5月下旬、札幌は大通公園のライラックも美しく咲き誇り、いよいよ初夏を感じる清々しい季節となりました。
さて、今回のブログは 相続開始前7年以内の贈与 についてお話させて頂きます。
節税には様々な方法がありますが、年間110万円までの非課税枠を活用した「暦年贈与」を利用して、「毎年110万円まで、子供たちに贈与を始めよう!」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
しかし、ちょっと待ってください!
良かれと思って始めたその生前贈与、タイミングやルールを知らないと「節税のつもりが全く意味がなかった……」という悲しい結果になるどころか、残されたご家族のトラブル(いわゆる争族)の火種になってしまうかもしれません。
本日は、税制改正によって大きく変わった「相続開始前7年以内の贈与の持ち戻し(加算)ルール」と、税金だけでなく民法上の「特別受益」(※ 前回のブログを参照下さい)というもう一つの落とし穴について、徹底的に解説いたします。
ご自身の大切な財産とご家族の笑顔を守るための超重要なお話です。ぜひ最後までお付き合いください!
生前贈与のルールが3年から7年へ延長されました
まず、相続税と贈与税の関係における最大のルールを一つ覚えておきましょう。
それは、「亡くなる直前に慌てて贈与して財産を減らしても、相続税の計算上は無かったことにされてしまう」というルールです。これを専門用語で「生前贈与の加算(持ち戻し)」と呼びます。
これまでは、相続が開始した日(被相続人がお亡くなりになった日)から遡って3年前までに法定相続人(配偶者やお子様など)に対して行われた贈与は、たとえ年間110万円以下の非課税枠内であったとしても、相続財産に足し戻して相続税を計算しなければなりませんでした。
つまり、「自分がそろそろ危ないかもしれない」と思ってから慌てて子供に110万円ずつ贈与しても、3年以内に亡くなってしまえば節税効果はゼロだったのです。
ここからが本題です。税制改正が行われ、2024年1月1日以降の贈与から、この持ち戻し期間が3年から7年へと大幅に延長されました。
これは「もっと早くから計画的に資産移転をして経済を回してほしい」という国側の意図や、「富裕層の過度な節税を防ぐ」という目的があります。現在この記事を執筆しているのは2026年5月ですが、すでにこの新ルールは走り出しています。
7年前というと、かなりの長期間です。たとえば、75歳の時に「まだまだ元気だけれど、そろそろ子供に少しずつ財産を渡しておこう」と贈与を始めても、81歳でお亡くなりになった場合、その期間の贈与はすべて相続財産に加算されてしまう可能性があるということです。
「節税のつもりが意味なし!」という本記事のタイトルは、まさにこの「7年ルール」を知らずに直前で贈与をして満足してしまうケースを指しています。
7年ルールの経過措置と100万円控除の仕組み
「えっ!じゃあ今から贈与しても全部無駄になっちゃうの?」とパニックになる必要はありません。この法律には、移行期間(経過措置)と、少しだけ救済してくれる控除枠が設けられています。実際は2027年1月以降の相続に関して段階的に延長されるしくみとなっています。それまでは従来通り3年です。
実は、今日(2026年5月)亡くなった方の相続において、いきなり7年前(2019年)の贈与まで遡って加算されるわけではありません。
延長の対象となるのは「2027年1月1日以降に行われた贈与」からです。
| 相続発生の時期 | 持ち戻し(加算)される期間 |
| 2026年12月31日まで | 死亡前 3年間 |
| 2027年1月〜2030年12月 | 2024年1月1日から死亡日まで(※段階的に延長) |
| 2031年1月1日以降 | 完全に死亡前 7年間 |
つまり、現時点(2026年)ではまだ移行期間の真っ只中であり、完全に7年前まで遡るようになるのは2031年以降の相続からです。しかし、「今やっている贈与は、将来の相続で7年間分持ち戻される前提で動くべき」であることに間違いはありません。
具体例で確認してみましょう
現在(2020年)から毎年100万円ずつ贈与をしていると仮定します。もし【2029年7月1日】にお亡くなりになった場合、加算されるのはいつの贈与でしょうか?
正解:2024年1月1日〜2029年7月1日(5年6ヶ月間)の贈与が加算されます。
解説: 2029年時点では「完全に7年前(2022年)」まで遡るわけではありません。
2023年以前の贈与は古いルール(3年)が適用されるため、すでに3年以上経過している2023年以前の贈与は加算されません。
ルールが厳しくなった代わりに、ほんの少しだけアメも用意されています。
持ち戻し期間が3年から7年に延びた「延長分の4年間(死亡前4年〜7年前)」に行われた贈与については、すべてを加算するのではなく、「総額100万円までは加算しなくてよい」というルールができました。
※ 毎年100万円ではなく、4年間トータルで100万円です。
少額ではありますが、記録をしっかり残しておけば加算される財産を少し減らすことができます。
税金だけじゃない!民法の「特別受益」というもう一つの罠
さて、ここまでは税金のお話でした。
しかし、私たち行政書士が実際の相続現場で直面するトラブルは、税務署との戦いよりも「家族間の戦い(遺産分割協議)」であることが圧倒的に多いのです。
ここで絶対に知っておかなければならないのが、民法上の特別受益という概念です。
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特別受益とは、共同相続人(兄弟など)の中で、生前に被相続人(親)から「特別な財産をもらっていた人」がいる場合、それを相続財産の前渡しとみなして、遺産分割の際に計算を調整する制度です。
例えば、長男は家を建てる資金として親から1,000万円をもらったが、次男は一円ももらっていないとします。親が亡くなり、残った預金1,000万円を「兄弟で半分(500万円ずつ)に分けよう」と長男が言ったら、次男はどう思うでしょうか?
「兄貴は生前に1,000万円もらっているんだから不公平だ!」と怒りますよね。
これを公平にするため、長男が生前にもらった1,000万円を「特別受益」として計算上に持ち戻し、元々の財産は2,000万円だったと仮定して計算し直します。
ここで非常に重要な違いがあります。
・ 税制上の持ち戻し(相続税)
対象は「死亡前7年以内」の贈与(基礎控除等の枠内であってもルールに従い加算)。
・ 民法上の特別受益(遺産分割)
死亡前「10年」(2023年(令和5年)の民法改正により10年になりました)。
※ ただし、2028年4月1日までは猶予期間あり
・ 遺留分侵害額請求における特別受益
死亡前「10年」以内の贈与(2018年(令和元年)の民法改正で10年に制限されました)。
ここが落とし穴!
「生前贈与から7年以上経ったから、もう相続税には加算されない!大成功!」と安心していたとします。しかし、税金がかからなくなったからといって、他の相続人(兄弟など)からの「特別受益だ!ずるい!」という追求から逃れられるわけではないのです。
遺留分(最低限保障された相続分)の計算においては、死亡前10年間まで遡って計算されます。
「節税」ばかりに気を取られていると、相続税はゼロになったけれど、兄弟間でドロドロの裁判沙汰になってしまった……という悲劇が後を絶ちません。
税金対策と、もめ事対策(遺産分割対策)は、車の両輪として同時に考えなければならないのです。
よくある疑問にお答えします!【Q&A】
ここからは、生前贈与と相続税、そして特別受益に関してのご質問にお答えしていきます。
まとめ ~ 生前贈与を意味のあるものにするために
いかがでしたでしょうか。
本日は、昨日の「暦年贈与の基本」から一歩踏み込み、非常に重要かつ怖い落とし穴について解説いたしました。
ポイントをまとめると以下の3点です。
① 税務上のルール変更
相続開始前の贈与加算期間が3年から7年に延長された。直前の駆け込み贈与は節税にならない。
② 孫への贈与の活用
相続人とならない孫への贈与は、原則として7年の持ち戻し対象外であり、有効な節税策となり得る。
③ 法務(民法)への配慮
税金対策だけでなく、「特別受益」として他の相続人とのトラブル(争族)にならないよう、遺言書の作成などを含めた総合的な対策が必要。
生前贈与は、早ければ早いほど効果が高まります。7年ルールが導入された今、60代、70代のうちから計画的に対策を始めることが、残されるご家族への何よりのプレゼントになります。
また、税金のことだけを考えて偏った贈与を行うと、後になって民法上の「特別受益」として兄弟間の骨肉の争いを招きかねません。「木を見て森を見ず」にならないよう、税務と法務の両面からアプローチすることが不可欠です。
私たち行政書士は、遺言書の作成支援や、遺産分割協議書の作成を通じて、皆様の「争族」を防ぐための法務サポートを行っております。
「うちの場合はどうなるの?」「税金も心配だけど、子供たちがもめないようにしたい」など、少しでもご不安なことがありましたら、ぜひ札幌の当事務所までお気軽にご相談ください。
■ 札幌での相続・遺言のご相談なら
札幌市東区の「つしま行政書士事務所」では、実家の相続手続きや、遺言書の作成に関するご相談を承っております。 40年間の企業法務・契約業務の経験とFPの視点を活かし、ご家族の想いを形にするサポートをいたします。初回相談は無料ですので、一人で悩まずに、まずはお気軽にご連絡ください。
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