長年にわたるお勤め、本当にお疲れ様でした。65歳での退職は、人生における非常に大きな節目です。毎日の通勤電車や厳しいノルマ、人間関係のストレスから解放され、「これからは自分の好きなことをして、ゆっくり過ごそう」と胸をなでおろしている方も多いことでしょう。
しかし、退職の余韻に浸る間もなく、皆さまの目の前には「手続きの壁」が立ちはだかります。会社員時代は、健康保険や年金、税金の手続きのほとんどを会社(総務部や人事部)が代行してくれていました。しかし、退職した翌日からは、これらすべてを「自分自身で」行わなければなりません。
「何から手をつければいいのか分からない」「期限に遅れたらどうなるのか不安だ」という相談は非常に多いです。さらに、当面の手続きが終わった後には、これからの長いセカンドライフに向けた「ライフプランの構築」や、ご家族のための「エンディングノート・遺言書の作成」といった重要な課題も待っています。
本記事では、身近な街の法律家である行政書士が、65歳で退職された方が「すぐやらなければならない公的手続き」から「給付金の申請」、そして「後悔しないための終活(エンディングノート・遺言書)」に至るまで、細かく解説いたします。
少し長くなりますが、このページをブックマークし、一つひとつチェックしながら進めていただける「完全保存版のガイド」としてお役立てください。
待ったなし! 退職後「すぐ」やらなければならない公的手続き
退職日の翌日から、あなたは「会社の従業員」ではなくなります。それに伴い、健康保険や年金の切り替えなど、期限の定められた重要な手続きが待っています。これを放置すると、無保険状態になって医療費が全額自己負担になったり、もらえるはずの年金が遅れたりする危険があります。
日本の医療制度は「国民皆保険」ですので、退職後も必ず何らかの健康保険に加入しなければなりません。選択肢は以下の3つです。ご自身の今後の収入や、ご家族の状況によって最適なものが異なります。
① 家族の健康保険の「被扶養者」になる
・ 概要: 配偶者や子どもが加入している会社等の健康保険に、扶養家族として入れてもらう方法です。
・ メリット: あなた自身の保険料負担は「ゼロ」になります。これが最も経済的です。
・ 注意点: 厳しい収入要件があります。60歳以上の場合、今後の「年間見込み収入が
180万円未満」かつ「被保険者(家族)の収入の半分未満」でなければなりません。ここでいう「収入」には、老齢年金や失業給付金も含まれます。65歳以降は年金受給額が増えるため、この要件から外れてしまう方が非常に多いので注意が必要です。
② 国民健康保険(国保)に加入する(退職後14日以内)
・ 概要: お住まいの市区町村が運営する健康保険に加入します。
・ 手続き先: 市区町村役場の国民健康保険担当窓口。
・ 保険料: 前年の所得(退職した年の給与など)をベースに計算されます。そのため、退職直後の1年間は保険料が非常に高額になる傾向があります。市区町村の窓口で、大体の保険料を試算してもらうことをお勧めします。
<札幌市の場合> 令和7年度札幌市国民健康保険料の目安
※ 上記健康保険料に介護保険料がプラスされます。
③ 在職中の健康保険を「任意継続」する(退職後20日以内)
・ 概要: 会社員時代に加入していた健康保険組合や協会けんぽに、退職後も引き続き(最長2年間)加入する制度です。
・ 保険料: 会社員時代は労使折半(会社が半分負担)でしたが、退職後は全額自己負担となります。つまり、現役時代の約2倍の保険料を支払うことになります。ただし、保険料には「上限」が設けられているため、現役時代の給与が高かった方は、国民健康保険よりもこちらの方が安くなるケースが多々あります。
・ 手続き先: 加入していた健康保険組合または協会けんぽの支部(期限厳守!1日でも遅れると受け付けられません)。
【行政書士からのアドバイス】 退職前に、会社の総務に「任意継続した場合の保険料」を確認し、同時に役所で「国民健康保険料の試算」をお願いしましょう。両者を比較し、安い方を選択するのが鉄則です。
65歳は、いよいよ老齢基礎年金と老齢厚生年金(いわゆる本来の年金)の受給が始まる年齢です。「65歳になったら自動的に口座に振り込まれる」と勘違いされている方がいますが、自ら請求手続き(裁定請求)を行わなければ、年金は1円も支給されません。
・ 手続きの時期: 65歳の誕生日の前日以降。
・ 必要書類: 年金請求書(誕生日の約3ヶ月前に日本年金機構から緑色の封筒で届きます)、戸籍謄本、住民票、受取先金融機関の通帳コピーなど。
・ 提出先: お近くの年金事務所、または街角の年金相談センター。(予約必須)
・ 繰下げ受給の検討: 65歳から受け取らずに、66歳以降(最長75歳まで)に受給を遅らせる「繰下げ受給」を選択することも可能です。1ヶ月遅らせるごとに受給額が0.7%増額され、75歳まで遅らせれば最大84%の増額になります。ご自身の健康状態や資産状況を踏まえて慎重に判断しましょう。
・ 住民税の納付: 住民税は「前年の所得」に対して課税される後払い方式です。退職時に会社が一括徴収してくれなかった場合、後日、市区町村から自宅に納付書が届きます。「収入が減ったのに高額な税金の請求が来た」と慌てないよう、あらかじめ資金を取り分けておく必要があります。(退職後1年目はとんでもない金額が徴収されます!!)
・ 確定申告の準備: 年度の途中で退職し、その後再就職しなかった場合、会社での「年末調整」が行われません。現役時代に天引きされていた所得税が納めすぎになっている可能性が高いため、翌年の2月16日〜3月15日の間に(還付申告だけの場合は1月1日から)確定申告を行うことで、税金が還付される(戻ってくる)ケースが多いです。源泉徴収票は絶対に無くさないように保管してください。なお、確定申告は、マイナンバーカード所有の場合はe-Taxがお勧めです。スマートフォンで申告出来ます。
もらい忘れ厳禁!65歳退職後の「給付金」申請
雇用保険(いわゆる失業保険)は、若い人だけの制度ではありません。長年雇用保険料を納めてきた皆さまには、正当な権利として受け取れる給付金があります。65歳での退職の場合、通常の失業保険とは異なる特別な給付金制度が適用されます。
65歳未満で退職した場合は、毎月分割で「基本手当(失業保険)」を受け取りますが、65歳以上で退職した場合は「高年齢求職者給付金」として、一時金(一括)で受け取ることになります。
① 受給条件
・ 離職の日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6ヶ月以上あること。
・ 失業の状態にあること(働く意思と能力があり、求職活動を行っていること)。
② もらえる金額
被保険者期間が1年未満の場合は基本手当の「30日分」、1年以上の場合は「50日分」が、一括して支給されます。
・ メリット: 年金との併給が可能です。65歳未満の通常の失業保険の場合、老齢厚生年金との同時受給はできず年金が全額停止されますが、この「高年齢求職者給付金」は年金を全額もらいながら受け取ることができます。これは非常に大きなメリットです。
・ 手続き先: ハローワーク(公共職業安定所)。会社から受け取った「離職票」を持参して求職の申し込みを行います。
第2の人生を豊かにする「ライフプラン」の再構築
手続きが一段落したら、次は「これから何十年と続く生活」の設計図を描きましょう。平均寿命が延び「人生100年時代」と言われる現代、65歳からでも30年以上の時間が残されている可能性があります。経済的な不安を解消し、精神的に豊かな生活を送るためのライフプランニングが不可欠です。
まとまった退職金が口座に振り込まれると、気が大きくなってしまったり、あるいは銀行や証券会社の営業マンから投資信託などを勧められたりすることがあります。
鉄則1
まずは「何もしない」 退職してすぐの半年間は、大きな投資や高額な買い物は避けましょう。生活のリズムや必要なお金が把握できていない時期に、退職金に手をつけるのは危険です。まずは安全な定期預金などに預け、冷静になる期間を設けてください。
鉄則2
生活防衛資金と用途別資金に分ける 退職金を「日々の生活費の補填」「車の買い替えや家の修繕費用(数年内に使うお金)」「医療・介護の備え(いざという時のお金)」に色分けし、リスクを取って運用(投資)に回していいのは、当面使う予定のない「余剰資金」のみに限定してください。
現役時代と異なり、毎月決まった給与が入ってくるわけではありません。「年金という限られた収入」の中で、いかに生活を成り立たせるかが鍵となります。
① 収入の把握: 年金受給額(手取り額)を正確に把握します。「ねんきん定期便」などを確認し、税金や社会保険料が引かれた後の「手元に残る金額」を計算します。
② 支出の把握: 食費、光熱費、住居費(固定資産税や修繕費含む)、保険料、趣味・交際費など、月々いくらかかるかを書き出します。
③ 不足額の算出: 「収入-支出」を計算します。マイナスになる場合(毎月の赤字)、それを退職金や貯蓄の切り崩しで何年持ちこたえられるかをシミュレーションします。
④ 改善策の実行: 赤字が大きい場合は、「支出を見直す(格安スマホへの変更、不要な保険の解約など)」「働く期間を延ばして収入を増やす」といった対策を講じる必要があります。
65歳以降は、「お金のため」だけでなく「生きがいのため」「社会との繋がりのため」に働くという視点も大切です。
・ パート・アルバイト: 週に数日、無理のない範囲で働き、生活費の足しにすると同時に、生活にメリハリをつけます。
・ ボランティア活動・地域活動: 町内会やNPO法人に参加し、これまでの経験や知識を社会に還元します。
・ 趣味や学び直し: 大学の公開講座に通ったり、長年の夢だった趣味に没頭したりするのも、豊かなセカンドライフの形です。
自分の人生を振り返り、未来を託す「エンディングノート」
「終活」という言葉がすっかり定着しましたが、その第一歩となるのがエンディングノートの作成です。これは「死を意識して書く暗いもの」ではなく、「これからの人生をより安心して、自分らしく生きるために、頭の中を整理するノート」だとお考えください。
法的拘束力(法律上の強制力)はありませんが、ご自身の基本情報、財産、医療や介護に関する希望、家族へのメッセージなどを自由に書き留めておくノートです。市販のノートでも、文房具店などで売られている専用のエンディングノートでも構いません。
① 自分の基本情報と交友関係
本籍地、マイナンバー、基礎年金番号などの基本情報に加え、「もしもの時(入院や葬儀の際)に連絡してほしい友人・知人のリスト」を作成します。残された家族は、あなたの交友関係をすべて把握しているわけではありません。
② 財産と負債のリスト(重要!)
・ プラスの財産: どこの銀行の何支店に口座があるか、証券会社の口座、不動産、生命保険の証券の保管場所などを明記します。口座番号や残高まで詳細に書く必要はありません(変動するため)。「どこに何があるか」を家族が辿れるようにすることが目的です。
・ マイナスの財産(借金): 住宅ローンの残債、クレジットカード、知人からの借金や保証人になっている事実も正直に書きましょう。家族が知らない借金が後から発覚するのが、一番のトラブルになります。
③ デジタル遺品の整理 現代特有の重要な項目です。スマートフォンやパソコンのパスワード、SNS(Facebook、X、LINEなど)のアカウント情報、ネット証券やネット銀行のID、月額課金制のサブスクリプション(動画配信サービスなど)の情報を書き留めます。これを残しておかないと、死後もクレジットカードから永遠に会費が引き落とされ続けるといった事態が発生します。
④ 医療・介護・葬儀の希望
・ 医療・介護
認知症などで自分の意思が示せなくなった時、どこで介護を受けたいか(自宅か施設か)、延命治療(胃ろうや人工呼吸器)を望むか望まないか(尊厳死の希望)を記載します。
・ 葬儀・お墓
家族葬が良いか、一般葬が良いか。無宗教形式が良いか。納骨堂か樹木葬か、あるいは先祖代々のお墓に入るかなど、希望を記します。
⑤ 家族へのメッセージ
照れくさいかもしれませんが、配偶者や子どもへの感謝の言葉を綴ってください。残された家族にとって、このメッセージは一生の宝物になり、悲しみを癒す大きな力となります。
65歳の定年退職時は、時間が確保でき、まだ気力も体力も充実しているため、エンディングノートを書く「ベストタイミング」です。 保管場所は「家族が見つけやすく、かつ普段は人目につかない場所」が適しています。机の引き出しや金庫などが一般的ですが、「エンディングノートをここに書いた」という事実だけは、必ず信頼できる家族に伝えておいてください。誰にも気づかれずに捨てられてしまっては意味がありません。
関連記事

家族への最後のラブレター「遺言書の作成」
エンディングノートで自分の想いを整理したら、次はその中で「財産の分け方」に関する部分を、法的な効力を持つ「遺言書」として形に残しましょう。「うちは財産なんて少ないから遺言書なんて必要ない」とおっしゃる方が非常に多いのですが、それは大きな誤解です。
家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割トラブル(争族)の約75%は、遺産総額が5,000万円以下の家庭で起きています。特に「主な財産が自宅の不動産のみ」というケースは、物理的に分割することが難しく、兄弟間で骨肉の争いになりやすいのです。
また、遺言書は「認知症」になって判断能力(遺言能力)が失われてしまうと、作成することができなくなります。頭が鮮明で、体力もある65歳の今だからこそ、将来のトラブルを未然に防ぐために作成しておくべきなのです。
・ エンディングノート: 法的拘束力は「なし」。希望や想いを伝えるもの。
・ 遺言書: 法的拘束力は「あり」。民法で定められた厳格なルールに従って作成しなければ無効になります。遺言書に「長男に家を相続させる」と正しく書かれていれば、原則としてその通りに法的な手続きが進みます。
遺言書にはいくつか種類がありますが、現実的に選択されるのは以下の2つです。
① 自筆証書遺言(自分で手書きする遺言書)
・ 概要: 本人が紙に、全文・日付・氏名を自署(手書き)し、押印して作成します。(※財産目録についてはパソコン作成や通帳のコピー添付が認められるようになりました)。
・ メリット: 費用がかからず、いつでも好きな時に書け、書き直しも容易です。
・ デメリット: 形式の不備(日付がない、押印がない等)で無効になるリスクが高いです。また、紛失や改ざんのリスクがあります。さらに、亡くなった後、家族が家庭裁判所で「検認」という複雑で時間のかかる手続きを行わなければなりません。
・【最新情報:法務局における遺言書の保管等に関する法律】 2020年より、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度がスタートしました。これにより、紛失・改ざんのリスクがなくなり、死後の家庭裁判所での「検認」手続きも不要になりました。費用も数千円と安価なため、現在非常に人気を集めている方法です。
② 公正証書遺言(公証人に作成してもらう遺言書)
・ 概要: 遺言者が公証役場に行き(または公証人に来てもらい)、公証人に遺言の内容を口頭で伝え、公証人が法律に従って作成する遺言書です。証人2名の立ち会いが必要です。
・ メリット: 法律の専門家である公証人が作成するため、形式不備で無効になるリスクがゼロです。原本は公証役場で厳重に保管されるため、紛失や偽造の心配もありません。死後の「検認」も不要で、遺族はすぐに預貯金の解約や不動産の名義変更手続きに入れます。最も確実で安全な方法です。
・ デメリット: 財産額に応じて数万円〜十数万円の手数料(公証人手数料)がかかります。また、証人2名を用意する手間がかかります(行政書士などに依頼することも可能です)。
【行政書士からのアドバイス】 ご家族への確実な財産継承と、残されたご家族の手間(検認手続き等)を省くことを考えれば、多少の費用がかかっても「公正証書遺言」での作成を強くお勧めします。自筆証書遺言を選ぶ場合は、必ず法務局の保管制度を利用しましょう。
関連記事

遺言書は「亡くなった後」の財産をどうするかの取り決めですが、「生きている間」に認知症等で判断能力が低下した場合に備えるのが「成年後見制度(任意後見契約)」です。 将来、判断能力が低下した時に、自分の財産管理や介護施設への入所契約などを代わりにやってくれる人(任意後見人)を、あらかじめ元気なうちに自分で決めておく契約です。これも公証役場で公正証書として作成します。遺言書とセットで検討することで、老後の不安を大幅に軽減できます。
関連記事

おわりに ~ 一人で抱え込まず、専門家を活用してください
65歳の定年退職後にやらなければならないことを駆け足で総点検いたしました。健康保険の切り替えから年金手続き、ライフプランの見直し、そしてエンディングノートと遺言書の作成まで、本当にたくさんの「やるべきこと」があります。
これらをすべて一人で完璧にこなそうとすると、大変な労力とストレスがかかります。「手続きの期限が迫っていて焦っている」「自分の財産状況に合わせて、どのような遺言書を作ればいいか分からない」「エンディングノートの書き方が合っているか不安だ」といったお悩みが生じるのは当然のことです。
私たち行政書士は、官公庁への提出書類の作成代行から、事実証明に関する書類(エンディングノート等)の作成アドバイス、そして「権利義務に関する書類」の最高峰である遺言書(原案の作成や公証役場との打ち合わせ、証人の引き受けなど)の作成サポートまで、皆様のセカンドライフへのスムーズな移行を幅広くお手伝いする国家資格者です。
定年退職は終わりではなく、新しい人生の始まりです。煩雑な手続きや法律の壁は専門家に任せ、少しでも早く不安を解消して、皆様の第2の人生を笑顔で、そして心豊かにスタートさせてください。何かお困りのことがあれば、お近くの行政書士にお気軽にご相談ください。あなたの人生の新たな門出を、全力でサポートさせていただきます。
■ 札幌での相続・遺言のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
【お問い合わせ先】 つしま行政書士事務所
- 所在地:札幌市東区
- 対応エリア:札幌市内および近郊エリア(出張相談も承ります)
- 営業時間:平日 9:00〜18:00(※事前の予約で土日祝や夜間も対応可能です)
初回60分相談料無料

☎ 011-788-3883
