皆様、こんにちは。札幌市で遺言や相続などのサポートを行っております、札幌の行政書士やっくんです。
私は約40年間にわたり会社員として勤め上げた後、行政書士として独立いたしました。長年の企業での実務経験と、2級FPの資格・知識を活かし、皆様の暮らしやビジネスに役立つ情報を日々発信しております。
さて、昨今のニュースでも連日のように取り上げられていますが、新NISA制度のスタートや「貯蓄から投資へ」という国を挙げた後押しもあり、シニア世代の間で株式投資や投資信託の運用をされる方が急増しています。私自身も日々の経済動向を注視しながら株式の運用を行っておりますが、日頃ご相談者様とお話ししていると、ある共通した「不安の声」を耳にすることが多くなりました。
それは、「自分の持っている株やNISA口座は、自分が亡くなった後、家族にどう引き継がれるのだろうか?」「税金で大きく損をしてしまうのではないか?」という切実なお悩みです。
現金や不動産の相続対策については、書籍やインターネットでも多くの情報があふれています。しかし、実は「株式の相続」には特有の複雑さと、事前に知っておくべき税務上の厳格なルールが存在します。特に近年、スマートフォンの普及によってデジタル化が急速に進み、高齢者の方でもネット証券を利用するケースが当たり前となりました。それに伴い、残されたご家族が「どこの証券会社に口座があるのかすら分からない」という、いわゆる『デジタル遺品』の問題も深刻化しています。
今回は、NISAをはじめとする株式運用を行っている方、そしてそのご家族に向けて、「株の相続における上手な節税方法」から、「ネット証券の具体的な相続手続きの流れ」まで、行政書士およびFPの視点から、徹底的に解説いたします。
なぜ今、株の相続対策が急務なのか?
人生100年時代と言われる現代、老後資金の形成や資産寿命を少しでも延ばすために、退職金などを元手に株式投資を始める高齢者が増えています。中でもNISA(少額投資非課税制度)は、得られた利益(譲渡益)や配当金が非課税になるという非常に大きなメリットがあるため、多くの方が活用しています。
運用が上手くいき、資産が増えていくことは大変喜ばしいことです。しかし、資産が増えれば増えるほど、将来発生する「相続」の際に、ご家族にのしかかる「相続税」の負担も比例して大きくなるという現実から目を背けることはできません。
ここで、非常に多くの方が誤解されている重要な事実をお伝えします。 それは、NISA口座の非課税メリットは、本人が生きている間だけのものであり、相続人には引き継がれないということです。
「親がNISA口座で運用していた株だから、自分が相続してもそのまま非課税で運用を続けられるだろう」と思っていらっしゃる方が少なくありませんが、これは間違いです。 口座名義人であるご本人がお亡くなりになった時点で、そのNISA口座は廃止される決まりになっています。そして、NISA口座内で保有していた株式や投資信託は、すべて相続人の「課税口座(一般口座または特定口座)」へと払い出されることになります。
つまり、相続した後にその株が値上がりして売却した場合や、その後に受け取る配当金には、通常通り約20%(復興特別所得税を含まない)の税金がかかってしまうのです。
さらに決定的なポイントとしてNISA口座にある株式であっても、相続税の計算対象(相続財産)にはしっかりと含まれるという事実があります。「NISAだから税金は一切かからない」というのは、あくまでご本人の生前の所得税・住民税の話であり、亡くなった後の相続税は全く別の話となります。現金や預貯金、不動産と合算して相続税が計算されますので、株式特有の事前の対策が絶対に必要となるのです。
まずは基本!株の相続税評価額はどう決まるのか?
節税対策を練る前に、まずはご自身が保有している株式が、相続時に「いくら」として税務署に評価されるのか、そのルールを知っておく必要があります。現金であれば「100万円は
100万円」ですが、株価は日々変動するため、特別な計算方法が用いられます。
上場株式の相続税評価額は、亡くなった日のピンポイントの株価だけで計算されるわけではありません。もし亡くなった日に、たまたま世界的な大暴落や歴史的な急騰があった場合、残されたご家族にとって著しく不利になってしまう可能性があるためです。
そのため、税法では以下の4つの価格のうち、最も低い価格を評価額として採用できるという、納税者に配慮した特例が用意されています。
① 被相続人(亡くなった方)が死亡した日の最終価格(終値)
※もし死亡日が土日祝日などで取引所の休業日だった場合は、最も近い日の終値が採用され
ます。
② 死亡した「その月」の毎日の最終価格の平均額
③ 死亡した月の「前月」の毎日の最終価格の平均額
④ 死亡した月の「前々月」の毎日の最終価格の平均額
例えば、死亡日が10月15日だったとします。 10月15日の終値が1,500円 、10月の平均終値が1,450円 、9月の平均終値が1,400円 ・8月の平均終値が1,600円 この場合、最も低い9月の平均終値である1,400円を相続税の評価額として計算することができます。
NISAなどで投資信託を保有している方も多いでしょう。投資信託の場合は、亡くなった日の「基準価額」に口数を掛けた金額から、仮にその日に解約したとしたらかかるであろう「信託財産留保額(解約手数料のようなもの)」や、かかると見込まれる税金を差し引いた金額が評価額となります。上場株式のような「過去数ヶ月の平均額から選ぶ」という制度はありませんのでご注意ください。
このように、ご自身の資産が相続時に大体いくらと評価されるのかを把握することが、全ての節税対策の第一歩となります。
株の相続における上手な節税と事前対策5選
評価額の仕組みを理解したところで、ここからは本題である「上手な節税方法と生前対策」について、FPの視点を取り入れながら具体的に5つの手法を解説していきます。
最もオーソドックスでありながら効果的なのが、株式そのものを生前に子どもや孫へ贈与してしまう方法です。
贈与税には、「暦年贈与」と呼ばれる年間110万円までの基礎控除(非課税枠)があります。この枠の範囲内で、毎年少しずつ株式を贈与していけば、贈与税をかけることなく将来の相続財産を確実に減らしていくことができます。
・ 株の贈与における大きなメリット: 配当金移転効果
現金を贈与するのとは違い、株式を贈与すると、その後に発生する「配当金」を受け取る権利も、受贈者(もらった人=子どもや孫)に移ります。 もしご自身で株を持ち続けていれば、毎年入ってくる配当金によってご自身の現金資産がどんどん膨らみ、結果として将来の相続税が増えてしまいます。しかし、早めに株式を贈与しておくことで、配当金という「富の泉」ごと次世代へ移転でき、ご自身の相続財産の増加を防ぐことができるのです。また、将来株価が大きく値上がりした場合、その値上がり益も受贈者のものとなるため、非常に効果的な対策と言えます。
※ 注意点(名義株の罠) 子どもや孫の名前で証券口座を作り、そこに親が勝手に資金を入れて運用している、いわゆる「名義株(借名口座)」には十分注意が必要です。税務調査が入った際、実質的な管理者が親であるとみなされれば、名義が子どもであっても親の相続財産として課税されてしまいます。贈与を行う際は、必ず受贈者本人が管理する口座へ移管し、贈与契約書を作成するなどの証拠を残すことが鉄則です。
「年間110万円ずつなんて悠長なことは言っていられない」「株価が安いうちに、まとまった株数を一気に贈与してしまいたい」という方に向いているのが、「相続時精算課税制度」です。
これは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する場合に選択できる制度です。累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となります(2,500万円を超えた部分には一律20%の税金がかかります)。
「精算課税」という名前の通り、ここで非課税となった財産は、将来相続が発生した際に相続財産に足し戻されて「相続税」として精算されます。一見すると「結局税金を払うなら意味がないのでは?」と思われるかもしれません。 しかし、この制度の最大のポイントは、「相続時に足し戻される際の評価額は、贈与した時の株価で固定される」という点にあります。
つまり、現在の株価が割安であると判断した場合、この制度を使って一気に贈与しておけば、その後どれだけ株価が10倍20倍と大暴騰したとしても、相続税の計算上は「贈与した時の安い株価」で計算されるのです。将来の成長が見込める株式をお持ちの方には、非常に強力な節税ツールとなります。
※ 注意点 仮に贈与時(名義変更時)に2,500万円で相続時に1,000万円となってしまった場合はどうなるのでしょうか?結局上記のとおり、贈与した時に固定されますので、
2,500万円分の相続税が課税されてしまいます。
株式資産の割合が多く、このままでは多額の相続税がかかってしまうという方に、私が実務上最もおすすめすることの多い対策が「生命保険の活用」です。
相続税の計算において、死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という強力な非課税枠が設けられています。 例えば、法定相続人が奥様、長男、長女の3人だった場合、500万円 × 3人 = 1,500万円までの死亡保険金には、相続税が一切かかりません。
【対策の具体的手順】
① 保有している株式のうち、すでに十分な利益が出ているものや、今後の成長が見込み薄な銘柄を、元気なうちに売却して「現金化」します。
② その現金を使って、ご自身を被保険者とする「一時払いの終身保険」に加入します。
もし株式や現金としてそのまま持っていれば、1,500万円全額が相続税の対象となります。しかし、生命保険という形に「資産を組み換える」だけで、1,500万円をごっそりと相続財産から消し去り、無傷で家族に残すことができるのです。
先述の通り、NISAの非課税メリットは亡くなった瞬間に消滅します。したがって、シニア世代にとってNISAの運用は、「いつ、どのように売却して現金化するか」という出口戦略が極めて重要になります。
相続税を減らす究極の方法は、身も蓋もない言い方になりますが「生前にお金を使って財産を減らすこと」です。 運用益が大きく出ているNISAの非課税メリットを存分に活かし、ご自身の豊かな老後生活のため、趣味や旅行、ご自宅のリフォーム、あるいは高齢期の医療・介護費用の備えとして、少しずつ売却(利確)して現金化し、しっかりと「生きたお金」として使っていく。 また、お孫様の教育資金として「教育資金の一括贈与の非課税特例」などを活用して支援する。 このように、ご自身とご家族の幸せのために資産を還元していくことこそが、最も健全でトラブルのない相続対策だと言えるでしょう。
もし、全財産に対する株式や現金の割合が極端に高い場合、株式を売却した資金で、ご自宅の建て替えを行ったり、収益不動産を購入したりするという方法もあります。
不動産は、現金や株式に比べて相続税の評価額が低く算出される傾向があります。特にご自宅の敷地などについては「小規模宅地等の特例」という非常に強力な制度があり、一定の要件を満たす親族が相続する場合、土地の評価額を最大80%も減額することができます。 ただし、不動産は株式と違って「すぐに分割できない」「換金性が低い」というデメリットもあるため、ご家族の状況を見極めた上での慎重な判断が必要です。
デジタル化の罠!「ネット証券」の相続手続きの困難さ
ここまで節税の方法についてお話ししてきましたが、実は現代の相続において、税金以上に大きな壁となっている問題があります。それが、「ネット証券における手続きの困難さ」です。
昔のように、野村證券や大和証券といった実店舗のある証券会社を利用していれば、定期的に担当者が自宅を訪問してくれたり、分厚い取引報告書が郵送されてきたりするため、家族も容易に口座の存在に気付くことができました。
しかし現在、SBI証券や楽天証券といったネット証券を利用されるシニアの方が爆発的に増えています。ネット証券は手数料が安く便利な反面、原則として紙の郵便物は一切届きません。すべてのお取引はスマートフォンやパソコンの画面内で完結します。
これが相続発生時にどうなるか、想像してみてください。
ご本人が急に倒れられ、そのままお亡くなりになった場合。スマートフォンには強固な画面ロックや顔認証・指紋認証がかかっており、家族は中身を見ることができません。パソコンのパスワードも分かりません。 その結果、「数百万円、数千万円という資産がネット証券で運用されているのに、残された家族はその存在にすら一生気付かない」という、恐ろしい事態が実際に多発しているのです。これが「デジタル遺品」と呼ばれる問題です。
気付かずに放置してしまうと、必要な相続税の申告から漏れてしまい、後日税務署から多額のペナルティ(延滞税や加算税)を課せられるという悲劇を招きかねません。
ご家族のために知っておくべき「ネット証券の相続手続きの具体的な流れ」
では、万が一ネット証券の口座があることが分かった場合、残されたご家族はどのような手続きを踏まなければならないのでしょうか。実際の流れを、具体的に解説します。
まずは、どこの証券会社に口座があるのかを突き止めなければなりません。スマートフォンが開けない場合は、以下のような痕跡を探します。
・ 銀行の通帳記入を行い、証券会社への「入出金履歴」がないか確認する。
・ 通帳に「配当金」の入金履歴がないか確認する(配当金受領方式の確認)。
・ 確定申告書の控えを探し、特定口座年間取引報告書が添付されていないか確認する。
・ パソコンのメールソフトが見られる場合は、証券会社からの「取引成立メール」や「メルマガ」が届いていないか検索する。
証券会社が特定できたら、相続人からカスタマーセンターや相続専用ダイヤルへ電話連絡をします(ネット証券でも、相続に関する最初の窓口は電話受付となっていることがほとんどです)。 この連絡を行った時点で、亡くなった方の証券口座は「凍結」され、一切の売買や出金ができなくなります。同時に、証券会社から手続きに必要な書類一式(相続手続依頼書など)が自宅へ郵送されてきます。
ここからがご家族にとって大きな負担となります。証券会社へ提出するために、以下の公的な書類を役所等で集めなければなりません。
・ 亡くなった方の「出生から死亡までの連続したすべての戸籍謄本等」
・ 相続人全員の現在の戸籍謄本
・ 相続人全員の印鑑証明書(発行から3ヶ月~6ヶ月以内のもの)
・ 遺言書(ある場合)または 遺産分割協議書(誰がその株を引き継ぐかを話し合って決めた書面)
特に「出生から死亡までの戸籍謄本」は、転籍や結婚、法改正による改製などがあるたびに遡って取得しなければならず、一般の方にとっては非常に難易度が高く、平日の日中に何度も役所に足を運ぶ必要があります。
現金であれば、相続人の銀行口座に振り込んでもらって終わりですが、株式の場合はそうはいきません。 原則として、亡くなった方の株を引き継ぐためには、「相続人自身も、同じ証券会社に口座を開設しなければならない」というルールがあります。
例えば、亡くなったお父様がSBI証券で株を持っていた場合、その株を相続するお母様や息子様も、SBI証券に自分名義の口座(相続受領用口座)を新たに開設する必要があります。投資をしたことがないご家族にとっては、この口座開設の手続き自体が非常に高いハードルとなります。
無事に相続人の口座が開設でき、書類一式に不備がなければ、ようやく亡くなった方の口座から相続人の口座へと株式が移動(移管)されます。 移管が完了して初めて、相続人はその株をそのまま保有し続けるか、あるいは売却して現金化するかを自分の意思で決定することができるようになります。
このように、ネット証券の相続手続きは、口座の発見から移管完了まで、早くても1ヶ月、長引けば数ヶ月単位の時間と労力がかかります。
デジタル化に取り残されないための「最強の事前準備」
このような過酷な手続きから大切なご家族を守るために、今ご本人がお元気なうちにやっておくべき「最強の事前準備」をお伝えします。
どんなにデジタル技術が発達しても、最後の最後に家族を救うのは「アナログな紙の記録」です。 パスワードやログインIDまで書く必要はありません(セキュリティ上危険ですし、ご本人の死後に家族が勝手にログインして操作することは法律違反となる可能性があります)。
必要なのは、「SBI証券に口座がある」「楽天証券でNISAをやっている」という事実だけを、紙に書いて残しておくことです。 これさえあれば、遺された家族は迷わずその証券会社に連絡を取ることができ、専門家に手続きの代行を依頼することも容易になります。
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株式は現金と異なり、「A社の株を100株、B社の株を200株」というように銘柄ごとに分かれており、日々価格が変動します。そのため、遺産分割協議(家族間の話し合い)において、「誰が価値の上がりそうなA社をもらうか」で意見が対立し、親族間で揉める原因(争族)になりやすい財産です。
こうしたトラブルを防ぐためには、「遺言書」を作成し、「A証券会社の口座にある全株式は長男に相続させる」「B証券会社の株式はすべて売却して現金化し、妻と長女で半分ずつ分ける(清算型遺贈)」といったように、具体的な分け方をあらかじめご自身の意思として指定しておくことを強くお勧めいたします。 確実性を期すためには、ご自身で手書きする自筆証書遺言ではなく、公証役場で作成する「公正証書遺言」を選ぶと安心です。
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株の相続対策と整理は「元気なうち」が鉄則です
いかがでしたでしょうか。今回は、株の相続における節税方法から、ネット証券特有の手続きの難しさまで、かなり踏み込んだ内容を解説してまいりました。
① NISAの非課税枠は相続できないことを知る
② 生前贈与や生命保険の非課税枠を活用して、賢く節税する
③ ご自身の老後のために、NISAの出口戦略(売却)を実行する
④ ネット証券の存在を、必ず紙のメモで家族に知らせておく
⑤ 遺言書を作成し、株式の行方を明確にしておく
投資における運用益の追求も大切ですが、最終的にその資産をご家族へどのようにバトンタッチするかを考えることも、立派な資産運用の一部です。
株価は常に変動し、経済状況も変わります。そのため、対策には「時間」が最大の味方となります。もし将来、認知症などで判断能力が低下してしまうと、株の売却も、生前贈与も、遺言書の作成も一切できなくなり、資産が完全に「凍結」されてしまいます。
「自分にはまだ早い」「ネット証券の手続きは難しくて、何から手をつければいいか分からない」とお悩みの方は、決して一人で抱え込まず、専門家を頼ってください。
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