争族(遺産相続の争い)の事例と対策について 札幌の行政書士やっくんが解説

本記事は、近年増加している争族(遺産相続の争い)についての事例及び皆様が行うべき対策について、わかりやすく解説します。

遺産相続が始まった途端、仲の良かった兄弟姉妹が一切口をきかなくなる。いわゆる「争族」は、誰の家庭にも起こり得ます。

長男の独占、不動産評価、預貯金の使い込み、介護の寄与分、遺言の有無や無効主張、再婚・養子縁組など、起こりうる論点を網羅し、解決までの流れ(協議→調停→訴訟)や、専門家に相談すべきタイミングについても説明します。

「自分の家は大丈夫」と思っている人ほど、対岸の火事とは思わず、まずはこの記事をお読み頂き、意外と身近な出来事であるということを知って頂き、今後のためにお役立ててください。

目次

争族(遺産相続の争い)とは?

1.争続の定義

「争族(そうぞく)」という言葉は、本来、被相続人の財産上の地位や権利・義務を引き継ぐための法的手続きである「相続」が、親族間の激しい「争い」へと変質する現象を指す造語です。この用語は、単なる家族けんかの範疇を超え、社会学的なキーワードとして定着しています。   

かつての日本社会、特に戦前は、「家督相続」という制度が存在し、長男が家の財産と祭祀を

一手に引き継ぐことが法的にも社会的規範としても確立されていました。この時代において、次男以下の兄弟や女子は家を出るか、長男の扶養下に入ることが前提とされており、相続を巡る争いの余地は制度的に限定されていました。しかし、戦後の民法改正により、戦前の家制度は解体され、配偶者および子全員に平等な相続権(法定相続分)が認められるようになりました。この法制度と、人々の意識の中に根強く残る「家を守る」という伝統的価値観とのギャップが、「争族」の根本的な発生源であると考えられます。

さらに、「争族」は、金銭的な利害対立だけではなく、長年にわたる家族間の感情的な積年の恨み、介護負担の不公平感、親の愛情に対する飢餓感など、金銭に換算できない心理的な葛藤が複雑に絡み合っています。その中で、親という「重石」が外れた瞬間に、兄弟姉妹間の潜在的な対立が一気に顕在化し、「相続」が「争族」になってしまうのです。

2.統計データに見る紛争の実態

「遺産相続で揉めるのは、莫大な資産を持つ資産家だけである」というイメージは、統計データによって完全に否定されます。最高裁判所の司法統計によれば、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の数は年々増えており、2024年(令和6年)には総数が1万7,000件に達しています。

データはこちら   司法統計年報

特筆すべきは、遺産価額の構成です。司法統計の分析によると、調停・審判が成立した遺産分割事件のうち、遺産総額が5,000万円以下のケースが全体の約8割近くを占めています。さらに驚くべきことに、そのうちの約3割は遺産総額が1,000万円以下の案件だということです。

遺産総額別比率

遺産総額階級紛争全体に
占める割合(概算)
特徴と背景
1,000万円以下約33%わずかな現金の取り分が生活費に直結するため、譲歩の
余地がなく泥沼化しやすい。
5,000万円以下約43%主な遺産が自宅不動産のみというケースが多く、分割方法
(誰が住むか、売るか)で対立する。
5,000万円超約24%資産が多岐にわたるため、税理士や弁護士が介入し、
合理的な解決が図られるケースが多い。
やっくん

血みどろの相続争いって、大金持ちに起こることで、我々庶民には関係ないっていうのは大間違いですね。

表のとおり、資産が少ない家庭ほど紛争になるケースが多いことがわかります。これは金額が少ないほど、遺産分割の選択肢が限られるためと想定されます。例えば、遺産が自宅不動産(評価額2,000万円)と預貯金200万円のみで、相続人が子供2人の場合、物理的に半分に分けることは不可能です。一方が家を継げば、他方に支払う代償金(900万円相当)が必要となりますが、その資金を用意できないために、家を売却せざるを得なくなります。このように、分割原資の不足が、少額資産における紛争の主要因となっていると思われます。

 3.紛争を助長する要因

現代において争族が増加している背景には、家族形態の変化や個人主義の浸透が大きく影響していると考えられます。

① 核家族化とコミュニケーションの断絶  かつてのような多世代同居が減少し、子供たちが独立して別々の場所で生活することが一般的となりました。これにより、親の資産状況や生活実態、あるいは兄弟姉妹それぞれの経済状況を互いに把握していないケースがほとんどです。これら情報がない状態で相続が発生すると、「兄は親の金を使い込んでいたのではないか」「弟は生前に多額の援助を受けていたはずだ」といった疑心暗鬼が生じやすくなります。コミュニケーション不足は、客観的な事実確認を妨げ、感情的な対立を増幅させる最大の要因になります。

権利意識と個人主義の浸透  現代社会においては、兄弟姉妹間での「平等」が当然視されるようになりました。一昔前であれば、「長男が跡を継ぐのだから仕方がない」と諦めていた次男や長女も、現在では自らの正当な権利として法定相続分を主張できます。特に、自身の生活が経済的に不安定な場合や、住宅ローンの返済、子供の教育費などに追われている場合遺産は「予期せぬ臨時収入」として強く期待されます。

資産構成の偏り(不動産) 日本の個人資産は、土地・建物などの不動産が大きな割合を占めています。不動産は「分けにくい」財産であり、その評価額も一義的ではありません(固定資産税評価額、路線価、実勢価格など複数の指標が存在する)。この評価額の認識のズレが、相続人間の公平感を損なう火種となる可能性があります。売却して現金を分けることができれば公平ですが、先祖代々の土地や、配偶者が居住している実家などは容易に売却できず、問題解決を困難にしています。

7つの具体的な事例について

事例1 【不動産「共有」の罠】

【状況】  被相続人である父が死亡。相続人は長男、次男、長女の3名。遺産は父が居住していた実家(土地・建物、評価額約3,000万円)のみであり、預貯金は葬儀費用と未払い医療費の精算でほぼ消滅した。長男は「思い出の詰まった実家を売るのは忍びない、将来誰かが住むかもしれない」と主張し、次男と長女は「今は誰も住んでいないのだから売却して現金を分けたい」と主張した。議論は平行線をたどり、とりあえず法定相続分(各3分の1)の割合で「共有名義」として相続登記を行うことで一時的な決着をみた。

【紛争の始まり】  数年後、次男が事業に失敗し、まとまった資金が必要となった。次男は自身の「共有持分」を第三者の不動産ブローカーに売却してしまった。共有持分は他の共有者の同意なく売却が可能(民法206条、249条)であるためだ。その結果、実家の権利関係に全くの他人が介入することとなり、ブローカーから長男・長女に対して「共有物分割請求訴訟」が提起された。最終的に、裁判所による競売が命じられ、実家は市場価格よりもはるかに低い価格で売却され、手元に残る現金はわずかなものとなった。

【分析と対策】 不動産の「共有」は、問題の先送りに過ぎず、将来的な紛争リスクを大きくしてしまうケースが多いです。共有者全員の同意がなければ、不動産全ての売却も、大規模な修繕も、賃貸借契約の締結も円滑に行えないからです。また、共有者の一人が死亡してさらに相続が発生すると、権利者が更に増えてしまいます。

本件において取るべきであった適切な方法は以下の2つと考えられます。

換価分割(かんかぶんかつ) 不動産を売却し、諸経費を差し引いた残金を相続人で分配する方法。不動産の評価額についての争いを回避でき、公平性が高いです。   

代償分割(だいしょうぶんかつ) 上記の場合ですと長男が不動産を取得し、他の相続人(次男・長女)に対して、それぞれの相続分に見合う現金(代償金)を支払う方法。ただし、長男に十分な資力があることが前提となります。

事例2 【使途不明金と使い込みの疑惑】

【状況】  母が死亡。相続人は、母と同居して介護を行っていた長女と、遠方に住む長男の

2名。遺産分割協議の席上で、長男が母の預金通帳の開示を求めたところ、母が認知症の診断を受けて施設に入所した後も、ATMから頻繁に数十万円単位の現金が引き出されていることが判明した。引き出し総額は1,000万円に上る。

【紛争の展開】  長男は「長女が母の判断能力低下に乗じて預金を横領した」と主張し、引き出された1,000万円を遺産総額に加算した上で分割することを求めた。対して長女は「すべて母のために使った。施設費用、医療費、母の好物の購入費、交通費などで消えた」と反論したが、レシートや領収書はほとんど保管されておらず、使途を証明することができなかった。

【分析と対策】  同居親族による「使い込み」の疑惑は、感情的な対立が最も激化する傾向があります。預貯金は相続開始と同時に当然に分割されるものではなく、遺産分割の対象となるとされていますが、生前に引き出された現金については、それが「特別受益」にあたるか、あるいは「不法行為」にあたるかが争点となります。

相続人は、金融機関に対して被相続人の過去の取引履歴の開示を単独で請求する権利を有しています。これにより不審な出金は明らかになりますが、「誰が」「何のために」引き出したのかを立証するのは困難です。

本件のような状況においてとるべき対策としては、親の財産管理は、専用のノートを作り、出入金の記録を詳細に残すこと、そして領収書を整理して保管することが不可欠です。成年後見制度を利用していれば、家庭裁判所の監督下で財産管理が行われるため、こうした疑惑は生じにくくなります。   

事例3 【長男が全取りという遺言及びその遺留分】 

【状況】  父が死亡。相続人は長男、次男、三男の3名。父は生前、家業を継ぐ長男を溺愛しており、「全財産(実家の土地建物および預金全額)を長男に相続させる」という内容の自筆証書遺言を残していた。

【紛争の展開】 遺言書の存在により、原則として長男が全てを取得することになる。しかし、全く財産をもらえなかった次男と三男は、生活の安定や公平性を求めて反発。弁護士を雇い、長男に対して「遺留分侵害額請求」を行った。

遺留分の詳細についてはこちら

【分析・対策】  民法は、遺言の自由を認める一方で、残された家族の生活保障の観点から、最低限承継できる遺産の割合として「遺留分(いりゅうぶん)」を定めています。兄弟姉妹以外の相続人(子、直系尊属、配偶者)には遺留分があります。本件の場合、次男と三男の遺留分は、法定相続分(1/3)の半分、つまり全財産の1/6ずつとなります。 これにより、長男は不動産を単独所有できる代わりに、次男・三男に対して、併せて遺産総額の1/3の「現金」を支払わなければならなくなりました。現金が手元にない場合、長男は支払不能に陥り、最悪の場合は不動産を売却せざるを得なくなります。

対策としては、遺言を残す被相続人は遺言を作成する段階で、遺留分に配慮した配分にするか、生命保険を活用して長男を受取人に指定し、遺留分支払いのための原資(代償金)を確保しておくことが重要です。   

事例4 【介護の寄与分を巡る泥沼】

【状況】  高齢の母の介護を、長女が仕事を辞めて10年間にわたり献身的に行ってきた。他の兄弟(長男、次男)は遠方に住み、盆正月に顔を出す程度で、介護の負担は一切負わなかった。母の死後、遺産分割協議において、長男と次男は法定相続分通りの3等分を主張した。

【紛争の展開】  長女は「私は自分の人生を犠牲にして母を支えた。ヘルパーを雇えば月数十万円かかるところを私が負担したのだから、その分(寄与分)を多くもらう権利がある」と主張。しかし、兄弟たちは「親子なのだから介護をするのは当たり前(扶養義務の範囲内)」と反論し、話し合いは決裂した。

【分析・対策】  「寄与分」(民法904条の2)は、被相続人の財産の維持または増加に「特別の寄与」をした場合に認められます。しかし、親族間の介護で寄与分が認められるためにはハードルは極めて高く、「片手間の介護」ではなく、「つきっきりで、かつ長期間」であり、さらに「ヘルパー費用等の支出を免れた」という具体的な経済的効果の立証が求められます。単なる家事援助や通院の付き添い程度では認められないのが通例です。

2019年の法改正により、相続人以外の親族(例えば長男の妻)が介護を行った場合に、相続人に対して金銭請求ができる「特別の寄与」の制度が創設されましたが、本件の長女は相続人であるため、従来の寄与分の枠組みで争うことになります。

このような報われない介護の不満を解消する対策は、被相続人(母)が生前に「介護をしてくれた長女には〇〇万円を遺贈する」といった遺言書を残すことが最も効果的です。長男、次男にあれこれ言われないためには、公正証書遺言が効果的です。

公正証書遺言についてはこちら

事例5 【連絡の取れない相続人】

【状況】  父が急死し、相続手続きのために戸籍謄本を収集したところ、父には、認知した子が一人いることが初めて判明した。現在の妻と子供たちはその存在を全く知らされていなかった。

【紛争の展開】  遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が必要不可欠である。異母兄弟を除外して行った協議は無効となる。しかし、異母兄弟の連絡先は不明であり、そもそも面識すらない。手続きは完全にストップし、銀行口座の解約も不動産の名義変更もできない状態に陥った。

【分析・対策】  このような場合、戸籍の附票を取得して現在の住所地を調査し、手紙を送って接触を試みる必要があります。相手方からすれば、突然「あなたの父が亡くなった」という連絡を受けることになり、感情的な反発や、過大な金銭要求を招くリスクがあります。 住所調査でも行方が分からない場合は、「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立てるか、要件を満たす場合は失踪宣告の申し立てを行う必要があります。通常これらの手続きには数ヶ月から1年以上の時間を要し、相続人の負担は計り知れません。

この対策として、被相続人(父)は必ずエンディングノートを作成し、その中に認知した子がいることや、その事を隠していたことについてのお詫びの文書が記しておけば、残された家族の心は随分救われます。また、相続に関して、家族が最小限の負担で済ませるためには、遺産分割協議を経ずに済むような遺言書を残しておく必要があります。こうすれば、面識のない人との接触を最小限に抑えることが出来ます。極論を言えば、認知した子供には一切の相続はしないと記せば、遺留分の対応のみとなります。

エンディングノートについてはこちら

   事例6 【包括遺贈と債務の承継】

【状況】  身寄りのない叔母が「姪のB子に全財産を包括して遺贈する」という自筆証書遺言を残した。B子は感謝してこれを受けた。

【紛争の展開】  数ヶ月後、金融業者から多額の借金返済請求が届いた。叔母は連帯保証人になっていたのだ。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を承継するため、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(債務)も引き継ぐことになる。B子は慌てて相続放棄をしようとしたが、既に叔母の預金の一部を使ってしまっており(単純承認とみなされる行為)、放棄が認められない状況に追い込まれた。

【分析・対策】  特定遺贈(「〇〇の土地を与える」)と異なり、包括遺贈(「全財産の〇割を与える」)は、相続人と同様に債務も承継する強力な効果を持ちます。受遺者は、自分が負債を背負うリスクがあることを認識し、相続開始後速やかに財産調査を行う必要があります。また、被相続人も、包括遺贈をする場合は、財産目録を整備し、負債の状況を明らかにしておく道義的責任があります。

7.事例7 【半血兄弟姉妹と事実婚パートナーの悲哀】

【状況】  独身の被相続人が死亡。両親は既に他界しており、兄弟姉妹が相続人となった。兄弟の中には、両親を同じくする全血兄弟と、父の前妻の子である半血兄弟(異母兄弟)がいた。また、被相続人には長年連れ添った内縁の妻がいた。

【紛争の展開】 内縁の妻には相続権が一切ないため、自宅から退去を迫られる事態となった。一方、兄弟姉妹間では、半血兄弟の相続分が全血兄弟の「2分の1」であるという民法900条の4ただし書きの規定を巡り、半血兄弟側が「差別であり違憲ではないか」と不満を漏らした。   

【分析・対策】 非嫡出子の相続分差別は平成25年の最高裁決定により違憲とされ法改正されましたが、半血兄弟姉妹の格差規定は依然として存続しています。しかし、当事者の感情的な納得を得るのは難しいものです。 また、事実婚(内縁)のパートナーは、法律上は他人であり、相続権も遺留分もありません。特別縁故者としての分与制度はあるが、これは「相続人が一人もいない」場合に限られます。

内縁のパートナーを守るためには、被相続人は必ず遺言書を残すことにつきます。特に上記の例の場合、その他相続人は兄弟及び半血兄弟なので、遺言書の記載で全ての相続を内縁のパートナーにした場合は残りの相続人には遺留分がありませんので、全てが内縁のパートナーとなります。

以上7つの事例を説明しましたが、争族になる事例は他にも沢山あります。ただこの7つの事例だけみても、意外と身近におこりそうな話ではないでしょうか。従い、皆様のご両親、皆様自身、このような揉め事が起こる前に、事前に対策しておくことが重要です。

争族を回避する生前対策

「争族」を未然に防ぐための対策は、被相続人に判断能力があるうちに実行しなければなりません。認知症発症後は、法的行為が制限され、対策の選択肢が激減してしまいます。

1.遺言書の作成 最強の防衛策とその種類

遺言書は、法定相続分に優先して遺産の処分方法を指定できる強力なツールです。主に以下の2種類が利用されますがリスクの少ない公正証書遺言をお勧めします。配偶者や子供たちに残した折角の遺言書が全く意味をなさなかったでは、故人も浮かばれません。

特 徴自筆証書遺言公正証書遺言
作成方法全文を自筆し、日付・氏名を書き押印
する。
公証役場で、証人2名の前で遺言内容を
口授し、公証人が作成。
費 用紙とペン代のみ(法務局保管制度利用
時は数千円)。
遺産額に応じた手数料(数万〜十数万円)。
保管場所自宅(紛失・発見されないリスクあり)
または法務局。
公証役場
検認手続き必要(法務局保管制度利用時は不要)。不要(相続開始後すぐに手続き可能)。
無効リスク形式不備で無効になりやすい。プロが作成するため極めて低い。
推奨度手軽だがリスクあり。法務局保管制度の
利用を推奨。
最も推奨される。証拠力・確実性が高い。

【自筆証書遺言書保管制度とは】 2020年より開始された制度です。従来、自筆証書遺言は紛失や改ざんのリスクが高く、これを回避するため、法務局で原本を保管する制度が開始されました。これにより、自筆証書遺言書のリスクが解消され、家庭裁判所での検認手続きも不要となりました。しかし、内容の法的妥当性まで法務局が保証するわけではない点には注意が必要です。   

公正証書遺言についてはこちら

2.家族信託(民事信託)と成年後見制度について

近年、資産凍結対策として「家族信託」が注目されています。従来の成年後見制度との違いを理解し、適切に組み合わせることが重要です。

項 目家族信託成年後見制度(法定後見)
目的資産の管理・運用・承継の柔軟な設計。本人の財産保護と身上監護。
開始時期契約締結時(判断能力があるうち)。判断能力が低下した後。
財産管理権信託契約で定めた特定の財産のみ。
積極運用も可能。
全財産。原則として元本保持が求め
られ、投資や生前贈与は不可。
身上監護権なし(施設契約や入院手続きはでき
ない)。
あり(包括的な代理権を持つ)。
二次相続指定可能(受益者連続型信託)。不可(本人が死亡すれば終了)。
費用初期費用が高額(コンサル料、登記費
用等)。
専門職後見人の場合、月額報酬が死ぬ
まで発生。

それぞれの特徴  不動産経営をしている場合や、特定の目的(孫の教育資金等)のために資産を使いたい場合は、家族信託が圧倒的に有利です。一方で、身寄りがなく、自身の生活全般(医療・介護契約)のサポートが必要な場合は、成年後見制度(または任意後見契約)が適しています。また両者を併用する「ハイブリッド型」の対策も増えています。

3.生前贈与と税務戦略

相続税対策としての生前贈与は、将来の遺産を減らすことで争いの種を小さくする効果もあります。

① 暦年課税贈与:年間110万円の基礎控除内での贈与。地道だが確実です。

② 相続時精算課税制度:2,500万円まで非課税で贈与できますが、相続時に持ち戻して相続税の計算をする制度です。2024年改正により、基礎控除(年110万円)が新設され、使い勝手が向上しました。

注意点 定期贈与とみなされないよう、贈与の目的(教育資金、住宅資金、生活支援など)を明確にし可能であれば都度契約書を作成しましょう。また、「特別受益」の争いを避けるため、持戻し免除の意思表示を忘れないことが重要です。

4.生命保険の活用

生命保険は「争族対策の切り札」とも呼ばれます。

① 遺産分割対象外:受取人固有の権利であり、原則として遺産分割協議を経ずに受け取れます。

② 代償金の原資:不動産を継ぐ子が保険金を受け取り、それを他の兄弟への代償金支払いに充てることが出来ます。

③ 納税資金:銀行口座凍結時でも、保険金は早期に現金化できるため、相続税納付や葬儀費用に役立ちます。

非課税枠:「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があり、節税効果が高いです。

相続の実務  争族とならないための公正・迅速な手続

いざ相続が発生した場合、感情的な対立を防ぐためには、手続きの透明性と公正性が何より重要となります。

1.手続きの期限

期 限手続き内容注意点・リスク
7日以内死亡届の提出葬儀・火葬を行うために必須。
3ヶ月以内相続放棄・限定承認借金超過の場合、家庭裁判所に申述しないと単純承認
(借金も相続)となる。
4ヶ月以内準確定申告故人の所得税申告。
10ヶ月以内相続税の申告・納付期限を過ぎると、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の
特例が使えなくなる可能性がある。延滞税も発生。
1年以内遺留分侵害額請求権利を行使しないと時効により消滅する。

※ 亡くなった後の手続き(詳細)は →  こちら  

 2.財産調査の徹底

争いを防ぐ第一歩は、遺産の全容を正確に開示することにあります。

① 預貯金:金融機関名だけでなく、支店名、口座番号、残高証明書(既経過利息含む)を取得します。不明金がある場合は取引履歴を取り寄せましょう。   

② 不動産:固定資産税納税通知書に加え、役所で「名寄帳(なよせちょう)」を取得し、私道持分などの漏れがないか確認しましょう。

③ 負債:信用情報機関(CIC, JICC, KSC)に開示請求を行い、隠れた借金がないか調査しましょう。

財産調査は行政書士に依頼しよう 行政書士は、職務上請求書を用いて戸籍等の収集を行う権限があり、また委任状に基づきこれらの財産調査を代行することができます。信用情報機関(CIC, JICC, KSC)に開示請求は自身でも出来ますが、時間や労力がかかりお勧め出来ません。また第三者である専門家が調査した財産目録は、親族が作成したものよりも信用性が高く、不信感を払拭する効果があります。   

3.遺産分割協議書の作成

相続人全員で合意した内容を文書化します。以下の事項を明記しなくてはいけません。

① 誰がどの財産を取得するか。

② 代償金がある場合、その金額と支払期限

③ 後から新たな財産が見つかった場合の取り扱い。

④ 実印を押印し、印鑑証明書を添付することで法的効力を担保します。

争族になりそうなとき  専門家へのアプローチ

相続手続きに関わる専門家は多岐にわたりますが、それぞれの役割と限界(業際)を理解し、適切なタイミングでバトンタッチすることが重要です。

1.行政書士と弁護士の役割分担

行政書士は「紛争性のない」案件における書類作成のプロフェッショナルです。しかしながら、紛争になりそうな時は弁護士へのバトンタッチが必要となります。(通常は、行政書士が提携の弁護士へ仕事を引き継いでくれます。)

① 行政書士の領域:遺言書作成支援、相続人・財産調査、遺産分割協議書作成(合意済みの場合)、銀行・不動産手続き代行。

② 弁護士の独占領域:意見が対立している当事者の一方の代理人として交渉すること、調停・裁判の代理。

2.弁護士に依頼すべき「危険信号」

以下の状況が見られたら、直ちに弁護士に相談しましょう。

話し合いが成立しない:相手が感情的になり、建設的な議論ができない。

無理な要求:法定相続分を大幅に超える要求や、根拠のない特別受益の主張が繰り返される。

財産隠しの疑い:開示された財産が明らかに少ないが、証拠がつかめない。

調停・審判への移行:当事者間の協議が決裂し、裁判所の手続きに移行する場合。

3.「負けるが勝ち」の合理性

弁護士を入れて徹底的に争うことが、常に最善の策とは限りません。特に遺産額が1,000万円以下の場合、弁護士費用(着手金・成功報酬)を支払うと、経済的な実入りがほとんどない、あるいはマイナスになる「費用倒れ」のリスクがあります。 また、裁判が長引けば、精神的なストレスは計り知れません。

場合によっては、相手の主張をある程度呑んででも、早期に解決し、関係を断つことが、その後の人生にとってプラスになることもあります。これを「負けるが勝ち」の戦略として、冷静に損得勘定を行う視点も必要です。

やっくんからのアドバイス

遺産相続は、被相続人にとっては人生の集大成であり、相続人にとっては故人との別れを受け入れ、新たな生活へ踏み出すための儀式でもあります。その大切なプロセスが、憎しみ合いの場とならないよう、法的な知識と専門家の知見を活用し、早期に対策を講じることが強く望まれます。

争族について解説しましたが、心配事がある方は迷わずご相談下さい。また、元気なうちに色々やっておきたいと思われた方もぜひご相談下さい。専門家への相談が争族を未然に防ぐ最も近道となる方策です。

(ただし60分まで)

目次