日頃から行政書士業務の中で、非常に多くの方から最初に出てくる言葉があります。
「うちはごく普通の家庭で、大した財産もないから相続でもめるなんてあり得ないですよ」
本当にそうなのでしょうか?
実は、この「うちは普通の家庭だから大丈夫」という思い込みこそが、相続トラブル を引き起こす最大の罠になっています。
相続トラブルに関しては、過去に何回か記事にしていますが、今回はおさらいの意味で、司法統計などの客観的なデータをもとに、なぜ普通の家庭ほど相続でもめやすいのか、そして大切な家族を争わせないために今できる対策について分かりやすく解説していきます。
「うちは財産が少ないから、相続でもめることはない」は本当?
「相続トラブルと聞くと億単位の資産をめぐるお金持ちの争いだ」というイメージをお持ちではありませんか?ドラマやニュースなどで見る巨大な資産をめぐる親族の愛憎劇のようなものを想像される方も多いかもしれません。
しかし、実際の相続現場はまったく異なります。結論から言いますと、「財産が少ないからといって、もめないわけではない」どころか、「財産が少ない・分けにくい家庭ほど、深刻なトラブルになりやすい」のが現実です。
お金持ちの家庭の場合、不動産が複数あったり、十分な預貯金や株式などの有価証券が豊富にあったりします。そのため、相続人の間で「長男は自宅不動産、次男は収益物件、長女は現金」といったように、物理的に財産を分け合う余地が十分にあります。また、このような家庭は概ね被相続人(財産を残される方)が「公正証書遺言」などの万全な相続対策を行っているケースが多いのです。
一方で、ごく普通の家庭では「主な財産は今住んでいる持ち家(不動産)のみで、預貯金は葬儀費用や当面の生活費程度しか残っていない」というケースが多く見られます。また、被相続人が財産の処分について無頓着であり、何も対策がされていない事がほとんどです。この状況こそが、相続を泥沼化させる最大の要因です。
司法統計が示す驚きの事実 相続トラブルは普通の人に多い!
ここで、客観的なデータを見てみましょう。裁判所が毎年公表している「司法統計」には、全国の家庭裁判所で扱われた遺産分割調停事件(相続でもめて裁判所での話し合いになった件数)の資産規模別割合が掲載されています。
遺産分割調停事件の総件数は2024年(令和6年)の新受件数は17,013件で、2022年(令和4年)の約12,981件と比べると増加傾向にあり、相続トラブルは決して一部の資産家だけの問題ではなく、多くの一般家庭が直面している身近な問題といえます。
内訳をみると、家庭裁判所に持ち込まれる相続トラブルのうち、約80%が「遺産総額5,000万円以下」の家庭で発生しています。さらに驚くべきことに、そのうちの約33%は「遺産総額1,000万円以下」のいわゆる普通の家庭でおきているのです。

このデータが意味することは極めて明確です。裁判所で争うほどの深刻な相続トラブルを起こしているのは、決して特別な資産家ではありません。ごく普通のサラリーマン家庭や、持ち家をお持ちの一般的なご家庭が大部分を占めているのです。
「うちは普通の家だから関係ない」という意識を今すぐ捨てることが、対策の第一歩となります。
なぜ「普通の家庭」で相続トラブルが起こるのか?
では、なぜ「普通の家庭」でこれほどまでに相続トラブルが発生してしまうのでしょうか。それには主に3つの構造的な理由が存在します。
1.財産の大半が「不動産(持ち家)」で分けられない
先ほども少し触れましたが、日本の普通の家庭における遺産の構成比を見ると、その大部分を不動産が占めています。現金であれば1円単位で綺麗に分けることができますが、不動産は物理的に切り分けることができません。
2.法定相続分の意識が高まっている
現代社会では、インターネットやYouTubeを通じて法律知識が広まり、「子供は全員平等に分ける権利(法定相続分)がある」という意識が当たり前になっています。昔のように「長男が全部継ぐのが当たり前」という時代ではなくなったため、それぞれの相続人が自身の権利を主張しやすくなっています。
3.家族構成やライフスタイルの変化
被相続人の配偶者がすでに他界している場合、子供たち(兄弟姉妹)だけで話し合うことになります。子供たちがそれぞれ結婚して自分の家庭を持ち、住宅ローンや子どもの教育費、将来の老後資金などの経済的事情を抱えていると、「もらえるものは主張してもらいたい」という心理が働きやすくなります。また、義理の配偶者が口を挟むことで、話し合いが複雑化するケースも非常に多くなります。
実は一番もめやすい?「自宅しか大きな財産がない家庭」
普通の家庭で最も典型的なトラブルパターンが、「実家の持ち家(評価額2,000万円)と、預貯金300万円」といった遺産構成のケースです。
仮に相続人が長男・次男の兄弟2人だとしましょう。法定相続分は各2分1ですので、それぞれ1,150万円ずつ分け合う権利があります。
ここでの問題は、長男が「これまで親と同居していた(あるいは親の死後も実家に住み続けたい)」と希望した場合です。
・ 遺産構成: 実家(評価額2,000万円) + 預貯金(300万円)= 合計 2,300万円
・ 法定相続分: 長男 1,150万円 / 次男 1,150万円
長男が実家を取得すると、長男は2,000万円分の価値を得ることになります。しかし、残った預貯金は300万円しかありませんので、次男に300万円を渡したとしても、次男は「850万円分足りない」ということになります。
この場合、長男が自分のポケットマネー(自己資金)から次男へ850万円を支払う(代償金と言います)ことができれば解決できますが、長男にもそれだけの現金を用意する余力がない場合、話し合いは完全に頓挫します。
最終的に次男から「公平に分けるために実家を売却して現金で折半しよう」と要求され、長男は住み慣れた実家を手放さざるを得なくなったり、あるいは兄弟関係が完全に断絶したりする事態に発展するのです。
「親の介護をしたのは私」兄弟間の不公平感が相続争いを生む
お金の額面だけでなく、生前の関わり方に対する「感情の不公平感」もトラブルの大きな火種になります。その代表格が「親の介護問題」です。
例えば、長女が仕事を調整しながら何年も親の通院や介護の世話をし、次女は遠方に住んでいて年に1〜2回顔を出す程度だったとします。
親が亡くなった後、法律通りに「財産は折半ね」と次女から言われたとき、長女としてはどのような気持ちになるでしょうか。
・ 長女の主張: 「私は自分の時間も犠牲にして毎日介護をしてきた。何もしなかった貴方と同じ割合なんて納得がいかない!」
・ 次女の主張: 「介護は子供として当然の義務でしょ?法律上の権利は半分ずつあるはずよ。」
法律上、親の介護をしたことに対する特別の寄与(寄与分)が認められるハードルは非常に高く、「通常の扶養の範囲内」とみなされることが多いため、長女の主張が法的ルールだけで認められることは容易ではありません。
結果として、「介護の苦労を評価してもらえなかった」という長女の不満と、「権利を主張しているだけ」という次女の認識の違いがぶつかり合い、感情的な泥沼の争いに発展してしまいます。
「生前にたくさん援助してもらった」は相続で問題になる?
介護とは逆に、「生前のお金のお世話」についてもよく揉め事の原因になります。民法には特別受益という概念があります。
例えば、長男は私立大学への進学費用や住宅購入時の頭金として親から1,000万円の資金援助を受けていたのに対し、次男は高卒で働き始め、親からの援助を一切受けていなかったとします。
親が亡くなった際、残された預貯金が1,000万円あった場合、次男としては次のように主張したくなります。
・ 次男の主張: 「お兄ちゃんは生前に住宅資金で1,000万円も買ってもらっていたんだから、残った1,000万円は全部僕がもらうべきだ(特別受益の持ち戻し主張)。」
・ 長男の主張: 「あれは昔のお祝いでもらったものだ。遺産整理とは関係ないだろ?今ある1,000万円は500万円ずつ分けるのが普通だ。」
生前の贈与がいつ、いくら行われたのかの証拠がないことも多く、「言った・言わない」「もらってない・もらった」の水掛け論になり、過去の嫉妬や不満が一気に爆発することになります。
遺言書がないと、相続人全員の話し合いが必要になる
亡くなった方が遺言書を残していなかった場合、残された財産をどのように分けるかは、相続人全員による話し合い(これを遺産分割協議と呼びます)で決めなければなりません。
遺産分割協議には、法律上の厳格なルールがあります。
遺産分割協議の大原則
「相続人全員」の合意が必要である(1人でも反対・拒否すれば成立しない)。
たとえ相続人が5人いて、4人が納得していても、たった1人が「納得いかない」「印鑑は押さない」と言い張れば、不動産の名義変更も、銀行口座の解約・引き出しも一切できなくなります。
また、相続人の中に以下のような方がいる場合、遺産分割協議はさらに難航します。
・ 疎遠になっている親族がいる どこに住んでいるか分からない、連絡が取れない
・ 認知症を患っている相続人がいる 成年後見人の選任手続きが必要になる
・ 前妻・前夫との間に子供がいる 面識がない者同士で交渉しなければならない
遺言書がないということは、「残された家族全員に、ハードルの高い交渉作業を丸投げする」ことと同じなのです。
「親はまだ元気だから大丈夫」が一番危ない
生前対策のご相談をお受けする中で、子世代からよく聞くのが、親に遺言書や相続の話をすると、「縁起でもない」「死ぬのを待っているみたいだ」と怒られるというお悩みです。
しかし、「親がまだ元気だから」と対策を先送りにしている間に、突然その時が訪れてしまうケースが後を絶ちません。特に近年急速に増えているのが、「認知症による意思能力の低下」です。
認知症が進行し、判断能力が低下してしまうと、法的におめでたいことや大切な契約行為ができなくなります。つまり、以下のような対策が一切できなくなってしまいます。
・ 遺言書を書く(公証役場でも作成を断られます)
・ 家族信託契約を結ぶ
・ 任意後見契約を結ぶ
・ 生前贈与をする
・ 実家などの不動産を売却・処分する
「まだ元気だから大丈夫」と思っている時期こそが、実は「対策を打つことができる唯一のタイミング」なのです。倒れてから、あるいは認知症になってからでは、法律上手遅れになってしまうということを強く認識しておく必要があります。
相続トラブルを防ぐために、親が元気なうちにやっておきたい5つのこと
では、大切な家族が将来争わないために、親御さんが元気なうちにやっておくべき具体的な対策を5つご紹介します。
まず、どこにどんな財産がどれくらいあるのかを一覧(財産目録)にまとめましょう。預貯金口座、不動産、有価証券、生命保険、さらには借入金やローンなどの負の財産も含めます。家族が財産の全体像を把握できるようにしておくことが基本です。
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お正月や法事など、家族が集まる機会に「将来実家をどうするか」「親が倒れたら誰が介護を中心に見るか」といった方針をオープンに話し合っておくことが大切です。エンディングノートなどを活用して、親の意向を伝えておくのも有効です。
争いを防ぐ最も強力なツールが「遺言書」です。特に、公証役場で作成する「公正証書遺言」をお勧めします。自筆の遺言書は書き方の不備で無効になったり、紛失・改ざんのスクがあったりしますが、公正証書であれば法的確実性が保証されます。
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万が一、親が認知症になった場合に備え、実家の管理や預貯金の引き出しを信頼できる子に託す「家族信託」や「任意後見制度」の活用を検討しましょう。認知症による資産凍結を防ぐことができます。
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自宅不動産がいくらくらいの価値があるのか(固定資産税評価額や路線価、実勢価格など)を事前に把握し、不動産を継ぐ人と、継がない人への配慮(生命保険金の活用など)を考えておきます。
遺言書があれば、すべての相続トラブルを防げるのか?
「遺言書さえ書いておけば100%安心」と思われるかもしれませんが、実は注意すべきポイントがあります。それが「遺留分」への配慮です。
遺留分とは、一定の法定相続人(配偶者・子ども・親)に法律上最低限保障されている遺産の受取権利のことです。
例えば、遺言書に「すべての財産を長男に譲る」と書いてあったとしても、次男には法律上、最低限の取り分(遺留分)を請求する権利(遺留分侵害額請求権)があります。
もし遺留分を無視した偏った内容の遺言書を残してしまうと、親の死後に次男が長男に対して裁判を起こし、結局金銭トラブルに発展してしまうことになります。
従って、遺言書を作成する際は、単に自分の希望を書くだけでなく、「各相続人の遺留分を侵害していないか」「なぜこのような分け方にしたのかという想い(付言事項)」をしっかり記載しておくことが、本当の意味でのトラブル予防につながります。
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相続トラブルは「お金」よりも「感情」が原因になることも
行政書士としてお客様の話を聞くにつれ、痛感することがあります。それは、相続トラブルの本当の原因は、金額の多寡ではなく「感情のこじれ」であるということです。
・ 「子供の頃からお兄ちゃんばかり可愛がられていた」
・ 「私の結婚のときは何も援助してくれなかったのに、弟には甘かった」
・ 「法事のときに義理の姉さんから嫌味を言われた」
このように、長年蓄積された小さな不満や嫉妬、感情のすれ違いが、親の死という出来事をきっかけに「相続権」という正当な主張の形をとって一気に破裂するケースが非常に多いのです。
だからこそ、生前対策で最も大切なのは「お金をどう分けるか」という計算だけではありません。「親がどんな思いでこの財産を残し、子供たちに今後どう仲良く生きていってほしいのか」という「心」を伝えることが重要なのです。
遺言書の末尾に書く「付言事項(感謝の言葉や、財産分けの理由)」一つで、子供たちの納得感がガラリと変わります。
行政書士がお手伝い出来ること
相続の手続きや生前対策は、専門的な法律知識が必要となるため、ご家族だけで進めようとすると途中で行き詰まったり、思わぬ落とし穴にはまったりすることがあります。
また、先述の通り、生前対策としてご両親に遺言書や相続の話をすると、「縁起でもない」「死ぬのを待っているみたいだ」と怒られるというケースも行政書士のような第三者から言われると納得していただけることも多いです。
私たち行政書士は、「街の身近な専門家」として、相続トラブルを未然に防ぐ「予防法務」のスペシャリストです。具体的には、以下のようなサポートを行っております。
① 相続人調査・財産調査
戸籍謄本を全国から取り寄せ、正確な相続人を確定させます。また、不動産や預貯金などの財産を調査し、正確な「財産目録」を作成します。
② 公正証書遺言の作成支援
お客様のご希望やご家族の状況を丁寧にお伺いし、将来トラブルにならない文案をご提案します。公証役場との事前打合せや、当日の証人立ち会いまでトータルでサポートいたします。
③ 遺産分割協議書の作成
話し合いがまとまった後、不動産の名義変更や銀行口座の解約手続きに必要な「遺産分割協議書」を正確に作成します。
④ 家族信託・生前対策のご相談
認知症対策としての家族信託の設計や、エンディングノートの書き方アドバイスなど、ご家庭の事情に合わせた最適な生前対策プランをご提案します。
「まだ何から始めていいか分からない」「うちの家族のケースだとどうなる?」といった段階でも構いません。札幌市および近郊にお住まいの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
まとめ ~ うちは普通の家庭だからこそ 今から相続の準備を
最後に、今回のポイントを振り返ります。
- 相続トラブルの8割は、遺産5,000万円以下の「普通の家庭」で起きている
- 「持ち家しかない」「介護の不公平感がある」家庭ほどもめやすい
- 親が「元気なうち」しか、有効な生前対策(遺言・信託等)は打てない
- お金の計算だけでなく、「感謝や想い(付言事項)」を伝えることが予防のカギ
「争族(そうぞく)」という言葉があるように、対策を怠ってしまうと、これまで仲の良かった家族が、親の死を境に絶縁してしまうという悲しい結果になりかねません。
「うちは財産が少ないから関係ない」ではなく、「うちは普通の家庭だからこそ、大切な家族を守るために今から準備をしておく」という意識が大切です。
相続対策に「早すぎる」ということはありません。思い立った今が、将来の家族の笑顔を守る第一歩です。ご不安なことや気になることがございましたら、いつでも専門家にご相談ください。
■ 札幌での相続・遺言その他終活のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成及び終活に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
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