「家族に迷惑をかけたくないから遺言書を書いておこう」「自分の財産は自分で決めた通りに分けたい」そのような想いから、遺言書を作成される方が年々増加しています。しかし、せっかく時間をかけて書いた遺言書が、実は法律上無効だったというケースが意外と多いのです。
遺言書は、作成者が亡くなった後に効力を発揮するものです。つまり、無効であることが発覚したとき、本人はすでにこの世におらず、書き直すことも真意を説明することもできません。その結果、残された家族が混乱し、かえって争いの種となってしまうことも少なくありません。
行政書士の中でも話題となるのは、遺言書の無効は決して珍しいことではないことです。特に、ご自身で作成される自筆証書遺言において、法律の要件を満たさず無効になるケースが最も多いと言われています。
この記事では、遺言書が無効になってしまう「よくあるミス」を徹底的に解説するとともに、確実に皆様の想いをご家族に届けるための「正しい遺言書の作り方」について、行政書士の視点から詳しくお伝えいたします。これから遺言書を書こうと思っている方はもちろん、すでに書いた遺言書がお手元にある方も、ぜひご自身の遺言書と照らし合わせながら最後までお読みください。
遺言書の基本知識と種類
遺言書が無効になるケースを解説する前に、まずは遺言書の基本についておさらいしておきましょう。日本の民法で定められている遺言書には、主に以下の3つの種類があります。
最も一般的で手軽な方式です。遺言者が全文・日付・氏名をすべて自筆で書き、押印して作成します。紙とペン、印鑑があればいつでもどこでも作成できるため、費用もかからない方法です。しかし、その手軽さゆえに、法律の要件を満たさずに無効になってしまうリスクが最も高いのもこの形式です。
2019年の民法改正により、財産目録についてはパソコン作成や通帳のコピーの添付が認められるようになりましたが、本文部分は依然として全文自筆が必要です。また、2020年7月からは法務局による保管制度も開始され、利用すれば家庭裁判所での検認手続きが不要になります。
公証役場で公証人が作成する最も確実な方式です。法律の専門家である公証人が関与するため、形式の不備で無効になることはほとんどありません。証人2名の立会いが必要で、費用もかかりますが、確実性という点では圧倒的に優れています。原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もなく、家庭裁判所での検認手続きも不要です。
内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方式です。本文はパソコン作成や代筆も可能ですが、内容の法的有効性を公証人が確認するわけではないため、無効になるリスクは残ります。実務上はあまり利用されていません。
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遺言書が無効になる主要な8つのミス
ここからが本題です。現場で実際によく見かける「遺言無効の原因」を、代表的なものから詳しくご紹介します。
自筆証書遺言の最大のルールは「全文を自筆で書くこと」です。近年はパソコンやスマートフォンが普及しているため、「パソコンで打って印刷し、最後に署名と印鑑だけ押せばよいだろう」と考える方がいらっしゃいますが、これは完全に無効となります。
よくある誤りの例として、以下のようなケースがあります。
① 家族がパソコンで本文を作って、本人に署名だけしてもらった。
② コンサルタントが文案を代筆してしまった。
③ 手が不自由だからといって、親族が全部を書いてしまった。
これらはすべて「そもそも遺言としての方式を満たしていない」とされ、無効になってしまいます。体が不自由な方や高齢で筆記が難しい方は、公正証書遺言を選択することを強くお勧めします。
※ 例外として認められる財産目録
2019年の民法改正により、財産目録部分については、パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを添付したりすることが認められるようになりました。ただし、その場合でも、添付する目録のすべてのページに遺言者の署名と押印が必要となります。本文部分と混同しないよう注意が必要です。
遺言書には必ず作成した日付を自筆で記載しなければなりません。日付は、遺言能力(遺言の内容を理解し判断する能力)があったかどうか、また複数の遺言書が見つかった場合にどれが最新のものかを判断するための極めて重要な要素です。
無効になる日付の書き方の例
・ 「令和8年4月吉日」
・ 「2026年春」
・ 「母の誕生日に」
・ 日付の記載がそもそもない
これらの表現では具体的な日付が特定できないため、日付の記載がないものとみなされ、無効となる可能性があります。正しい書き方は和暦でも西暦でもかいませんが「令和8年4月10日」或いは「2026年4月10日のように、年月日を記載することです。
これにはしかかりとした理由があり、遺言書は「一番新しく書かれたものが有効」となるため、いつ書かれたものかを明確にする必要があるからです。また、その日に遺言者に「遺言能力(認知症などで判断能力が失われていなかったか)」があったかを判断する基準日にもなります。
自筆証書遺言には、遺言者の氏名の自署と押印が必須です。どちらか一方でも欠けていると、遺言書は無効となります。
署名に関する注意点
氏名については、戸籍上の正式な氏名を記載することが最も安全です。通称やペンネームでも遺言者本人であることが特定できれば有効とされる場合がありますが、トラブルを避けるためにも戸籍に記載された正式な氏名(フルネーム)を使用することを強くお勧めします。
押印に関する実務上の推奨事項
押印については、認印でも法律上は有効とされていますが、実務上は実印を使用することが推奨されています。実印を使用することで、本人が作成したという証明力が高まります。シャチハタ(浸透印)は劣化しやすいため避けるべきです。また、拇印(指紋)も法的には有効ですが、偽造を疑われるリスクを考慮すると、印鑑の使用が望ましいでしょう。
遺言書の内容が曖昧で、財産や受取人が特定できない場合、その部分が無効となります。第三者(銀行の担当者や法務局の登記官など)が見ても、どの財産を誰に相続させるのかが明確にわかるように書かれていなければなりません。
① 不動産の正確な記載方法
不動産については、登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されている情報を正確に転記することが必要です。「自宅の土地と建物」という表現だけでは、複数の不動産を所有している場合に特定できません。
所在:東京都世田谷区○○町○丁目○番○
地番:○番○
地目:宅地
地積:○○.○○平方メートル
② 預貯金の明確な指定
預貯金については、「○○銀行の預金」ではなく、金融機関名・支店名・口座番号・口座の種類を明記する必要があります。
○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号1234567
③ 受取人の特定
受取人についても、氏名だけでなく、生年月日や続柄なども併記しておくと、同姓同名の人物との混同を防ぐことができます。特に、法定相続人以外の第三者に財産を遺贈する場合は、住所も記載しておくとよいでしょう。
④ 曖昧な内容
「全財産を妻の〇〇に任せる」 このような内容の遺言書は、 それ自体が法的に無効になるわけではありませんが、手続きに使えない(実質的に無効と同じ状態になる)という非常に多いミスです。
「任せる」という表現は、「相続させる(所有権を渡す)」という意味なのか、「財産の管理を任せる」という意味なのかが法的に曖昧です。不動産の名義変更(相続登記)の際、法務局で受け付けてもらえない可能性があります。必ず「相続させる」または「遺贈する」という明確な法律用語を使用してください。
遺言書を書いている途中で書き間違えてしまった場合、その訂正方法にも厳格なルールがあります。間違った方法で訂正した場合、訂正自体が無効となり、元の記載が生きてしまう場合や、最悪の場合は遺言書全体が無効になることもあります。
① 法律で定められた正しい訂正方法
民法では、自筆証書遺言の訂正について以下の要件をすべて満たすことを求めています。
・ 訂正する箇所を明確にする(二重線などで消す)
・ 訂正した場所に押印する
・ 欄外に「○字削除、○字加入」などと訂正内容を記載する
・ 遺言者が訂正箇所に署名する
これらの要件を一つでも欠くと、訂正は法的に有効とはなりません。修正液や修正テープを使って書き直すことは認められていません。
② 書き直しの推奨
訂正箇所が多い場合や、大幅に内容を変更したい場合は、複雑な訂正手続きをするよりも、一から書き直すことを強くお勧めします。遺言書は何度でも書き直すことができ、最後に作成したものが有効となります。
遺言書を有効に作成するためには、遺言者が遺言能力を持っていることが必要です。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その結果を判断できる能力のことです。
① 認知症と遺言能力
高齢の方が遺言書を作成する場合、後から「認知症が進行していて遺言能力がなかった」と相続人に主張される可能性があります。遺言書を作成した時点で、遺言者が認知症などにより意思能力を欠いていたと判断された場合、その遺言書は無効となります。
② 予防策
このようなリスクを回避するためには、以下の対策が有効です。
・ 早めに遺言書を作成する(「まだ元気だから」と先延ばしにしない)
・ 公正証書遺言を選択する(公証人が遺言者の状態を確認)
・ 医師の診断書を取得しておく
・ 作成時の状況を記録として残しておく
遺言書の内容が完璧でも、発見されなければ意味がありません。また、発見されたとしても、改ざんや紛失のリスクがあります。
① 自宅保管のリスク
・ 遺言書の存在を誰にも知らせなかったため、相続人が見つけられなかった。
・ 遺言書を見つけた相続人が、自分に不利な内容であったため隠したり破棄したりした。
・ 火災や水害などで遺言書が滅失した。
② 法務局保管制度の活用
2020年7月から開始された法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用することで、これらの問題を解決できます。この制度の主なメリットは以下の通りです。
・ 法務局が遺言書を厳重に保管するため、紛失・改ざん・隠匿のリスクがない。
・ 保管申請時に法務局職員が形式要件をチェックしてくれる。
・ 家庭裁判所での検認手続きが不要になる。
・ 保管手数料は1件3,900円と比較的安価。
法定相続人以外(友人、事実婚の相手、孫など)に財産を渡す場合、法律上は「相続させる」ではなく「遺贈する」という表現を使うのが正確です。
正しい使い分け
・ 相続人に対して → 「相続させる」
・ 相続人以外に対して → 「遺贈する」
実務上、「相続させる」と「遺贈する」では、その後の手続きにも違いが出てくることがありますので、表現は正確に使い分けることが重要です。
正しい遺言書の作り方ガイド
無効になるリスクを避け、ご自身の想いを確実に実現するためには、どのような手順で遺言書を作成すればよいのでしょうか。
まず、自分が持っているすべての財産を把握することから始めましょう。
財産の棚卸しリスト
・ 不動産(登記簿謄本を取得して正確な情報を確認)
・ 預貯金(通帳を確認し、金融機関名・支店名・口座番号を書き出す)
・ 有価証券(証券会社の口座情報を確認)
・ 生命保険(受取人の指定状況を確認)
・ 負債(住宅ローンや借入金があれば把握)
家族関係の確認
戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人が誰なのかを正確に把握します。結婚歴、離婚歴、認知した子がいるかどうか、先妻の子・後妻の子など、相続人関係が複雑でないかを確認することが重要です。
財産の全体像が把握できたら、誰にどの財産を渡すかを決めます。このとき、遺留分についても考慮することが重要です。
遺留分の割合
法定相続人の遺留分は以下の通りです。
・ 相続人が配偶者のみの場合: 遺産の2分の1
・ 相続続人が子どものみの場合: 遺産の2分の1(子どもが複数いる場合は均等
に分割)
・ 相続人が配偶者と子どもの場合: 遺産の2分の1(配偶者と子どもでさらに分割)
・ 相続人が直系尊属(親など)のみの場合: 遺産の3分の1
なお、兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺言書の内容が決まったら、実際の文章を考えます。いきなり清書するのではなく、まず下書きをすることをお勧めします。
基本的な構成
第1条 遺言者は、次の不動産を長男 ○○太郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。
所在:東京都世田谷区○○町○丁目○番○
地番:○番○
地目:宅地
地積:○○.○○平方メートル
第2条 遺言者は、○○銀行□□支店 普通預金 口座番号××××××の預金全部を、
妻 ○○花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、行政書士 ○○○○(住所:○○県○○市…)を指定する。
令和○年○月○日
遺言者 ○○○○ ㊞
下書きの内容が固まったら、清書します。用紙のサイズや種類に制限はありませんが、A4サイズの白紙を使用することが一般的です。筆記用具は、長期間保存に耐えられるボールペンや万年筆を使用しましょう。
最終チェックポイント
・ 日付は具体的な年月日になっているか
・ 氏名は戸籍どおりのフルネームか
・ 押印はしているか(実印が望ましい)
・ 財産の特定が十分か
・ 相続人以外に渡す場合、「遺贈」と書くべきところを「相続」としていないか
作成した遺言書は、法務局の保管制度を利用することを強くお勧めします。法務局に預ける場合は、事前に予約を取り、本人が直接持参して手続きを行います。代理人による申請はできませんのでご注意ください。
公正証書遺言という選択肢
自筆証書遺言のリスクが心配な方には、公正証書遺言をお勧めします。
公正証書遺言作成の流れ
① 行政書士などと相談し、財産・家族関係・希望内容を整理
② 必要書類の収集(戸籍謄本、登記事項証明書、通帳コピーなど)
③ 文案の作成(専門家がサポート)
④ 公証役場と日程・内容の事前打ち合わせ
⑤ 公証役場で、公証人と証人立会いのもとで作成・署名押印
⑥ 正本・謄本を受け取り、自宅などで保管(原本は公証役場で保管)
公正証書遺言のメリット
・ 方式の不備による無効リスクがほぼゼロ
・ 原本が公証役場で保管されるため、紛失・改ざんの心配がない
・ 家庭裁判所の検認手続きが不要
・ 公証人が本人の意思確認と判断能力を確認するため、後から無効主張されにくい
費用について
公証人手数料は財産の額によって異なりますが、一般的には数万円程度です。自筆証書遺言と比べると費用はかかりますが、確実性という点では公正証書遺言の方が圧倒的に優れています。
専門家に依頼するメリット
遺言書の作成は、法律の知識だけでなく、将来発生しうる親族間の感情的な対立や、煩雑な相続手続きを見越した総合的な判断が求められる作業です。
法的に有効な文案作成
お客様のご希望やご家族の状況、財産の内容を丁寧にヒアリングした上で、法的に有効であり、かつ手続きの際に金融機関や法務局でトラブルにならない正確な表現を用いた遺言書の文案を作成いたします。
必要書類の収集代行
遺言書を作成する際には、相続人を確定するための戸籍謄本や、財産を正確に把握するための不動産の登記事項証明書、固定資産税評価証明書など、様々な公的書類を集める必要があります。行政書士は、これらの面倒な書類収集を職権で迅速に代行することができます。
公正証書遺言の作成支援
公正証書遺言を作成する場合、公証役場との事前の打ち合わせや文案の調整が必要となりますが、これらのやり取りも行政書士がすべて代理で行います。また、証人として立ち会うことも可能です。
遺言執行者への就任
遺言書を作成するだけでなく、将来の相続発生時に遺言執行者として指定していただくことも可能です。専門家が遺言執行者となることで、中立的な立場で迅速かつ正確に遺言の内容を実現し、ご家族の負担を大幅に軽減することができます。
専門家への相談をお勧めするケース
以下のような場合には、弁護士(争いのある場合)、行政書士(争いのない場合)などの専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。
家族関係が複雑な場合
・ 再婚しており、先妻の子・後妻の子がいる
・ 内縁の配偶者がいる
・ 認知した子、養子がいる
・ 海外在住の相続人がいる
財産の内容が多岐にわたる場合
・ 不動産が複数ある(自宅、賃貸用物件、地方の土地など)
・ 会社経営者や個人事業主で、事業用資産が多い
・ 株式、投資信託、非上場株などを保有している
相続人同士の争いが懸念される場合(弁護士案件)
・ すでに兄弟姉妹の仲が悪い
・ 親と特定の子どもとの関係がぎくしゃくしている
・ 過去の相続で揉めた経験がある
まとめ ~ 大切な想いを確実に届けるために
遺言書は、単なる財産の分け方を指定する書類ではありません。残されるご家族への「最後のラブレター」であり、ご自身の生きた証でもあります。
無効になる主要なミスの再確認
・ 全文を自筆で書いていない(パソコン使用・代筆)
・ 日付が不明確または記載がない
・ 氏名の自署または押印がない
・ 財産や受取人の特定が不十分
・ 訂正方法が間違っている
・ 遺言能力の問題
・ 保管方法の問題
・ 相続と遺贈の使い分け間違い
・ 保管方法の問題
・ 相続と遺贈の使い分け間違い
これらのミスを避け、正しい遺言書を作成するためには、早めの準備と専門家への相談が最善の方法です。
最後に
遺言書は「書くこと」より「有効に残すこと」が大切です。せっかくの想いが込められた遺言書が、「無効」という悲しい結末を迎えないために、そして、ご家族が笑顔であなたの思いを受け取ることができるように、ぜひ正しい知識を身につけて、適切な方法で遺言書を作成してください。
「遺言書を書いてみようかな」と思い立ったその時が、専門家に相談する最高のタイミングです。遺言書の作成に関する疑問や不安がございましたら、どうぞお気軽に行政書士にご相談ください。皆様の大切な想いを形にするお手伝いを、誠心誠意させていただきます。
※本記事の内容は、執筆時点の法令に基づいた一般的な解説です。具体的な手続きにあたっては、お住まいの地域の専門家(行政書士・司法書士・弁護士・税理士など)へ個別にご相談ください。
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