来の施設入所や自宅売却を視野に入れた財産管理の準備
よくある状況
① 札幌近郊にわりと広い土地付きの一戸建て
② しかし預貯金はそれほど多くない
③ 将来の施設費用をどう捻出するかが問題
対策のポイント
① 将来的に自宅を売却して費用に充てる可能性を検討
② それをスムーズに行うための家族信託や後見制度の活用
③ 不動産の適正評価と売却可能性の事前調査
北海道ならではの問題
① 冬場の雪かきができない
② 屋根の雪下ろしが危険
③ それでも父が「まだ大丈夫だ」と言い張る
対策のポイント
① 介護サービス・除雪サービスの導入
② それにかかる費用の捻出・管理方法の検討
③ 将来的な施設やサービス付き高齢者住宅への移住検討
行政書士に相談できること・できないこと
札幌市の行政書士として、以下のようなサポートが可能です。
① 財産状況のヒアリング・整理: 複雑な財産関係を分かりやすく整理
② 任意後見契約・家族信託の設計サポート: 契約書案の作成
③ 公正証書作成のサポート: 公証役場とのやりとり
④ 親族間の協議内容の文書化: 合意事項を適切な形で文書化
⑤ 制度選択のアドバイス: 家族の状況に最適な制度の提案
一方で、行政書士だけでは対応できない分野もあります。
① 法定後見の申立て: 家庭裁判所手続き(司法書士・弁護士)
② 相続争いなど「争いごと」の代理: 弁護士の業務範囲
③ 登記手続き: 司法書士の業務範囲
④ 税務相談: 税理士の業務範囲
※ 必要に応じて、信頼できる他士業や福祉の専門職と連携して、ワンストップでサポートいたします。
まとめ 長男が今すぐやっておきたい3つのステップ
最後に、この記事の内容を踏まえて、長男の立場で「まずこれだけは」と言える重要なステップを3つに絞ります。
① 医療機関を受診し、認知症の有無・程度を確認
② 可能なら、今後の生活や希望を父本人とよく話し合う
③ 要介護認定の申請を検討
① 預貯金・年金・不動産・保険・借入などをリスト化
② 兄弟姉妹にも情報を共有し、透明性を保つ
③ 毎月の収支状況も把握しておく
① 任意後見・家族信託: まだ判断能力があるうちに
② 成年後見: すでに判断能力がかなり低下している場合
③ 自分たちの家族に合った方法を専門家と相談しながら選択
札幌で認知症の親の財産管理に悩んだら、専門家にご相談を
「何かしなきゃいけないのは分かるけれど、どの制度を選べばいいのか正直よく分からない…」「うちの場合は何から手をつけるべきか迷っている」
そんな状態で立ち止まってしまう方が非常に多いのが現実です。しかし、認知症は進行性の病気であり、時間が経つほど選択肢が狭まってしまいます。
まずは、今のご家族の状況を整理するところから、お手伝いできます。
・ うちは任意後見と家族信託、どちらが合っているのか
・ 札幌の実家を将来どうするか、今から準備できることは何か
・ 遠方に住んでいるが、札幌の父のことをどう支えていけばいいか
・ 兄弟間で意見が分かれているが、どう調整すればよいか
こうしたお悩みがあれば、手遅れになる前に一度ご相談ください。状況を伺いながら、「やるべきこと」と「今すぐでなくて良いこと」を整理し、無理のない現実的なプランをご提案いたします。
札幌市の「つしま行政書士事務所」では、ご家族の状況に寄り添い、最適なアドバイスと手続きのサポートを行っております。
下記までご連絡下さい。
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☎ 011-788-3883
